
オリックス不動産が京都市東山区で運営するハイアット リージェンシー 京都(187室)は、2027年5月9日(日)に営業を終え、解体のうえ「(仮称)東山七条ホテル」として建て替えられる。2026年6月17日(水)の京都市美観風致審議会景観専門小委員会に事前協議案件として示された計画は、敷地1万3,790㎡に地下2階・地上4階・塔屋1層、延べ2万5,000㎡という低層・大屋根の構成で、京都御所の紫宸殿をイメージした金属横葺き屋根と漆喰の外装をまとう。築46年の都市型ホテルを改修ではなく建て替えに切り替え、しかも高層化ではなく4階建てに抑えるこの判断は、客室数を減らしながら1室あたりの床と単価を厚くする選択といえる。本稿では、現施設の延べ床2万7,359㎡・187室という既知の数字と新計画の2万5,000㎡を1室あたりに割り直し、東山区の推定成約ADR(直近12か月平均 約¥23,600・N=43〜51施設)と稼働率、半径1.5km圏133施設の価格帯分布、第2種住居地域(容積率200%)という立地条件を重ねて、「減室して何を買うのか」を定量的に読み解く。
本記事における指標の定義
ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。推定成約ADRの算出対象はビジネス・シティ・リゾート・旅館・カプセルの検証済みカテゴリに限られるため、ラグジュアリー・デラックス帯の個別施設については「掲載価格(全プラン平均・税込)」で表記し、ADRとは呼ばない。
OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。本記事では「稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)」と表記し、対象施設数・客室数を併記する。
掲載価格:2名1室利用時の1室あたり料金(税込)、素泊まりから食事付きまで全プランの平均。
データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA上で稼働が確認できる国内約27,000施設・約126万室を分析対象)。
現施設(ハイアット リージェンシー 京都)
187室
延べ27,359㎡・地下2階地上5階・1980年竣工
新計画(仮称 東山七条ホテル)
25,000㎡
敷地13,790㎡・地下2階地上4階・客室数未公表
容積率の消化率
90.6%
第2種住居地域・容積率200%(上限27,580㎡)
東山区 推定成約ADR
¥23,600
2025年9月〜2026年8月平均・N=43〜51施設
東山区 稼働率(推定)
82.5%
2026年9月・86施設2,749室(OTA掲載在庫ベース)
Key Takeaways
— 延べ床は8.6%減、階数は5階→4階:187室・27,359㎡の現施設を、敷地13,790㎡・延べ25,000㎡の低層計画へ建て替える。客室数・ブランドは未公表。
— 東山区の推定成約ADRは¥23,600(2025年9月〜2026年8月平均・N=43〜51施設)と下京区の約1.5倍だが、前年同期比−0.5%で夏場は3か月連続の前年割れ。
— 容積率200%の90.6%を消化しつつ風致地区の高さ12〜15m・建蔽率40%に収めた結果、設計の自由度は「1室あたりの床」に集中する。
— 100室なら1室250㎡・必要ADR倍率1.87倍。税抜ADR13万円の試算でGOPは年18.1億円、建設費250〜289億円(土地除く)に対し6.3〜7.3%。
— 1.5km圏で「100室超×掲載価格10万円以上」は3施設のみ。空白は大規模ラグジュアリーと中規模ウルトララグジュアリーの二つ。
計画の事実関係 — 延べ床は8.6%減、客室は「未公表」のまま低層に
まずは一次出典で確認できる事実を並べる。日本経済新聞(2026年4月)によれば、オリックス不動産は築46年となる建物の経年を理由に改修・改装も検討したうえで、耐震補強を含む大規模工事が必要になることから長期的には全面建て替えが合理的と判断した。営業終了は2027年5月9日、2027年度以降に解体へ進み、新ホテルのブランド・客室数・開業時期は現時点で未定である。建設通信新聞(2026年6月26日)が報じた京都市美観風致審議会の資料では、所在地は東山区三十三間堂廻り644-2と西側隣接地644-7、敷地1万3,790㎡、RC一部S造・地下2階地上4階塔屋1層、延べ2万5,000㎡、設計は日建設計と示された。西側隣接地は日本赤十字社京都府支部の跡地で、同社が以前から取得していた土地である。
