イタリアで蒲焼【イタリア通信】

在ヴァチカン日本大使館は、日本文化を紹介する一環として、ヴァチカン駐在の各国大使や外交官、ローマ教皇庁の聖職者らを招き、日本のウナギのかば焼きを披露。招待客の中には、東京大司教区の大司教を務める菊池功枢機卿の姿も見られました。

この催しは北九州市・小倉の「田舎庵」の協力で実現したもの。同店のオーナー、緒方洋さんと息子の仁さんは、15年以上前から、北イタリアのコマッキオで毎年開催される「Sagra dell’Anguilla(ウナギ祭り)」に参加しています。今回は特別にローマを訪れ、日本式のウナギ料理、かば焼きの調理を披露しました。

大使公邸の実演会場

大使公邸の実演会場

コマッキオは、ヴェネツィアの南約100キロ、ポー川の河口に近い町です。

この町の「ウナギ祭り」は1999年に始まった、イタリアのSagra(収穫祭り)としては比較的新しいものですが、古代ローマの時代から炭焼きにしたウナギにハチミツや魚醤などを塗って食べていたとのこと。また、ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の壁画に書かれた魚はウナギだとも言われており、ウナギと付き合いはとても長いようです。

現在のコマッキオは人口約2万2千人の町ですが、中世には船団を持ち、特産の塩をはじめ、地中海から運ばれてきた物資をポー川をさかのぼって北イタリアの内陸部へ運ぶ交易の拠点として栄え、ヴェネツィア共和国と度々矛を交えています。

美味しそうにウナギご飯を食べる人

美味しそうにウナギご飯を食べる人

コマッキオのウナギは、capitone(大ウナギ)と呼ばれ、一般に anguilla と呼ばれるウナギと違い重さは1キロほどあり、中には3キロに達するものもあります。日本のウナギよりずっと大きいものの、実際に味わったかば焼きは、日本のものとあまり変わらず、とても美味でした。

緒方さん親子は2015年からこのウナギ祭りに参加し、ウナギのさばき方からかば焼きの作り方までを披露して、地元の人々から大好評を得ています。

コマッキオの会場で大ウナギを持つ緒方仁さん

コマッキオの会場で大ウナギを持つ緒方仁さん

今回、大使公邸に招かれた人たちの多くは、かば焼きを食べるのが初めてだったのではないでしょうか。皆、おいしそうに箸を進め、中にはお代わりをする人もいました。

ところで、私にとってもウナギには忘れられない思い出があります。

今から40年ほど前のことです。亡くなった妻が、ローマのヴィットリオ広場の市場で30センチほどの生きたウナギを20匹ほど買ってきて、「かば焼きが食べたいので買ってきたけれど、私は触るのが嫌だから、あなたが料理して」と、私に押し付けたのです。

インターネットもない時代です。料理の仕方など、まったく分かりません。

以前、何かで「ウナギを冷蔵庫に入れておくと動きが鈍くなり、料理しやすくなる」と読んだのを思い出し、とりあえず一晩、冷蔵庫に入れておきました。

翌日、厚い板に釘でウナギを固定し、さばき始めました。悪戦苦闘の末、何とかすべてを開き、フライパンで焼いて、自家製のたれをかけ、どうにかかば焼きらしいものを作り上げました。

妻は「おいしい」と言って食べてくれましたが、私はさばいたときの手の感触や生臭さ、さらにはウナギがキーキーと鳴いていたような気がしたことまで頭から離れず、その日はとても食べる気になれません。翌日になって、ようやく口にすることができました。

さて、かば焼きによく合うのは、やはり日本酒。今回の実演会では、すでにヨーロッパにも進出している日本酒「獺祭」が振る舞われました。招待客は、日本酒を味わいながらかば焼きを楽しみ、皆、満足そうな表情を浮かべていました。

「田舎庵がローマに支店を出してくれたらな」と思ったのは、きっと私だけではなかったでしょう。

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