茨城県近代美術館(茨城県水戸市)で、「中西夏之 緩やかにみつめるためにいつまでも佇む、装置」が11月12日から開催されます。

本展は、戦後日本を代表する画家・中西夏之(1935-2016)の、没後初の回顧展です。中西は東京藝術大学絵画科を卒業後、先鋭的な絵画やオブジェで注目されたのち、高松次郎や赤瀬川原平とともに前衛美術家集団「ハイレッド・センター」を結成し、東京の街中で実験的なパフォーマンスを繰り広げました。

その後、土方巽らとの舞踏における協働を経て、1960年代後半に絵画制作を再開します。「芸術」そのものを問い直した上でたどりついた、画家と絵画の存在する場所についての深い思考に基づき、長い柄の筆で描く独自の手法で、紫や黄緑を基調とする数々の連作を生み出しました。それらは、中西が絵画のありようについて記した言葉「緩やかにみつめるためにいつまでも佇む、装置」が示唆するとおり、作品と向き合う豊かな時間に浸るよう鑑賞者を誘います。

本展では、約75点の絵画やオブジェと、ドローイング、写真などの多彩な資料、さらに茨城・六角堂をモチーフとするインスタレーション《着陸と着水 XIV 五浦海岸》(2013)の再制作により、中西の半世紀におよぶ創作の軌跡を振り返り、その独自の絵画観を浮き彫りにします。

中西夏之 緩やかにみつめるためにいつまでも佇む、装置

会場:茨城県近代美術館(茨城県水戸市千波町東久保666-1)

会期:2026年11月12日(木)~2027年1月17日(日)

時間:9:30~17:00(最終入場時間 16:30)

休館日:月曜日(11/23、1/11は開館)、11/24、1/12、12/29~1/1

入場料:一般1,240円/満70歳以上620円/高校生980円/小中生550円
※障害者手帳等をご持参の方は無料
※12/26、1/2を除く土曜日は高校生以下無料
※11/13(金)茨城県民の日はすべての方が無料
※11/21(土)は満70歳以上の方は無料

アクセス:
JR水戸駅南口から徒歩約20分
北口バスターミナル(8番のりば)より関東鉄道バスで「文化センター入口」下車徒歩約5分
北関東自動車道茨城町東インターから車で約15分
常磐自動車道水戸インターから車で約25分

詳細は、茨城県近代美術館公式サイトまで。

展示の見どころ
作家没後初の本格的回顧展。作品約75点、資料200点超が集結

学生時代の作品《天の岩戸》(初公開)から、各地の美術館やコレクターが所蔵する大型連作までを網羅し、戦後日本美術を代表する画家の全貌に迫ります。

アヴァンギャルド芸術家としての活動を紹介

1960年代に高松次郎や赤瀬川原平と結成した前衛美術家集団「ハイレッド・センター」による、芸術と日常の境界を揺さぶるような伝説的パフォーマンスの写真や資料を紹介。また、洗濯バサミという身近な素材を大量に使い、「日本の現代アート100選」にも選定された《洗濯バサミは攪拌行動を主張する》(1963/一部c.1981再制作)など初期の代表作も展示。さらに、国際的知名度を誇る土方巽や山海塾らの舞踏において、中西が舞踏家たちを触発した舞台美術の資料は必見です。

絵画の発生をめぐる、半世紀超の静かなる冒険

「絵はどのように生まれるのか、絵はどこに存在するのか―」。絵画の発生をめぐる問いと、絵画および画家の存在する「場所」についての深い思考に基づき、長い柄の筆で描かれた絵画の数々。紫や黄緑を基調とした、緊張感と緩やかさを併せもつ連作は、作品と向き合う豊かな時間に浸るよう鑑賞者を誘います。

《背・円-I 105》2005年 個人蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI
東日本大震災を契機とするインスタレーション大作、茨城会場のみ出品

本展では中西が手がけたインスタレーション〈着陸と着水〉シリーズのうち、茨城ゆかりの《着陸と着水 XIV 五浦海岸》(2013)が再制作・展示されます。1905年に岡倉天心が建立し、東日本大震災で流失した六角堂(北茨城市、2012年に再建)をモチーフとする本作は、茨城会場のみの出品です。

