昨年、「わたSHIGA輝く国スポ 第79回国民スポーツ大会」(滋賀県長浜市・湖北THGツインアリーナ)が実施されたあと、同大会アンバサダーの穴井隆将氏より「国民スポーツ大会の未来を考える」というテーマで寄稿を頂きました。同大会の盛り上がりを伝え、「国スポ」の可能性はもちろん柔道大会というイベント自体の将来性について語る、熱い内容でした。
編集部の力不足で掲載のタイミングを逸してしまっておりましたが、あさってから今年度の国民スポーツ大会柔道競技が始まること、また、本日eJudo「栄光の記録」にこの大会の記録を加えさせて頂いたいまが好機と捉え、皆さまにご紹介させて頂きます。
あらためて、いま思い出しても素晴らしい大会でした。関係者の皆さまにお礼を申し上げますとともに、掲載が遅くなりましたことをお詫びいたします。
(編集部・古田英毅)
【寄稿】「湖国の感動 未来へつなぐ」わたSHIGA輝く国スポ 第79回国民スポーツ大会柔道競技会を終えて
~本大会から見る国スポの過去・現在・未来~
大会アンバサダーを務めた穴井隆将氏(右)。当日は中村美里氏とともにLIVE配信の実況・解説も務めた。
寄稿:穴井隆将(天理大学柔道部師範)
1.はじめに
第79回国民スポーツ大会柔道競技会は、2025年10月5日から7日まで、湖北THGツインアリーナにて開催された。振り返ると筆者は、2021年1月に滋賀県スポーツ協会主催の講演会に招かれ、本大会の機運醸成の機会をいただき尽力させていただいた。また、昨年より長浜市スポーツ大使として、3年にわたる合宿の開催や、長浜市内中学校における講演、さらには幼稚園(保育園・認定こども園含む)訪問など、おこがましくもスタッフの一員のつもりで携わってきた。故に、本大会の感動をこのまま放っておくわけにはいかないと考え、僭越ながら筆を執らせていただいた。拙い文章であることは百も承知で、ご一読いただけると幸いである。
会場の長浜ツインアリーナ
2.現役時代の筆者が考える国スポ(旧:国体)の位置づけと価値
現役時代の筆者自身を振り返ると「国体なんてできるだけ出場を避けたい」、「講道館杯前にやるべき大会ではない」など、これが正直な気持ちだった。つまり、大会としての優先順位や価値は決して高くなかった。
かつて、成年男子は47都道府県すべて出場可能であり、他方、少年男子、成年女子(3人制)、少年女子(3人制)は各地区ブロック予選が行われ、勝ち抜いた都道府県のみ本大会に出場できる制度であった。故に、現在と比べ、全日本強化選手クラスの出場は少なく、開催県だけ気合が入っている“全体的な盛り上がりに欠ける”大会であった。
事実、筆者自身の参加履歴を振り返ると、2001年(宮城県:高校2年)、2002年(高知県:高校3年)、2004年(埼玉県:大学2年)、2005年(岡山県:大学3年)、2006年(兵庫県:大学4年)、2007年(秋田県:社会人1年目)、2008年(大分県:社会人2年目)である。2009年全日本選手権制覇以降は国スポ(当時は国体)に参加していないことからも、自身の大会の位置づけや重要度の認識が低かったことは明らかである。
3.地元の国スポに向けた見えない努力
はじめに書かせていただいたように、2021年1月、比叡山高校米富和郎監督より、「2025年の国スポに向けて中学生や高校生に講演してほしい」という依頼をいただいた。また、2022年3月には長浜市の中原善幸氏より、「長浜市民向けに国スポ機運醸成の講演をしてほしい」と依頼をいただいた。当時を振り返ると、参加者は国スポの開催に向けてというよりも、むしろただ「穴井の話を聞きに来た」という印象であった。恥ずかしながら、ご依頼いただいた期待に応えられず、機運醸成など、とても及ばなかったことが懐かしい。
しかし、滋賀県の皆様は温かく、懲りずに私を起用してくださり、2023年7月にはターゲットエイジ(当時の中学校3年生)を対象に「全国中学校大会に向けた心構え・県代表としての心構え・国スポに向けて」というテーマで講義を行った。その折に合同練習の稽古前、控室で更衣をしている私の横で、滋賀県の先生方がスカウトについて議論していた。滋賀県の先生方が喧々諤々と議論し、真剣な眼差しで優勝を目指す姿が非常に印象的だった。
