『クマにあったらどうするか』姉崎等、片山龍峯著(ちくま文庫) 924円 17刷、6万1700部 クマに遭ったことがない。動物園ではツキノワグマやマレーグマが見られるが、ヒグマとなると、北海道で民家の近くに出没したニュースくらいでしか接点がない。北海道のクマ(ヒグマ)について知るには、本書が最高の手助けになってくれる。アイヌ民族最後の狩人、姉崎等氏が語り、映像作家の片山龍峯氏が聞き手としてそれをまとめた本書。クマやその他の野生動物に関する知識の丁寧な説明のみならず、二〇世紀の北海道で、和人とアイヌの間に生を受けた姉崎氏の人生、彼の自然観、アイヌの文化、伝承までをも網羅していて、非常に重厚な内容だ。文庫版は二〇一四年刊行だが、相次ぐ獣害やアイヌへの関心の高まりから重版が続いている。

「祖父・鈴木貫太郎」鈴木道子さん 終戦後の未来、託した祖父

 個人的には、猟犬の逸話が大好きだ。種族を超えて完璧な意思疎通を図る一方、猟師に置いてけぼりにされると、
不(ふ)貞(て)腐(くさ)
れて家畜を殺す
悪戯(いたずら)
をするなどの各エピソードが
可愛(かわい)
すぎる。しかし本書の要点は、狩人が獲物であるクマなどの動物を先生とすることで、山の歩き方をはじめとして自然界の
理(ことわり)
を学んだ、という事実だろう。
 上手に狩りをするためには、獲物の心になってみるのだそうだ。〈イタチを捕るときはイタチになりなさいって。(中略)クマを獲るんだったらクマになりなさい。イセポ コイキ(ウサギ猟)のときはイセポ(ウサギ)にならなかったらそんなもの捕れないんだって。〉 我々の身の回りには、多様な他者がいる。これらの相互関係において、必然的に様々なコンフリクトが発生するわけだが、拒絶だけでは何も解決しない。意識の領域を拡大し、対象の存在を内面化すること、これが肝心なのだと、姉崎氏の言葉から僕は学んだ。(作家 鴻池留衣)
 
姉崎等
(あねざき・ひとし) 1923年生まれ。12歳で狩猟を始め、90年の春グマの狩猟禁止後は、ヒグマ調査に協力した。2013年死去。

 
片山龍峯
(かたやま・たつみね) 1942年生まれ。映像作家。アイヌ語に関する著書も多数。2004年死去。