ここで注目したいのは、延べ床面積が増えるのではなくわずかに減る点である。現施設は1980年竣工の地下2階・地上5階建て、延べ2万7,358.96㎡(建築データベースによる)で187室を収める。新計画は敷地を広げたうえで延べ2万5,000㎡と、現施設より約8.6%小さい。つまり敷地は拡大、階数は5階から4階へ、延べ床はほぼ同規模という構成で、床の総量ではなく床の使い方を変える建て替えだと読める。
計画の事実関係:現施設と新計画(仮称 東山七条ホテル)の比較項目現施設新計画(仮称 東山七条ホテル)出典
所在地東山区三十三間堂廻り644-2644-2+西側隣接地644-7建設通信新聞
敷地面積—(644-2のみ)13,790㎡建設通信新聞
階数地下2階・地上5階地下2階・地上4階・塔屋1層Wikipedia/建設通信新聞
延べ床面積27,358.96㎡25,000㎡(約−8.6%)bb-building.net/建設通信新聞
客室数187室未公表日本ハイアット 報道資料 2026年4月/日本経済新聞
1室あたり延べ床146㎡客室数に依存(後述シナリオ)当社算出
竣工/開業1980年竣工・2006年3月ハイアット開業解体は2027年度以降、開業時期未定日本ハイアット 報道資料/日本経済新聞
設計—日建設計建設通信新聞
外観—紫宸殿をイメージした金属横葺き屋根・漆喰外装建設通信新聞
出典:建設通信新聞(2026年6月26日)、日本経済新聞(2026年4月)、日本ハイアット 株式会社「報道資料 2026年4月」、京都市美観風致審議会景観専門小委員会(2026年6月17日)開催結果、Wikipedia「ハイアットリージェンシー京都」、bb-building.net
なお現施設は2006年のハイアット開業以来20年にわたり東山の旗艦として支持を集めてきた。ホテルバンク編集部が集計した累計12,260件の宿泊者口コミでは総合4.5/5.0、清潔感4.73、サービス4.56と高い水準を保ち、外国語レビュー比率は28.5%(直近397件中113件)と国際的な顧客基盤を持つ。建て替えは運営上の評価ではなく建物の経年に起因する判断であり、この顧客基盤と三十三間堂・京都国立博物館に隣接する立地こそが、次の計画が引き継ぐ最大の資産だといえる。
市場動向 — 東山区の推定成約ADRは2.4万円、下京・中京より4〜5割高いが夏場は前年割れ
次に、新ホテルが立つ東山区の価格水準を確認する。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(検証済みカテゴリの中央値)で見ると、東山区は2025年9月〜2026年8月の12か月平均で¥23,600(N=43〜51施設)と、京都駅を抱える下京区(¥15,600・N=157〜168)の約1.5倍、中京区(¥16,900・N=102〜112)の約1.4倍に位置する。京都府全体の¥16,500に対しても4割以上高く、東山区は京都市内で最も単価が厚い区のひとつである。
ただし方向感には注意が要る。12か月平均の前年同期比は東山区が−0.5%と横ばいで、下京区(+5.5%)、京都府全体(+3.3%)が伸びたのに対し伸びが止まっている。月次で追うと2025年10月(+12.3%)や12月(+10.4%)は前年を上回った一方、2026年6月(−12.8%)、7月(−9.9%)、8月(−8.9%)と夏場は3か月連続で前年割れだった。京都府のシティホテル全体も12か月平均で−2.0%であり、高単価帯ほど夏の需要の薄さを吸収しにくい構造が見える。もっとも紅葉期は別で、2026年11月の推定成約ADRは調査時点の掲載水準に基づく推定で¥37,200と、2025年11月実績(¥31,500)を18%上回る水準で売り出されている。