2022年12月から、天理大学柔道部は長浜市(現在の湖北THGツインアリーナ)で年末合宿を開催していただいている。滋賀県内の高校生や中学生、地元の子供たちと交流する機会をいただき、形式的ではなく実践的に機運醸成に寄与する機会をいただいた。厚かましくも長浜市長の歓迎に甘え、毎年開催する中でスポーツ大使への任命も受託した。大使としての役割は、長浜市内の中学校を巡回し講演を行うものだった。さらに「国スポ・障スポの会場にぜひお越しください」というPRも重要な仕事であった。
滋賀県・少年男子チーム。当日は保育園児たちの「しが、がんばれ!」の大合唱を受けて、凄まじい気合いの入りぶりだった。
また、長浜市の園(幼稚園・保育園・認定こども園)を訪問して行う柔道体験(※柔道だけでなく相撲やソフトテニスも開催)の開催は、国スポ開催を機に、柔道の普及に寄与する有意義な企画であったと思う。また、五輪メダリストや元世界チャンピオンなど、有名な選手が長浜市を訪問したことも国スポの認知度を高めた。中原氏の地道な努力によって、長浜市民の「国スポを見る目」が養われ、柔道観戦の準備が着々と整っていった。隣で見てきた私にはとても勉強になった。
滋賀県柔道連盟、長浜市、大会実行委員会、そして長浜市民。一人ひとりが着々と大会の成功に向けて積み上げていく様子は、今更ながら記録に残しておきたかった。ただ、その一員として携わらせていただいたことは、かけがえのない宝物である。
4.今大会を振り返って

すでに大会結果はご存じの通り、地元・滋賀県の総合優勝であった。ここでは、大会運営、観客の盛り上がり、競技全般の戦いについてそれぞれ振り返りたい。
まず、大会運営であるが、入念な準備の成果が会場のいたるところに表れていた。昨年度、全日本実業柔道団体対抗大会を実施した経験から、動線の見直し、観客席数の確保などいくつもの改善点が見られた。当然ながら、試合数や参加チーム数、実施形態は実業団体と異なるが、その中で「国スポ仕様」を完全に表現した。報道席にたこ足配線用の電源タップを設置したり、観客に見えやすいオーロラビジョンを設置したり、会場外の売店やキッチンカーのスタッフも、ビジョンで試合を見られるように工夫されたりしていた。会場内で撮影中の動画が決勝戦前に流れるなど、まるで結婚式のエンドロールを眺めているかのような演出も粋であった。
配布されたスティックバルーンの「絵」と「音」が会場を盛り上げた。
次に、観客の盛り上がりについて。3日間を通して連日の満員御礼であり、言わずもがな盛り上がった。心配していた通り、立ち見の観客が出るほどの大盛況であった。各都道府県から応援に駆け付ける家族、親族はもちろん、地元滋賀県の応援がとても多く、別枠で確保された地元の子供たち用の席には、園児から小学生、中学生が引っ切り無しに訪れた。スティックバルーンを膨らませ、地元・滋賀県の選手だけでなく、学校の授業で学んだであろう都道府県名を大きな声で叫びながら応援していた。また、素晴らしい一本には拍手を送り、敗れた選手には労いの拍手を送る。参加した選手も経験したことのない温かさを感じたのではなかろうか。加えて、以前と比して元世界チャンピオンや全日本強化選手がたくさん出場していた。その点は玄人にも満足感を与えるとともに、筆者自身、時折、実況・解説業務を忘れワクワクしながら、日頃見られない対戦カードに見入ってしまった。それと同時に、かつて自分自身が国スポに対して「国体なんてできるだけ出場を避けたい」と考えていたことが恥ずかしくなり、どことなく切ない気持ちにもなった。
最後に、競技全般「戦い」について。どの都道府県も一線級の選手をそろえているだけに実力は拮抗しており、あっさり勝負が決する試合は少なかった。上述のように出場選手のレベルの高さに比例して試合内容もハイレベルで、試合場に漂う「ピーンと張りつめた空気感」も良かった。また、2017年から変更となったレギュレーションも、現在では大会の盛り上がりという点で、一定の効果を発揮していると考える。女子を成年・少年混成チームとし、すべての種別が各ブロック予選を通過しなくてはならなくなったことも、国スポに向けた各都道府県の力の入れように変化をもたらした。2031年に国スポを控える奈良県は、現在鋭意強化に取り組み始めたところであるが、抜本的に奈良県柔道連盟も含めて「国スポの価値向上」を共通目標に据えて取り組むべきだと、改めて考えさせられた
