2027年FIFA女子ワールドカップまで約9カ月。新たなコーチ陣による分業が進み、高橋はながキャプテンに就任したなでしこジャパンは、10月の欧州遠征でハイチ、そしてFIFAランキング3位のドイツと対戦した。1-2で敗れたドイツ戦では、新体制で取り組んできた戦術が形になる場面があった一方、世界トップクラスを相手に90分をどう戦い、勝利につなげるかという課題も残った。現地ブレーメンで見えたチームの変化と、ワールドカップに向けた課題を現地取材を通して追う。

(文・本文写真=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=picture alliance/アフロ)

育成年代にも集まる観客。ブレーメンで見た女子サッカーの日常

試合開始が近づくにつれ、ヴェーザーシュタディオンのスタンドが埋まっていく。10月13日、ドイツ・ブレーメンで行われたドイツ女子代表となでしこジャパンの一戦には、2万6574人が詰めかけた。

家族連れや子どもたちから、一人で訪れる若者や高齢者まで、年代や性別を問わず幅広い層が集まっていた。

ドイツの選手が好プレーを見せればスタンドから大きな拍手が起こり、ゴールに迫れば声援が一段と大きくなる。熱気はありながら、相手を威圧するような空気はない。日本にとっては敵地での一戦だったが、いわゆる「アウェー」の圧迫感よりも、サッカーの一つひとつのプレーを楽しみ、後押しする空気が強く感じられた。

こうした光景は、この日だけのものではなかった。

前日の12日、ヴェーザーシュタディオンに隣接する「Platz 11」では、ドイツU-23女子代表とスウェーデンU-23女子代表の国際試合が行われていた。

陸上トラックを備えた小規模なスタジアムだが、約1000人分の座席はほぼ埋まり、立ち見エリアにも多くの観客が集まっていた。翌日に日本戦を控えたドイツ女子代表の選手たちもスタンドから試合を見守っていた。A代表のビッグマッチならともかく、育成年代の代表戦にもこれだけ幅広い層が足を運び、試合を楽しんでいる。

ドイツ女子ブンデスリーガの1試合平均観客数も、2021-22シーズンの806人から2025-26シーズンには3592人へと増加。シーズン総観客数は65万3750人に達した。

2011年、自国開催の女子ワールドカップで3連覇を狙ったドイツを、日本は準々決勝で1-0で破った。当時はドイツのクラブが欧州を牽引していたが、その後は各国リーグが発展し、トップ選手の舞台も欧州各地へ広がった。

そうした変化の中でも、サッカー観戦文化が根づいたドイツ国内では、「女子サッカーを見る日常」も着実に広がっている。その地で、なでしこジャパンは世界ランキング3位のドイツと7年ぶりに向き合った。

分業が進む新体制、明確になった戦術

2027年女子ワールドカップまで約9カ月で迎えた欧州遠征。5月に就任した狩野倫久監督は、今回の欧州遠征で「さまざまな相手に対する戦術の幅を広げていくこと」をテーマに掲げた。

また、上下関係なく選手たちと接し、高い基準で要求し合える関係を築ける資質を評価し、高橋はなを新キャプテンに、山下杏也加を副キャプテンに指名した。

6月から内田篤人コーチが加わり、アジア競技大会後には石井正忠コーチがスタッフ入り。石井コーチが攻撃、内田コーチが守備、佐野智之GKコーチと近賀ゆかりコーチがそれぞれセットプレーの攻撃と守備を担う。専門性を持つコーチがそれぞれの領域を担い、なでしこジャパンでも戦術面の分業が進んでいる。特に、石井コーチが加わった今回の活動では、攻撃の組み立てにもより具体的な狙いが落とし込まれた。

「これまでは攻撃の形やビルドアップも、個々のアイデアやコンビネーションに委ねられている部分がありましたが、今はチームとしての攻撃の方法や、相手のどこを狙うのかが具体的に示されています」(清家貴子)

10月9日の初戦・ハイチ戦は5-1。大量得点を奪った一方で、ボールを失った後にカウンターを受け、自陣でのミスから決定機を招く場面もあった。中3日で臨むドイツは、攻守の切り替えも、その後のプレーの精度も上がる。ドイツ代表選手も多いバイエルンでプレーする谷川萌々子は、「リスク管理ができていなければ、一本のパスでやられる怖さがある」と警戒していた。

センターバックから縦、あるいは対角へ飛んでくるロングボールをどう封じるか。藤野あおばが挙げたポイントは、ドイツ戦で重要な意味を持つことになる。

「自分たちがどこに追い込んで、どこでボールを取りたいのか、狩野監督が就任してから一番明確に伝えられていますし、選手同士の距離感や配置も大事になると思います」

世界3位ドイツに敗戦。それでも見えた収穫

ドイツ戦は、谷川萌々子のゴールで日本が先制したものの、1-2で逆転負けを喫した。ボールを保持しながら相手の守備を動かし、崩し切る場面があった一方で、ドイツの縦への速さとプレーの質に押し込まれる時間も長かった。

