
なぜニュージーランド人がこぞってオーストラリアに移住しているのか
(ブルームバーグ):何十年もの間、より高い賃金やさまざまなチャンスを求めるニュージーランド(NZ)人にとって、オーストラリアに移り住むことは手軽な選択肢だった。ビザ(査証)は不要で、タスマン海を挟む両国は飛行機でわずか3時間ほどの距離にある。
こうした安定した人の流れについて1970年代後半、当時のマルドゥーンNZ首相は「両国の平均IQを引き上げている」と冗談を飛ばした。だが最近は、出国者の多さに加え、アーダーン元首相も移住したことが今年報じられ、国内で神経をとがらせる問題となっている。
移住による国外流出は今や、11月のNZ総選挙を控え、賃金や機会などを巡りNZの未来にとって何を意味するのかという議論に拍車をかけている。
人口流出はどの程度深刻なのか
今年3月までの1年間に豪州へ移住したNZ人は4万1350人に達し、2025年9月までの1年間に記録した12年ぶりの高水準である4万1550人に迫った。
豪州への移住者は05−19年に年平均約3万7000人だったが、新型コロナウイルス禍の国境閉鎖で渡航が制限された21年には1万7000人を下回った。直近の数字は、5万5000人を超えるNZ人が豪州へ移住した12年のピークをなお下回っている。
26年1−3月には1万2471人のNZ人が豪州へ移住し、第1四半期として13年以来の高水準となった。若者が学業を終えて海外で機会を求めるため、移住者は通常、年初に増える。
TBS CROSS DIG with Bloomberg
NZ統計局は、国外に出る国民の半数超が20−39歳と推計している。公式統計では年齢別の移住先は示されていないものの、より高い賃金と大きな労働市場を求める若いNZ人にとって、豪州は長年人気の移住先となっている。ここ数年は若者だけでなく、特にテクノロジーや金融業界の幅広い年齢層の労働者に加え、警察官や看護師、技能職も移住している。
それでも、人口530万人のNZ全体から見れば、国外への移住者は依然として少ない。NZはなお、出国者を上回る人々を受け入れており、8月までの12カ月間の純移民増加数は2万500人だった。
なぜ豪州への人口流出が進んでいるのか
NZからの移住先として豪州は群を抜いて多く、より高い賃金と良好なキャリア機会が大きな魅力となっている。賃金格差は大きい。
豪州の平均週給(通常労働時間)は約2084豪ドル(約22万8200円)。NZは1701NZドル(約15万1600円)で、現在の為替レートでは約1367豪ドルに相当し、この比較では、豪州で働けば約52%多く稼げる計算になる。
格差は賃金だけではない。NZの若年失業率は4−6月期に16.6%だった。これに対し、豪州は8月時点で10.8%。人口と経済規模がはるかに大きい豪州では、仕事の選択肢も幅広く、場合によってはより早期のキャリアアップも期待できる。
豪政府はNZの労働者を積極的に呼び込んでおり、医療や幼児教育、警察・刑務所業務などの分野で採用キャンペーンを展開している。より高い賃金や移住支援策を提示するケースも多い。NZからの移住者は豪州の技能人材不足の緩和に寄与してきた一方、人材流出によってNZでは病院など一部の基幹サービスが人手不足に陥っている。
ただ、豪州では最近、移民受け入れに逆風が吹き始めている。移民数の大幅削減を求めるポピュリスト政党ワン・ネーションの台頭もあり、政府は受け入れを抑制するため規制を厳格化している。それでもNZ人の豪州移住には上限がないため、NZの事例は移民流入を抑えることの難しさを浮き彫りにしている。
豪州とNZの経済を比較すると
名目国内総生産(GDP)で見ると、豪経済の規模はNZの6倍超で、約1500万人の労働力人口も5倍以上に上る。この規模と多様性により、移住する人にはより幅広い仕事と、総じて高い賃金が提供されている。
両国経済はいずれも拡大しており、豪州は26年6月までの1年間に2.1%成長した。NZ経済は同期間、2.6%成長だった。
ただ、NZ経済にはより楽観的な見方がある。中央銀行は今年これまでに政策金利を2.75%まで引き上げたものの、豪州の政策金利4.6%をなお大幅に下回る。国際通貨基金(IMF)は27年のNZ経済の成長率を2.6%と予測しているのに対し、豪州は1.6%と見込んでいる。
NZの労働市場は引き続き弱く、失業率は11年ぶりの高水準となる5.6%に達している。企業投資の持ち直しに伴い失業率は低下すると予想されているものの、近い将来に豪州の水準に近づく公算は小さい。一方、豪州の失業率も上昇しており、豪統計局が15日に発表した9月の失業率は4.7%。5%を上回ったのは21年が最後だ。
人口流出はNZに何を意味するのか
国外への人口流出は、11月7日の総選挙を前に大きな政治問題となっている。
野党・労働党のヒプキンス党首(前首相)は人口流出を取り上げ、国内の高い生活費と機会の乏しさに結び付けている。年初の演説では、毎週約2000人のNZ人が「ここに将来が見えないから」国外へ出ていると指摘した。
同党首は「若い専門職、看護師、教師、ここで住宅を建てるはずの技能職……。彼らは皆、同じことを言っている。『NZが好きだ。ここで家庭を築きたい。でも、ここでは前に進めない。家を買う余裕がない。自分が訓練を受けた仕事も見つからない』」と述べた。
政治以外にも、経済面で影響が生じ得る。持続的な人口流出は国内消費を圧迫し、利用可能な労働力を減らし、住宅市場の活動を鈍らせる可能性がある。
NZからの移住者流入は豪州に何を意味するのか
深刻な人手不足に直面する豪州にとって、NZからの流入は労働力をタイミングよく補う役割を果たしている。NZ人は建設や医療などのサービス業で求人を素早く埋めるのに貢献してきた。
エコノミストらによると、タスマン海を挟んだ両国間の人の移動は経済的に効率が良い。他の技能移民制度に伴う行政手続きの遅れや定住コストが生じず、労働力を迅速に拡大できる上、職業上の基準を共有しているため、多くの資格を容易に移行できる。
負担が強まっている分野の一つが住宅だ。新たな移住者は賃貸住宅需要を押し上げる。特にシドニーとブリスベン、パースでは空室率が低く、住宅建設が人口増加に追い付いていない。移住者によって労働供給が増えたとしても、住宅市場は新築住宅を速やかに供給できないため、短期的には家賃や住宅価格への上昇圧力が強まる。
財政面では、NZからの移住者の大半は若く、就業しているため、長期的には政府から受け取る給付よりも納める税金の方が多いのが一般的だ。ただ、人口増加に対応するには学校や病院、交通への先行支出が必要となり、人口増加のペースが公共サービスの拡充を上回っているのではないかとの議論につながっている。
豪州で繰り返し政治的な懸念となっているのは、タスマン海を挟んだ両国間の制度を利用し、第三国からの移民がNZを「裏口」として豪州に入国し、市民権や社会保障制度にアクセスできるのではないかという点だ。
後に豪州へ定住したNZ国民にはNZ国外生まれが多いことがデータで示されているものの、豪州の移民規則を回避することを主な目的としてNZへ移住しているとの信頼できる証拠はない。
原題:Why New Zealanders Are Moving to Australia in Droves: Explainer(抜粋)
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