滋賀県女子は長年の強化が実り、盤石の優勝
地元・滋賀県の戦いを振り返ると、女子は盤石の優勝。今大会は2回戦から登場し、決勝までの5試合を無失点で勝ち抜いた。高校生のカテゴリーは、今夏全国高校総体を制した比叡山高校で構成し、成年のカテゴリーも比叡山高校卒業生でまとめるなどチームワークの良さも際立った。優勝が至上命題の中で、年々着々と成果を挙げて地元で優勝するという最高のシナリオをやってのけた女子チームはあっぱれであった。成年男子は、若さとベテランを融合させ、いわゆる国スポ仕様でチームを構成した。昨今、国スポ開催県の選手起用や就職採用について賛否両論あるが、昨年(2024年)のウルフ・アロン氏を起用した佐賀県の優勝と、会場の盛り上がり、さらには今年の滋賀県成年男子の活躍や会場の応援から見れば、国スポ仕様のチーム構成は納得できる。そのチーム構成で、個々の選手が大事な場面で実力を発揮して役割を果たす「これぞ団体戦」をやり遂げての準優勝だった。
少年男子決勝。滋賀県は最強チーム・福岡県を相手に大将戦ギリギリで代表戦に持ち込む。
少年男子は、ドラマティックだった。大方の予想を覆す準々決勝の神奈川戦、さらにジャイアントキリングを達成した準決勝の東京戦は、滋賀県民、長浜市民以外の方も気が付けば滋賀県を応援していた。さらに決勝、全国高校総体優勝者3名を擁する福岡県相手にも、大将戦の逆境を乗り越えて代表戦まで勝負を持ち込む大健闘は、正直予想できなかった。この力は何なのか…大会後、答えを見つけ出そうと熟考した。現時点で考えられることは、この日まで大会を作り上げてきた方々の思いや、選手強化をされてきた滋賀県の柔道に携わる方々の信じる気持ち、応援の方々の決してあきらめない姿、そしてそれを受け止めて戦う選手たち。幾人もの思いが会場を渦巻いて、対戦相手はまるでその渦に巻き込まれていくようであった。
国スポは面白い。そして柔道は本当に面白い。筆者にとって、国スポ大会以外を含めても近年稀にみる大会となった。心が動くとはこのことかと感動を覚えて会場を後にした。
5.これからの柔道大会の在り方
柔道の大会は面白いということを今回の国スポでお判りいただけたであろうか。これまでに見てきた様々な柔道大会も工夫を凝らし、選手の視点、運営の視点、観客の視点など、多面的に検証されてきたことは言うまでもない。しかし、数年にわたる準備、地域を巻き込んだ取り組み、さらには大会当日の運営も含め、今大会は本当に充実していた。この感動を多くの柔道関係者と共有したい一心でeJudo古田編集長に無理を言って筆を執らせていただいた。今回の記憶は、必ずや未来につながる。
最後に、僭越ながら未来の柔道大会に向かって提言したい。柔道は、伝統を重んじる部分と変化していかなければいけない部分をもっと考えるべきである。第79回という歴史を重ねた国民スポーツ大会(旧国民体育大会)でさえ、2017年の種別変更(※理由は様々あったと思うが)により、以前よりもトップレベルの選手が畳に上がり競い合う見応えのある大会になった。筆者自身が蔑んでいたことを悔いるように、国スポの価値は格段に向上している。そして国スポは、都道府県の持ち回りである。柔道人気の回復や登録人口の拡大を目指す上で、容易ではないことは承知しているが、やり方次第では一つの起爆剤になる可能性を秘めている故に、真似ることもあっていい。何もすべての大会の運営方法を変えろと提言しているわけではない。守るべき部分は守り、変化できる可能性、開拓できる可能性を最大限考えていこうという提言である。一人の知恵が、一人の思いが、一人の行動が「何か」を動かす瞬間に立ち会っただけに、黙ってはいられなくなった。
6.おわりに
若輩者が偉そうに延々と述べる拙い文章に最後までお付き合いいただいた方々に心より深く感謝申し上げるとともに、本寄稿文が何かの変化をもたらすきっかけとなることを切に願うところである。滋賀県柔道連盟、長浜市、大会実行委員会の皆様方のご尽力、ご努力に心より敬意を表し、感動をいただいたことに深く感謝申し上げ、筆をおく。
(了)
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