『ごんぎつねの夢』本岡類著 新美南吉(1913~43年)の「ごんぎつね」を教科書で読んだ人は少なくないだろう。この童話を題材とした文芸ミステリーだ。

 中学校のクラス会にキツネの面の男が現れ、猟銃を持って立てこもる。警察に射殺された犯人は、恩師だった。〈埋もれている「ごんぎつねの夢」を広めてくれ〉。“遺言”を託された教え子のライター・有馬は事件を調べ始める。
 新美南吉を研究していた恩師の足跡を
辿(たど)
る中で、有馬は
夭折(ようせつ)
の作家の人生や、物語が成立した事情に触れていく。事件の動機と作品を巡る謎を巧みに絡め、鮮やかなラストまで一気に読ませるのは、ベテランの芸だろう。文庫書き下ろし。(新潮文庫、781円)(律)
『二人目の私が夜歩く』辻堂ゆめ著 高校生の茜は、「おはなしボランティア」をきっかけに、交通事故に遭い、寝たきりの生活を送る咲子と出会う。咲子の穏やかな人柄にひかれる茜だが、夜眠っている間に不可解な現象が起き始める。 ここまでは「昼」の章。自分の体を使い、夜の間だけでも咲子に好きなことをしてもらいたい茜と、茜の体を心配する咲子のやり取りが温かい。ただ、書き手は気鋭の若手作家。後半の「夜」の章になると、物語は次第にミステリーの様相を帯びてくる。 人には良い面も悪い面もある。昼夜の明暗は人の二面性を暗示しているかのよう。伏線が回収されるさまは圧巻だ。(中央公論新社、1870円)(千)