京都市の区別・京都府の推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月平均と前年同期比)エリア推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月平均)前年同期(2024年9月〜2025年8月)前年同期比対象施設数(月次N)東山区¥23,637¥23,750-0.5%43〜51下京区¥15,606¥14,790+5.5%157〜168中京区¥16,943¥16,642+1.8%102〜112京都府(全体)¥16,469¥15,938+3.3%576〜607京都府(シティホテル)¥23,722¥24,194-2.0%56〜59
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・検証済みカテゴリの中央値・税抜相当)
東山区 推定成約ADR 月次推移(年次重ね描き・2024〜2026年、2026年9月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=43〜52施設/月、2026年9月以降は破線=forward推定)
稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)も併せて見る。東山区の対象86〜88施設・約2,750室(主要予約サイト掲載ベース)では、2026年8月が75.1%、9月が82.5%だった。京都府全体(575施設・31,489室)の8月80.7%、9月84.0%と比べると東山区は数pt低く、同じ8月のデラックス帯(京都府18施設・1,549室)は75.8%、掲載価格10万円以上のラグジュアリー帯(22施設・665室)は83.2%である。高単価帯でも稼働8割を維持する施設群が存在することは、減室して単価を上げる戦略の需要側の裏付けになる。
東山区と京都府の稼働率推移(OTA掲載在庫ベース・推定、2026年6〜9月)月対象施設数対象客室数東山区 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)京都府全体(同)2026年6月792,63680.6%—2026年7月822,69177.3%—2026年8月882,77775.1%80.7%(575施設・31,489室)2026年9月862,74982.5%84.0%(566施設・31,989室)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(稼働率はOTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。リードタイム45日以内の観測に基づく)
価格環境には制度要因も加わる。京都市は2026年3月1日から宿泊税を5段階に改め、1人1泊10万円以上の宿泊には1万円を課す。高単価帯ほど税の絶対額が大きくなるため、ラグジュアリー帯の表示価格と手取りの差は広がる。これは単価設計で織り込む前提条件であり、後述のシナリオでは税抜ADRで統一した。
立地評価 — 第2種住居地域・容積率200%、風致地区の低層規制が「4階建て」を決めた
続いて、なぜ4階建てなのかを規制側から確認する。国土交通省 不動産情報ライブラリの用途地域データで三十三間堂廻りの敷地を照会すると、第2種住居地域・容積率200%・建蔽率60%に該当する。敷地1万3,790㎡に容積率200%を掛けた上限は2万7,580㎡で、計画の延べ2万5,000㎡はその90.6%を使い切る水準である。一方、京都市の風致地区条例では東山風致地区の第4種地域が高さ12m、第5種地域が15m、いずれも建蔽率は10分の4、緑地率10分の2と定められている。建蔽率40%なら建築面積の上限は約5,500㎡で、地上4階にその上限近くの建築面積を積み、地下2階で残りを収めれば延べ2万5,000㎡に達する。つまり容積はほぼ使い切り、高さは風致の枠に収め、残った自由度は「大屋根の低層」に振るという解である。風致地区の建蔽率と緑地率が1室あたりの土地コストをどこまで押し上げるかは、風致地区のホテル用地、建蔽率20%で1室土地コスト5倍 — 全国10区域を検証で詳しく分析している。報道によれば風致許可の申請は2026年内、美観風致審議会への諮問は2027年2月が予定されている。
半径1.5km圏の施設分布(円の大きさ=客室数、色=掲載価格帯)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(半径1.5km圏・直近12か月に価格観測のある客室20室以上の133施設)
