総勢540名が参加した「チャンピオンズカップファイナル シーズン5ラウンド1」(以下、チャンピオンズカップファイナル)。モダン・フォーマットで開催された今大会を牽引したのは、中国地方からの刺客だった。
黒川 和彰(広島県)は初日を全勝すると、無敗のまま決勝ラウンドへと進出を決めた。貫禄の11勝2分け。ゲームカウントはわずか4ゲームしか落としておらず、チャンピオンズカップファイナル規模の大会では、史上類をみない成績である。
普段はカードショップで友人たちとマジックに興じる。楽しく遊ぶのが一番の練習と黒川は語る。その練習の成果は存分に発揮され、初のプロツアーへの権利、さらには世界選手権への参加権も手に入れた。
使用するイゼット果敢はトップ8に3名を送り込んだ今回の勝ち組デッキである。早いクロック、とどめの直接火力、攻撃的なデッキに反して高い継戦力と隙はない。MVPカードとしてあげた《》は幾度となく勝利を届けてきただろう。

決勝ラウンドへ入っても黒川の勢いは止まらず、準々決勝と準決勝をゲームカウント2-0で制して決勝まで進んできた。準々決勝では自分の展開をぐっとこらえて、《》をケアする冷静な立ち回りをも披露している。
「常人離れした圧倒的な強さやプレイスタイル」の二つ名を意味するビースト(Beast)。黒川を止めたものはいない。彼自身が何者にも止められぬビーストであり、それほどまでの勝ちっぷりだったのだ。
対するは、矢嶋 竜明(北海道)。2024年に開催された「ジャパンスタンダードカップ:『サンダー・ジャンクションの無法者』」の覇者にして、MO(Magic Online)の強豪プレイヤー”ryuumei”その人だ。
9月上旬に開催されたModern Challengeで優勝し、その後もコンスタントにChallengeやLeagueへ参加を続け、練度を上げてきた。
矢嶋が使用するのはドメイン・ズー。モダン黎明期からの数少ない生き残りではあるが、近年のカードパワー上昇を受けて、大きく構築を変えたデッキである。《》と《》のパッケージは、必殺の動きとなる。
矢嶋のドメイン・ズーに意外なカードの姿があった。《》だ。《》はズーをズー足らしめた獣であり、平成を代表する1マナ域。1マナ3/3は並外れたスタッツといえた。
時は進み、今は令和。モダンの1マナ域といえば《》や《》、《》など切れ者ばかり。タダのバニラはお呼びでない。
ズーの代名詞は《》から《》へと変わっている。単なる猫は必要にゃい。

しかし、矢嶋は、この令和に《》へと答えを見出した。
直線的にライフを詰めていき、火力で仕留める。往年のドメイン・ズーよろしく、《》が軽快にクロックを刻み、《》で焼き尽くす。トップ8プロフィールにもあるように、矢嶋は「《》をプレイヤーに5点打ち続けて」決勝進出を掴み取り、デッキ構築の正しさを証明してみせた。
黒川「新幹線があるから19時までに(会場を)出られたらいいな」
矢嶋「サクサクやりましょう」
すでに15マッチ終えたというのに、疲労を感じさせず、テキパキと進行していく。
ジャッジのアナウンスが入り、中継のカメラが向く。決勝が始まる。
ゲーム1
両者1マリガン。先手は黒川。
黒川「0ターン目は?」
《》の有無を確認すると、矢嶋は首を横に振る。


モダンらしくショックインから《》、《》を続けてプレイ。起動すると《》の姿が。
矢嶋は引いたばかりの《》をプレイせず、《》をセットしてエンド。
黒川は《》を続けアタックし、2点が入る。このエンドに矢嶋はフェッチランドを切って《》をサーチ、版図達成に向けて大きく前進する。

矢嶋は少し悩み、再び《》を置きながら、今度こそ《》をプレイ。
ここで黒川は勢い良く《》をプレイする。《》、昂揚、カードアドバンテージと脅威が重なる一手といえる。
矢嶋「《》、諜報の解決まで」
順次スタックが解決されていき、諜報でカードがライブラリートップに残される。それを見届けると、フェッチを切り《》をショックインしながら、《》でカウンターする。
黒川視点では最大限アドバンテージを狙った当然のプレイではあるが、《》というわずかな裏目を引いてしまう。
さらに黒川は《》から《》をショックインし……ここで動きが止まる。
黒川「色々ミスってるなぁ」

黒川の手札には《》。しかし、墓地には土地、アーティファクト、ソーサリーの3種類と昂揚未達成。
今の黒川はノリに乗っている。それは間違いない。ここまでの連勝を振り返れば、会場で一番勢いのあるプレイヤーに間違いない。
それでも、強さを支えているのは運否天賦だけではない。これまで積み重ねてきた構築と理論、プレイングが合わさったからこそ、決勝の舞台にいる。
だからこそ、《》をプレイし、《》の誘発型能力でインスタントかクリーチャーが落ちて昂揚達成を期待するような、不完全情報に頼ったプレイはしない。
黒川の理が許さない。黒川自身が、プレイに待ったをかける。
2体でアタックするのみで終えると、返すターンに矢嶋は《》でライフを削りお互い11に。さらに《》を置きながら《》を続ける。

