華麗な太刀さばきで悪を成敗する、やんごとなきヒーロー「暴れん坊将軍」を長年の当たり役とし、現代劇でも重厚な存在感で場を締める。7月には、芸能生活50周年記念公演がゆかりの深い明治座(東京・浜町)で控える大物――。
◎今利幸撮影 一方、近年は金ピカの衣装で陽気に舞い歌う。ちょっと面白がられている?なんて言ったら気を悪くしてもおかしくないが、サービス精神あふれる“上様”は意に介さない。「いじられるのは構わない。お客さんが楽しんでくれればいい」
本名は「鈴木末七」。7人きょうだいの末っ子として、愛知・豊橋で生まれた。人を笑わせるのが好きで運動神経も抜群。中学では水泳部からサッカー部に引き抜かれてキーパーを務めた。同じ頃、大工の父が日活の映画館の社長宅で仕事をし、もらった招待券で映画を見るように。ただ、当時の夢は大工かすし職人だった。高校を中退し、名古屋のすし店で働き始め、出前やお茶くみ、仕込みで魚をさばくこともあった。 それでも、「やっぱり男は冒険だ」。心を揺さぶったのは、石原裕次郎主演の映画「太平洋ひとりぼっち」(市川崑監督)。太平洋を単独横断する主人公に憧れた。17歳の時、上京して俳優になりたいと切り出した。 父は既に他界。きょうだいが反対する中、寡黙で働き者の母だけが「やりたいことをしなさい」と背中を押してくれた。石原プロモーションに入ろうと、履歴書を手に週刊誌で知った東京・成城の石原裕次郎の自宅を訪ねた。徒労だったが、そのあと上野の喫茶店で見つけた俳優養成所の募集広告が、役者人生の出発点となった。 その養成所を経て劇団フジに入団。舞台の主演を任されるなど経験を積んだ。「ここで一番にならないと世には出られないという思いでやっていた」。「松本二郎」という芸名を「松平健」に改めたのが1972年のこと。人気刑事ドラマ「太陽にほえろ!」に犯人役で出演し、「ウルトラマンタロウ」主役の最終選考に残ったこともあった。
勝新太郎の下で学び始めたばかりの21歳の頃 20歳のある日、主演舞台の脚本家が「座頭市」も手がけていた縁で、勝新太郎率いる勝プロダクションのプロデューサーが訪ねてきた。芝居を見ると「一度、勝に会ってみないか」。 フジテレビの控室。大スター・勝の後ろ姿が見えた。勝は振り向いて、足元から頭までジロッと凝視。そして低音が響いた。「おお、お前、京都来られるか」。あまりの迫力に「はい」と即答するだけだった。たった数分の出来事。「怖かった。やっぱり目力が強いんで」 仕事をくれるのかもしれない。淡い期待を胸に京都・太秦のスタジオに行くと、勝は「座頭市」の撮影を止め、カメラの前に立つよう指示した。「俺が言うから芝居してみろ」「ここに何十年ぶりに会うお母さんがいる。顔を上げて『お母さん』って言ってみろ」。いきなりのカメラテストだった。何とか終えると、勝が言った。「しばらく俺の横で見てろ。俺が演技つけたり、俳優さんがやったりする芝居を見て勉強しろ」 そのまま京都にとどまって1か月。さすがに劇団から連絡があり、勝の下でやる決意を伝えると、劇団の社長は言ってくれた。「いつでも帰ってきていいように籍は置いておくから」 勝の下で、待てど暮らせど役はもらえないが、独特の緊張感が張り詰めた撮影現場は貴重だった。「エキストラがひと言しゃべるタイミングが合わないと、どなる。撮影中に物音がしたらやっぱり怒る。怖かったし、集中力がすごかった」 数か月後、ようやくドラマ「座頭市物語」(フジテレビ系)にゲスト出演。演じたのは庄屋の息子で、浅丘ルリ子演じる三味線弾きと駆け落ちする役だ。大女優と共演する晴れ舞台に、普段は「セリフなんか覚えてくんな」と言ってセリフを含めた演技指導をその場で行う勝も、撮影前にホテルに呼んで稽古をつけてくれた。 翌年、ドラマ「人間の條件」(同)で初主演。以来、勝は「主役以外やったらダメだ」と相手役や客演を許さなかった。だが、仕事はなくても「勉強してこい」と給料はくれた。お陰でアルバイトに追われず、歌舞伎や映画を見ることができた。 そうして勝プロに来て3年、あの「天下の風来坊」が巡ってきた。23歳の時だ。(松崎美保)◆松平健(まつだいら・けん)のあゆみ1953年11月28日生まれ、愛知県豊橋市出身 75年 フジテレビ系「座頭市物語」で本格デビュー 76年 フジ系「人間の條件」で初主演 78年 テレビ朝日系「暴れん坊将軍」で主役・吉宗役2002年 同番組の最終シリーズ放送。以後も特番で復活 04年 「マツケンサンバ2」CD化。紅白歌合戦出場 08年 ドラマ「暴れん坊将軍」スペシャル 09年 舞台「座頭市」主演 21年 紅白に特別企画「マツケンサンバ2」で出場 22年 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で平清盛役 24年 7月に明治座で記念公演。秋、NHK連続テレビ小説「おむすび」でヒロインの祖父役として出演
![[テレビ] [週刊エンタメ]STORY・松平健 俳優<1>大スターの「ジロッ」から奇妙な弟子生活が始まった…勝は言う「主役以外やったらダメだ」 [テレビ] [週刊エンタメ]STORY・松平健 俳優<1>大スターの「ジロッ」から奇妙な弟子生活が始まった…勝は言う「主役以外やったらダメだ」](https://www.walknews.com/wp-content/uploads/2024/05/1715897782_20240516-OYT8I50108-1-1024x576.jpg)