敷地概要
所在地:京都市東山区三十三間堂廻り644-2・644-7
敷地:13,790㎡(西側隣接地を含む)
周辺:三十三間堂(蓮華王院)に隣接、京都国立博物館・智積院・妙法院至近
アクセス:京阪本線 七条駅 徒歩約5〜7分、JR京都駅 約1.5km
用途地域・建築規制
敷地の用途地域・建築規制
用途地域第2種住居地域
容積率/建蔽率(都市計画)200%/60%
容積上限と計画延べ床27,580㎡ → 25,000㎡(90.6%)
風致地区条例(東山・第4種/第5種)高さ12m/15m・建蔽率40%・緑地20%
景観手続き風致許可申請2026年内・審議会諮問2027年2月予定
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成、京都市「風致地区内における現状変更行為の許可申請等の手引」
公示地価(2026年・東山区)
商業地平均
172万円/㎡
前年比+9.4%
住宅地平均
34.3万円/㎡
前年比+8.3%
出典:国土交通省「地価公示」(2026年)を集計した土地価格情報サイト(totinokati.com)
地価の面では、東山区の2026年公示地価は商業地平均が172万円/㎡(前年比+9.4%)、住宅地平均が34.3万円/㎡(+8.3%)で、全地点が上昇した。祇園四条の最高地点は1,752万円/坪(+16.5%)に達する。三十三間堂周辺は住居系用途地域で商業地ほどの地価水準ではないが、敷地1万3,790㎡という面積を市内中心部で確保することは新規には難しく、自社保有地を建て替える本計画は土地取得コストを伴わない点で、土地込みで用地を探す新規参入とは出発点が異なる。
競合環境 — 1.5km圏133施設1.5万室、「100室超×10万円超」は3施設だけ
では、周辺の供給はどのような構造か。敷地中心から半径1.5km圏で直近12か月に価格観測のある客室20室以上の施設を集計すると、133施設・15,379室だった(メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する範囲)。この圏内は京都駅八条口のビジネスホテル群まで含むため、客室の42%がエコノミー帯(掲載価格1.5万〜2.5万円)、42%がミドル帯(2.5万〜5万円)に属し、掲載価格10万円以上のラグジュアリー帯は7施設・742室(客室シェア4.8%)にとどまる。
半径1.5km圏の価格帯別施設数・客室数価格帯(掲載価格・全プラン平均・税込、12か月平均)施設数客室数客室シェアラグジュアリー(10万円以上)77424.8%アッパーミドル(5万〜10万円)121,3208.6%ミドル(2.5万〜5万円)536,40741.7%エコノミー(1.5万〜2.5万円)506,43041.8%バジェット(1.5万円未満)114803.1%合計13315,379100%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(半径1.5km圏、掲載価格=2名1室・税込・全プラン平均の2025年9月〜2026年8月平均、N=133施設)
東山区側だけを切り出すと25施設・1,802室で、掲載価格の中央値は約¥37,200と圏内全体(約¥27,300)を大きく上回る。その上位には、低層・小規模で高単価を実現する施設が並ぶ。フォーシーズンズホテル京都(123室)、シックスセンシズ京都(81室)、ザ ホテル青龍 京都清水(48室)はいずれも掲載価格(全プラン平均・税込)で20万〜30万円台に位置し、江戸期創業の料理旅館・晴鴨楼(22室)も10万円超である。東山の高単価帯は「大規模」ではなく「規模を絞って1室あたりの体験密度を高める」施設が切り拓いてきた市場だといえる。
東山区・半径1.5km圏の掲載価格5万円以上の施設施設(東山区・半径1.5km圏)客室数掲載価格(全プラン平均・税込、12か月平均)開業年フォーシーズンズホテル京都123¥313,3002016シックスセンシズ京都81¥274,5932024ザ ホテル青龍 京都清水48¥216,4852020晴鴨楼22¥114,4781831ハイアット リージェンシー 京都187¥102,9542006ホテル ザ セレスティン京都祇園157¥91,3502017清水小路 坂のホテル京都38¥73,7502017サクラクロスホテル京都清水寺41¥54,5442022ノーガホテル 清水 京都207¥53,3962022