やや土地を多めに引いている黒川はフェッチを切り、《》をサーチ。ここで昂揚を達成すれば《》で《》を打ち落とし、一気にダメージを刻める。それはかなわず《》により上空も止まってしまったため、ついに攻撃が途切れてしまう。
《》ショックインからペイ2ライフに力強く、《》が色濃く匂わせながら、矢嶋は2体でアタックする。
これを受けて黒川は《》で《》をチャンプブロックするが、《》の効果を見落としてしまう。
緊張からか、疲労からか、高揚からか。ミスが、ミスを呼ぶ。
トランプルにより余剰ダメージが入り、黒川の残ライフは4。これでは《》をケアできない。
矢嶋は2マナを倒すが、プレイされたのは《》とギリギリ耐える。
ラストターン、黒川はライブラリートップに残した《》から《》2体目を続ける。アタックに向かうと、矢嶋は《》をブロックへと差し出す。
ブロックをすり抜けた《》へ《》をプレイする。これが解決されれば誘発型能力と二段攻撃でピッタリ8点削りきれる。黒川は崖っぷちに立たされながらも、逆転の一手へとたどり着いた。

矢嶋は構えていた《》を合わせ、黒川はゲームを畳むしかなかった。
矢嶋 1-0 黒川
ゲーム2
先攻は再び黒川。黒川はノーランドの手札をマリガンし、矢嶋は7枚をキープ。
そして、ゲーム1をとった矢嶋の手からは当然のように《》!

《》から《》、《》と順調なスタートをきる黒川。
対して矢嶋は《》という名の5色土地を置きエンド。
黒川は《》をプレイし、《》の諜報で《》を墓地へ落とすも、再び《》が突き刺さる。
返す刀で力強く《》!
黒川が《》でライブラリーを掘り進むのみで終えたのに対して、矢嶋は《》の攻撃でダメージレースを矢嶋23-13黒川と10点リードとする。《》を設置、《》を無力化する。
無事3枚目の土地へとたどり着いた黒川だが、目の前の《》が止まらない。根本原因である《》、《》と対処すべきカードが多すぎる。《》を待ち、《》2体を立ててターンを終える。
二度目のアタックで黒川のライフは8まで落ち込み、終末の《》2体目へ。
黒川は諦めず、エンドステップとアップキープに《》を矢嶋へと打ち込み、諜報でドローの質を高める。2枚、4枚と落とし続け、ベストプレイを模索する。
だが、黒川にできたのはここまでだった。21点まで削るが、《》の対処手段も、昂揚や果敢によるダメージ増加もはない。《》を追加し、タップアウトでターンを返す。

矢嶋は《》と、ドメイン・ズーのもうひとつの代名詞でもある《》――《》でもって介錯とした。
矢嶋「回りすぎ、2日間で一番回った」
黒川「それをここでもってくるかぁ(笑)」
矢嶋 2-0 黒川
対戦後
黒川「いやー楽しかったなぁ」
対戦後、独り言ちる黒川へ観戦していた友人たちが次々に声をかける。
労いと祝福。「マジックやってて良かったね」と。
黒川「マジックやめらんねーわ!」
矢嶋も応える。
矢嶋「最高のゲームだ!マジで!」
黒川「勝つほどやめられないようにできてる」
再度、友人たちが口にする。「負けてもやめねーじゃん」と。
黒川「確かに勝っても負けてもやめてない!勝ったら勝ったで楽しいし、負けたらまた次頑張ろうってなるし」
真剣勝負をやりきった両者の顔は対戦前と変わらず、青空のように澄み切っていた。
コンボの強さが際立つモダンにおいて、矢嶋と黒川が選択したのは非コンボ、いわゆるフェアデッキであった。理論上、干渉手段やフェイタルなサイドボードによってコンボデッキ対策は可能だ。
しかし、現実には妨害手段を凌駕する圧倒的な回り、対策の対策などで乗り越えて、いともたやすく行われるえげつない行為を目の当たりにすることとなる。ハイスピードでタイトなモダン環境をフェアデッキで制する。それは言葉にするよりも遥かに難い。
チャンピオンズカップファイナルを制したのは、矢嶋のドメイン・ズー。キーとなったのは並行世界へと置き忘れられたはずの《》と、《》だった。

《》はドメイン・ズーを代表する火力だったが、近年ではカードパワーと柔軟性を求めて《》や《》、軽量の干渉手段などへとスイッチされていた。
カードパワーへと重きをおいた構築は、果たしてドメイン・ズーが求める戦略だったのだろうか。
矢嶋「ライフを攻めることだけはずっとやってきたので。火力は打ち続けてきたのでプレイスタイルに合っていますね」
プレイスタイルは、ときにカードパワーをも凌駕する。矢嶋は愚直にライフを詰めていく直線的なスタイルを貫き通した。《》で強引に1ターン縮めた先に、優勝という最高の結果が待っていた。
ドメイン・ズー/Domain Zoo。版図/Domainと動物園/Zooの名を冠したデッキは、矢嶋が見出した《》と《》を得て、頂点へとたどり着いた。
栄光を手にした勝者へ祝福の言葉で締めくくろう。
「チャンピオンズカップファイナル シーズン5ラウンド1」、優勝は矢嶋 竜明!!
おめでとう!!
