解体工事が進められていた「旧香川県立体育館」が、保存活用に向けての“最後のチャンス”を迎えています(詳細はこちらの記事を→https://bunganet.tokyo/kagawastop/)。この機に、BUNGA NETでは緊急連載「旧香川県立体育館に思う──アーキテクトボイス50」を行います(発起人:田根剛、佐々木睦朗、北山恒、宮沢洋)。この建築や今回の経緯への思いを、1日1人ずつアップしていきます。現地調査の期間は残り3日。40人目は、建築ジャーナリストの磯達雄氏です。(ここまでBUNGA NET編集部)

今ひとたびの理不尽を
香川県立体育館は素晴らしい建築だ。もしかすると国立代々木競技場よりも好きかもしれない。代々木第一体育館の屋根の美しさは比類ないが、それは鉄骨梁のカーブによるところが大きく、建築家による恣意的なデザインである。他方、香川県立体育館の屋根が見せる曲面は、ケーブルの重ね合わせによって自然に出来上がったものである。もちろんそれを導き出している側梁や大柱は強烈に形を主張しているが、コンクリートはもともと彫塑的な造形に向いた材料なので、形の恣意性はそれほど気にならない。構造の合理と意匠の力技が絶妙にバランスした傑作だと思う。
ただし、建築として優れているから残すべき、とはあまり言いたくない。香川県は1960年代に、様々な建築家に設計を依頼して、文化会館、図書館、武道館、資料館など一連の施設を整備していった。地域文化の向上を目指した一連のプロセスに位置付けられる建物であり、単体の建築作品というよりも、歴史的および地域的文脈の中で価値を持つものとすべきだろう。
さて、この建物が置かれている現状について、今、考えていることを短く書き留めておく。
原則として、それなりに正当な手続きを経て決めたことは、その通りに進められるべきだ。素晴らしい建築であろうと、解体することにより大きなメリットがあるとの判断がくだされたのであれば、壊せばいい。その後に、もっと良い建築を建てればよかろう。それが大前提だ。
しかし根拠となるものが改まれば、判断を変えることは十分にありうるはずだ。裁判の判決だって、新しい重要な証拠が出てくれば再審の道が開かれる。冤罪での裁きはあってはならない。
旧香川県立体育館の件で言えば、県議会でいったんは解体を決めたが、その後に実績のある民間事業者による活用の表明や文化行政サイドからの支援の申し出があった。戦後建築の保存再生を訴える活動はいろいろなところで取り組まれてきたけれども、これほど強力な後押しはほかに例がない。これは根拠が改まったということである。
解体の決定前にサウンディング型市場調査も行ったのだから、その時点でなぜ説得力のある提案をしなかったのか、今からでは遅すぎるとの意見もあるだろう。その言い分もわかる。
しかし、保存再生の外側に目を広げれば、公共施設のプロジェクトでコンペやプロポーザルを実施して、つくると決めた案が、設計を進めた段階で設計者ごと白紙撤回されるという事態がしばしば起こっている。滋賀県立近代美術館がそう。国立競技場がそう。徳島文化芸術ホールがそう。他にいくらでも例は挙げられる。理不尽な方針転換を、我々は幾度となく見せられてきたのだ。
だとするならば、建築を壊すと決めたがやっぱり壊すのは止めた、そういう理不尽が今ひとたび、起こってもいいのではないか。それがかなわないにせよ、とりあえずは解体工事の無期限の延期を望む。
磯達雄/建築ジャーナリスト、Office Bunga共同主宰
プロフィルはこちら→https://bunganet.tokyo/profile/
旧香川県立体育館(写真:磯達雄、2003年に撮影、以下の2点も)


一覧ページはこちら↓