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(東山区・半径1.5km圏、掲載価格5万円以上の施設、2025年9月〜2026年8月平均)。ヒルトン「会社概要」(2026年8月25日更新)
客室規模 × 掲載価格 ポジショニングマップ(半径1.5km圏133施設、縦軸は対数)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=133施設、掲載価格=2名1室・税込・全プラン平均の12か月平均) ■青枠=WS① ■濃紺枠=WS②
ポジショニングマップで浮かぶ空白は二つある。第一に、客室100室超で掲載価格10万円以上という「規模と単価を両立する」領域にはフォーシーズンズホテル京都、ザ・サウザンド京都、そして現施設のハイアット リージェンシー 京都の3施設しかない。第二に、50〜100室で15万円以上という「中規模ウルトララグジュアリー」は、シックスセンシズ京都(81室)の1施設のみである。延べ2万5,000㎡という床を持ちながら低層に抑える新計画が狙えるのは、この二つの空白のいずれかである。前者を選べば客室数は100室以上、後者なら100室未満となり、どちらを取るかで1室あたり床は1.7倍から3倍以上に振れる。
密集 埋まっている領域
¥1.5万〜¥5万 × 100〜500室
京都駅周辺のビジネス・シティホテルを中心に46施設・9,856室(価格帯全体では103施設・12,837室)。新規参入は差別化が前提になる。
WS① 大規模ラグジュアリー
¥10万以上 × 100室超
該当3施設。延べ2.5万㎡を活かし、宴会・レストラン・スパを備えたフルサービス型で狙える領域。
WS② 中規模ウルトララグジュアリー
¥15万以上 × 50〜100室
該当1施設。1室あたり250〜350㎡の床を使い、低層・庭園・大屋根の体験で差別化する領域。
減室の経済 — 1室あたり床146㎡を208〜357㎡へ、客室売上維持にはADR1.6〜2.7倍
ここからが本題である。「客室数を減らして延べ床を維持する」建て替えは、1室あたりの床を買っている。現施設の1室あたり延べ床は27,359㎡÷187室=146㎡で、これは宴会場・レストラン・バックヤードを含む全館ベースの数値である。京都で進行するラグジュアリーホテルの計画と比べると、三菱地所が上京区・相国寺門前町で進めるローズウッド ホテルの計画は延べ2万553㎡・135室で152㎡/室、2026年3月5日(木)に開業した帝国ホテル 京都(祇園・弥栄会館)は延べ1万804㎡・55室で196㎡/室である(いずれも建築計画の届出値)。東山七条の2万5,000㎡を120室で割れば208㎡/室、100室なら250㎡/室、70室なら357㎡/室となり、客室数の設定次第で現施設の1.4倍から2.4倍の床を1室に充てられる。
1室あたり延べ床面積の比較(㎡/室、全館延べ床÷客室数)
出典:建設通信新聞、国土交通省「建築物動態統計調査」(届出値)、bb-building.net よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
京都府 宿泊業用 建築着工(床面積 万㎡・棟数)
出典:e-Stat「建築着工統計」(統計ID: 0003114490)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
床を厚くする代償は客室数の減少であり、客室売上を現状並みに保つには単価で埋める必要がある。稼働率を同じと置けば、必要なADR倍率は単純に187÷新客室数である。120室なら1.56倍、100室なら1.87倍、70室なら2.67倍となる。東山区の低層ラグジュアリーが掲載価格(全プラン平均・税込)で20万〜30万円台を提示していることを踏まえると、100室前後で税抜ADR13万円という前提は市場の実勢レンジの内側にある。供給側の環境も追い風で、京都府の宿泊業用建築着工床面積は2018年の35.2万㎡をピークに2024年は3.4万㎡(棟数89棟)と1割以下に縮んだ。建設費の上昇が新規供給を抑え、既存の高単価帯には競争緩和のアップサイドが働く。