《着陸と着水 XIV 五浦海岸》2013年 撮影:齋藤さだむ ©NATSUYUKI NAKANISHI
作家のアトリエや制作風景をとらえた写真で、創作の現場を体感

アートフォーラム・コーナー(茨城県近代美術館1階/入場無料)では、長年中西の制作助手をつとめつつ記録撮影も手がけた後藤充氏による初公開を多数含む写真のスライドショーを展示。7,000点を超えるフィルムとデジタル写真から厳選した約400枚の写真により、中西の人となりに触れ、創作環境を体感することができます。

山梨県大月市のアトリエで制作する中西夏之、2002年 撮影:石川裕修 写真提供:愛知県美術館
展覧会構成
第1章 生体と物質の錬金術

中西は東京藝術大学絵画科在学中から前衛的な作品で注目されましたが、いわゆる「反芸術」の潮流の中で絵画制作を一時中断します。日用品を素材に用いたオブジェなどを発表するとともに、高松次郎、赤瀬川原平と結成した「ハイレッド・センター」の活動や、舞踏家・土方巽との協働を通じて、表現の幅を拡張しました。本章では、立体、パフォーマンス、舞台美術といった中西のジャンル横断的実践が、後の絵画へと結実する過程をたどります。

《韻 YS》1959年 個人蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI
《コンパクト・オブジェ》1962年 国立国際美術館蔵 撮影:福永一夫 ©NATSUYUKI NAKANISHI
第2章 絵のある場所と絵の形

1960年代後半、中西は画家として再出発しつつ、肉体や空間に対する思索を通じて独自の絵画観を育みました。抵抗したくとも出来ない大きな川の流れに芸術をたとえ、絵画という存在の歴史的必然性を意識したという中西は、「絵」そのものを問い直します。絵はどこにあるのか、絵画の本源的な形式とは何なのか―。中西は、人体のフォルムと幾何学形態、時には金属など物質性の強い素材を併用しながら、絵画の在り方を探究し、観る者の解釈を揺さぶる作品群を次々と発表しました。

《山頂の石蹴りNo.3》1970年 セゾン現代美術館蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI
第3章 無限遠点からの弧線

1970年代後半以降、中西の絵画は転機を迎えます。画面上に竹弓を取り付けた連作では、弓に、宇宙のはるか彼方の点(無限遠点)を中心とする想像上の円弧を象徴させ、その巨大円の縁に絵も画家も位置している、という世界観を可視化。絵と描き手の場所を探りつつ、宙吊りの揺れる画布に、長い柄の筆で遠隔操作するように描く作画を試みました。

弓形から派生した楕円形と白を基調とする連作を経て、80年代以降、ℓ字型のモチーフや紫色を用いたシリーズ、黄緑色が印象的な絵画群などが生み出されます。

《紫・むらさき XVII》1983年 東京国立近代美術館蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI
《中央の速い白 XIII》1990年 千葉市美術館蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI
第4章 想像的地表にあふれる光

中西はシリーズごとに油彩やドローイングの制作を重ねながら、「絵は現実世界と絵画世界とにまたがる存在」であり、現実の地面に重なるように存在する想像上の地表を前提として成立するのだ、という独特な絵画観を追究しました。同時に、90年代半ばに始めたインスタレーションシリーズ〈着陸と着水〉は、彼が絵の成立に最も重要と考えた光、そして水平と垂直をめぐる思考を具現化したものでした。不安定に揺れる日本列島を足場とした半世紀に及ぶ実践は、世界各国の紛争の狭間に位置し、地震が多発する国に暮らす現代のわたしたちに「描くこと/見ること」への新たな視座を提示することでしょう。

中西夏之 伊豆アトリエにて 2007年 撮影:齋藤さだむ

戦後日本のアヴァンギャルドを鮮烈に駆け抜け、絵画の本質をどこまでも純粋に問い続けた画家・中西夏之。その没後初となる大規模回顧展は、初期の前衛的実践から長い柄の筆が生み出した独自の抽象絵画、そして茨城会場限定となる六角堂をめぐる大型インスタレーションの再制作まで、作家の全貌をたどるまたとない機会となります。ぜひ、紫や黄緑が織りなす絵肌の前に身を置き、作品と静かに対峙する贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)

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