イタリア首相もセダンを捨てた?

イタリアに限って見ても、セダンの不人気は明らかだ。2024年7月の国内新車登録台数で、セダン専用車の「アルファ・ロメオ・ジュリア」は170台、「マセラティ・ギブリ」に至ってはたった7台である。欧州の有名中古車検索サイト「オートスカウト24」では、1万8000ユーロ(約293万円)台のギブリが容易に見つかることからしても、セダンの需要が極めて限定的であることがわかる。

1990年代までは、イタリアでもセダンは一定の人気があった。かつて「アルファ・ロメオ164」、「アルファ・ロメオ155」、「ランチア・テーマ」などに乗っていたという70歳台以上の人とたびたび出会うのは、その証しだ。

いっぽう今日のイタリアで、セダン需要が伸びない理由は2つ考えられる。

第1は、免許を取得したときからハッチバック、筆者が名づけるなら“ハッチバック・ネイティブ”の人々が今日のユーザー層の大半を占めるからである。彼らの多くは、教習車でさえ「フィアット・ウーノ」、初代「フィアット・プント」といったハッチバック車だった。その利便性を当たり前のものとしている人々が主流派なのである。

筆者自身はハッチバック・ネイティブではない。だが過去28年のイタリア生活で選んできた4台は、いずれも小型ハッチバック車だった。

もちろんセダン、こちらでいうところのベルリーナに心が動かされたこともあった。例えばイタリア名物ともいえる舗装が荒れた地方道で、ラゲッジスペースに無造作に搭載した積載物がきしみ音を立てるときである。トランクがあったら、もっと静かなのにと思う。あるいはもっと実質的な理由で、「中古車市場でセダンが安かったから」というのもある。今日でこそあまり違いはないが、かつては類似した仕様・年式・走行距離で比較した場合、ハッチバック/ステーションワゴンよりも手ごろな売り物が多かった。

しかし、いつも最後の最後でハッチバックを選んできた。大手チェーン系家具店で長尺物を購入したり、不用品をリサイクルショップに持ち込んだりするときに便利、という至って庶民的な理由であった。引っ越しも業者を頼まず、ハッチバック車に一切合切を載せて往復して済ませてしまったことがあった。こうした生活をしている以上、もはやセダンに回帰することは不可能である。

おっと、話を戻そう。イタリアにおけるセダン不振の第2の理由は、イメージだ。昨今セダンといえば、イタリアではフォーマルな観光ハイヤーの印象が強い。自家用車の印象が薄いのである。契機となったのは、フィアットの経営危機が表面化した2000年前後、ドイツのプレミアム系ブランドがイタリアの高級車市場を席巻したことだった。一般ユーザーは、利便性がハッチバックに似たステーションワゴン仕様を買い、ハイヤーのドライバーはセダン仕様を導入した。

ところがそうしたプロによるセダン需要も縮小しつつある。新型コロナウイルス感染症の各種規制が廃止され、観光産業が息を吹き返した2022年以降は、「メルセデス・ベンツVクラス」に代表されるミニバンに取って代わられつつあるのだ(当連載第764回参照)。

政治家の公用車もしかり。イタリア初の女性首相であるジョルジャ・メローニ氏も就任当初はアルファ・ロメオ・ジュリアを使用していたが、2024年1月頃からは「ステルヴィオ」を頻繁に使っている。