以下に、客室数と単価の組み合わせを3シナリオで試算した。建設費は国土交通省 建築着工統計に基づく2025年のRC造坪単価202.6万円を下限参考としつつ、ラグジュアリーホテルの目安(310〜350万円/坪)の中央値330万円を採用し、延べ2万5,000㎡=約7,562坪に掛けて約250億円とした。さらに建設期間のインフレを織り込み、解体が2027年度、施工の中間時点を2029年頃と見て年5%で約3年分(×1.158)を上乗せした第2段階も示す。GOP率はインヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営91物件の実績38.9%(2024年12月期)を参照しつつ、フルサービス型は料飲・宴会部門を抱えるぶん宿泊特化型より利益率が低くなりやすい点を踏まえて26〜30%を置いた。土地は自社保有のため、利回りは土地を除く建設投資に対するGOPの比率で示している。建て替えに先立つ解体費の水準については、ホテル建替えの解体費は㎡5.1万〜14.7万円 — 容積30%減で1室原価+12%で検証している。
客室数3シナリオの床・単価・利回り試算項目A. 120室(ミドルラグジュアリー)B. 100室(ラグジュアリー) 基準C. 70室(ウルトララグジュアリー)客室数120室100室70室1室あたり延べ床(25,000㎡÷客室数)208㎡250㎡357㎡現施設(187室・146㎡/室)比1.4倍1.7倍2.4倍客室売上を維持するためのADR倍率(187室比)1.56倍1.87倍2.67倍想定ADR(税抜・試算前提)¥90,000¥130,000¥180,000想定稼働率(試算前提)75%75%70%想定GOP率(試算前提)26%28%30%客室売上(年)29.6億円35.6億円32.2億円総売上(客室比率55%で換算)53.8億円64.7億円58.5億円GOP(年)14.0億円18.1億円17.6億円建設費①2025年実績ベース(坪330万円×7,562坪)250億円250億円250億円GOP÷建設費①(土地除く)5.6%7.3%7.0%建設費②インフレ織込み(中間時点まで年5%・約3年)289億円289億円289億円GOP÷建設費②(土地除く)4.8%6.3%6.1%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。建設費坪単価は国土交通省「建築着工統計」(2025年、RC造202.6万円/坪)とarchi-book 2025年版、GOP率はインヴィンシブル投資法人IR・リロホテルソリューションズ、建設費インフレ率はTurner & Townsend予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%)を参照
結果はシナリオBの100室・税抜ADR13万円・稼働75%で、GOPが年18.1億円、建設費①に対して7.3%、インフレ織込みの建設費②に対して6.3%となる。70室で単価18万円を取るシナリオCは1室あたり床357㎡と体験密度は最も高いが、客室数が少ないぶん総売上は58.5億円と伸びにくく、利回りはBをやや下回る。120室・9万円のシナリオAは稼働を取りやすい一方、1室あたり床208㎡で差別化の余地が相対的に小さく、利回りは5%台にとどまる。「減室で何を買うか」の答えは、床を1室あたり250㎡前後まで厚くし、その体験で東山区の実勢レンジ内の単価を取る組み合わせが、床・単価・利回りのバランス点になるということである。
感度を確認する。シナリオBでADRが10%下振れ、または稼働率が5pt下振れしても建設費②に対する利回りは5%台後半を保ち、両方が同時に起きても5.3%である。ラグジュアリー帯の需要は季節と為替に敏感であるが、京都府のラグジュアリー帯(掲載価格10万円以上・22施設665室)が2026年8月に83.2%の推定稼働を維持した実績は、この前提が過大でないことを示す。
シナリオB(100室)の感度分析シナリオB(100室)ベースケースADR −10%稼働率 −5pt両方総売上64.7億円58.2億円60.4億円54.4億円GOP18.1億円16.3億円16.9億円15.2億円GOP÷建設費①(249.6億円)7.3%6.5%6.8%6.1%GOP÷建設費②(289.0億円)6.3%5.6%5.9%5.3%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要)