特に前半はドイツに押し込まれる展開が続き、守備にエネルギーを使う時間が長かったと長谷川唯は振り返る。

「押し込まれた時に2トップが追う距離がすごく広くなってしまい、全体的にディフェンスラインと中盤が後ろに下がるシーンが多かった。後半は修正して、ボールが下がったらディフェンスラインを一つ上げようと話して、蹴られたボールを跳ね返せるシーンも増えました。その修正をもう少し早くできていればよかったです」

攻撃に目を向ければ、日本がドイツの守備を鮮やかに切り裂く場面もあった。それが結実したのが前半14分の先制点だ。長谷川から藤野あおばへとつながり、藤野のパスを受けた谷川が、相手をかわして右足でゴール左上へ突き刺した。 

ダイナミックなミドルや推進力のあるドリブルが目を引くが、難度の高さを感じさせないのも、谷川の凄さだろう。受ける前の駆け引き、ファーストタッチ、相手の逆を取る身のこなし、そしてフィニッシュ。その一瞬に、技術が凝縮されていた。

「ボールを受けるために少し下がることもありますが、あのシーンはあえて相手の前、センターバックのラインの間に立って、そこでボールを受けられたことが、すべてにつながったと思います。あれぐらいのスペースがあれば、自分の中ではシュートまでいけるので、難しさは感じなかったです」(谷川)

ドイツを相手に存在感を放ったのは、谷川だけではない。藤野は右サイドで積極的に仕掛け、得点シーン以外でも何度か突破口を開きかけた。最終ラインでは20歳の古賀塔子がドイツのアタッカーと渡り合った。そして、林穂之香と長野風花のコンビも、的確なポジショニングとしなやかなボディワーク、少ないタッチで前線の流動性を支えた。

今回は、前線の主軸である田中美南を欠き、植木理子も負傷で遠征を辞退。右サイドバックでは清水梨紗、守屋都弥も不在だった。

選択肢が限られる中でもドイツと渡り合う場面をつくった一方、後半には自陣でのパスミスから決勝点を許し、このレベルでは一つのミスが結果を左右する厳しさも味わった。長谷川は「負けた中でこんなことを言うのもおかしいですけど」と前置きして、こう続けた。

「世界トップクラスのチームを相手に、自分たちにも(勝つ)チャンスがあると感じられた試合でした。だからこそ、今日の試合はもったいなかったという気持ちも大きいです」

好調な海外組、選手層に残るばらつきも

海外組の多くが所属クラブで主力を担っている。長谷川、山下、藤野のマンチェスター・シティ勢をはじめ、谷川、長野、宮澤、古賀も継続的に先発。清家は代表合流直前にブライトンで2得点を挙げ、三浦成美もユタ・ロイヤルズ(アメリカ)で20試合すべてに先発している。

一方で、ポジションによって選手層にはばらつきもある。清水、守屋を欠く右サイドバックを任された山本柚月は、デンバー・サミット(アメリカ)ではより攻撃的なポジションで12試合3得点2アシストと結果を残している。だが、この試合で1得点1アシストを記録したクララ・ビュールとの対峙は、本職ではない山本にとって厳しいものになった。

「相手がポジションを入れ替えたり、サイドバックと連係してボールを受けに来たりする中で、(藤野)あおばとの連係に迷いが出て、中途半端になってしまいました。対角のロングボールへの対応も難しかったです。ただ、対人では最低限の対応はできたと思います」

センターバックも、長く守備陣を支えてきた熊谷紗希と南萌華が招集外となった今回、高橋と古賀が軸を担った。石川璃音、白垣うのも控えるが、A代表で世界トップクラスと対峙した経験はまだ多くない。

世界一奪還へ、問われる90分間のゲームマネジメント

終盤、狩野監督は最終ラインを3バックに変え、高橋を前線へ送るパワープレーを採用した。新体制では、こうした試合中の選択肢も探っている。

狩野監督が試合後に口にしたのは、「90分を通じて、どのようにゲームをマネジメントし、整理していくか」という課題だった。

「その時々の共通理解や意識のすり合わせも必要ですし、試合の状況を自分たちでいかに優勢に進めていくか。相手のホームで非常に学びのある試合になったと思います」

2027年ワールドカップまで約9カ月。12月には、ワールドカップ開催国ブラジルとの国内2連戦が控える。増えてきた戦い方の選択肢をどう使い、勝利につなげるか。次はブラジルを相手に、90分を通した戦い方をさらに突き詰めていくことになる。

<了>

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