オーナー・AMへの示唆 — 築40年超の都市型ホテルで「建て替え」が選択肢になる条件
本件を一般化すると、建て替えが改修に対して優位になる条件は三つに整理できる。第一に、容積の余地と規制の方向が一致していることである。東山七条は容積率200%の9割を使いながら高さは風致の枠に収め、低層でも延べ床を落とさずに済んだ。高さ規制が厳しい京都では、上に伸ばせないぶん敷地を広げて横に使う発想が効く。第二に、立地の単価ポテンシャルが現状の客室構成で取り切れていないことである。東山区の推定成約ADRは2.4万円と市内最上位でありながら、低層小規模の施設が20万〜30万円台の掲載価格を実現している。既存の客室フォーマットでは届かない価格帯が同じ区内に存在するとき、床を厚くする投資が単価に転換しやすい。第三に、改修で解決しにくい構造上の論点(耐震補強、設備更新、特定天井など)が重なり、改修工事の長期休業と建て替えの機会費用が近づいてきたときである。日本経済新聞の報道によれば、同社が長期的には全面的な建て替えのほうが有利と判断した背景もここにある。旧耐震ストック全体で改修と建て替えの分岐点がどこにあるかは、旧耐震ホテル23.6万室・全客室の19.1% — 改修か建替えか、588棟の分岐点が掘り下げている。
大規模改修と建て替えの比較比較軸大規模改修(リノベーション)建て替え(本件型)
客室数既存躯体の制約内で微調整自由に再設計(減室・大型化が可能)
1室あたり床間仕切り変更の範囲(既存146㎡/室から大きくは動かない)208〜357㎡/室まで設定可能
構造・設備耐震補強・設備更新を既存躯体で実施新基準で一体設計
工期と休業部分休業で段階施工も可能解体から開業まで複数年の全面休業
規制適合既存不適格のまま継続できる場合あり風致・景観・高度地区に新規適合(審議会手続き)
単価の到達帯現行帯+α市場の上位帯へ再ポジショニング
投資規模(目安)延べ床あたり数十万円/㎡本件試算で250〜290億円(土地除く)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング整理
京都で高単価帯を検討する投資家にとっての含意は、供給側の新規参入が構造的に絞られていることである。京都府の宿泊業用建築着工床面積は2024年で3.4万㎡とピーク時の1割以下であり、風致・高度地区の規制が高層化を許さないため、延べ床を確保できる敷地そのものが希少である。帝国ホテル 京都(55室)、ローズウッド(135室・計画)、そして東山七条(客室数未公表)と、2026年以降に開業・計画される京都の高単価帯は客室数を絞った計画が中心であり、市場は「大量の客室」ではなく「厚い床と高い単価」で成長する局面に入っている。
まとめ — 延べ2.5万㎡の建て替えは「床の再配分」であり、単価倍率で元が取れるかが分岐点
ハイアット リージェンシー 京都の建て替えは、延べ床をほぼ据え置いたまま(2万7,359㎡→2万5,000㎡)、5階を4階に抑え、敷地を1万3,790㎡へ広げる計画である。容積率200%の90.6%を消化しつつ風致地区の高さ・建蔽率に収めた結果、残った設計自由度は「1室あたりの床」に集中する。客室数が未公表である以上、本稿の数値はシナリオにとどまるが、100室前後なら1室あたり250㎡と現施設の1.7倍の床を確保でき、客室売上を保つのに必要なADR倍率は1.87倍、必要な税抜ADRは東山区のラグジュアリー帯の掲載水準の内側に収まる。建設費250〜290億円に対するGOP利回りは6〜7%台、感度を見ても5%台を維持する。
読者であるオーナー・AMにとっての確認手順は明快である。①敷地の容積・高さ・建蔽率で確保できる延べ床を測る、②同一エリアの上位帯が実現している掲載価格と自施設の推定成約ADRの差を測る、③その差を埋めるために必要な1室あたり床と客室数を逆算する、④客室売上維持に必要なADR倍率(現客室数÷新客室数)が市場レンジに収まるかを検証する。東山七条はこの4ステップが揃った事例であり、客室数とブランドが公表された時点で、本稿のシナリオのどれに最も近いかを確認したい。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事で2026年9月以降の月について示した推定成約ADRは、調査時点でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定(forward推定)であり、チェックイン日に近づくにつれて新規プランの追加や価格調整で変動する。現時点で高く設定されている価格が直前に下落する可能性がある点に留意されたい。また本記事の開発シナリオは公表資料と当社推定に基づく簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。
よくある質問
Q. ハイアット リージェンシー 京都はいつまで営業しますか。
A. 運営会社のオリックス不動産は2027年5月9日(日)をもって営業を終了すると発表しています。その後2027年度以降に解体工事へ進む見通しです(日本経済新聞 2026年4月、建設通信新聞 2026年6月26日)。
Q. 新しいホテルの客室数やブランドは決まっていますか。
A. 2026年10月時点で客室数・ブランド・開業時期はいずれも未公表です。公表されているのは敷地13,790㎡、地下2階・地上4階・塔屋1層、延べ25,000㎡、設計は日建設計という建築計画の概要です。本記事の客室数は試算上のシナリオであり、事業者の計画値ではありません。
Q. 東山区のホテル単価はどの程度ですか。
A. メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(検証済みカテゴリの中央値・税抜相当)で、2025年9月〜2026年8月の12か月平均は約¥23,600です。下京区の約¥15,600、京都府全体の約¥16,500を上回ります。低層・小規模のラグジュアリー施設は掲載価格(全プラン平均・税込)で20万〜30万円台に位置します。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(東山区・下京区・中京区・京都府、2024年9月〜2026年8月の月次)、稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定、2026年6〜9月)、半径1.5km圏133施設の掲載価格集計(2025年9月〜2026年8月平均)。計画概要は建設通信新聞・京都市美観風致審議会の公表資料、用途地域は国土交通省 不動産情報ライブラリ、宿泊業用建築着工は e-Stat「建築着工統計」による。
■ 試算前提
客室数は事業者未公表のため120室・100室・70室の3シナリオを置き、税抜ADRは9万円・13万円・18万円、稼働率は前提として75%・75%・70%、客室売上比率55%、GOP率26〜30%とした。建設費は坪330万円×約7,562坪(約250億円)と、施工中間時点まで年5%・約3年のインフレを織り込んだ約289億円の2段階。土地は自社保有のため利回りの分母から除いている。
■ 限界・留意点
客室数・ブランド・開業時期は未公表であり、本稿の数値は事業者の計画値ではなく当社の簡易試算である。推定成約ADR・稼働率は推定値で各施設の実績とは異なり、ラグジュアリー・デラックス帯の個別施設は掲載価格(全プラン平均・税込)で表記した。2026年9月以降のADRは調査時点の掲載水準に基づく推定。解体費・開業前費用・FF&E・金利・税金は試算に含まない。
■ 市場データ
メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(東山区N=43〜51施設、下京区N=157〜168、中京区N=102〜112、京都府N=576〜607)、稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定、東山区79〜88施設、京都府566〜575施設)、半径1.5km圏の施設・掲載価格集計(N=133施設)、宿泊者口コミ集計(ハイアット リージェンシー 京都 累計12,260件)
■ 政府統計・公的データ
■ 企業資料・業界レポート
■ ニュース・プレスリリース
出典: 日本ハイアット 株式会社「報道資料 2026年4月」
出典: ヒルトン「会社概要」(2026年8月25日更新)
