澤田哲生の「科学と社会のあいだ」

【澤田哲生の「科学と社会のあいだ」】私立大学で数十年続いた基礎研究が結実、成果を急がない研究環境を守れるか

澤田 哲生

澤田 哲生
エネルギーサイエンティスト

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2026.10.8(木)

ノーベル化学賞を受賞した東京理科大学の硤合憲三さん(写真:つのだよしお/アフロ)

 2026年10月7日、ノーベル化学賞が東京理科大学の硤合憲三さんと、フランスのアンリ・カガンさんに贈られることが決まりました。テーマは「鏡に映したような二種類の分子のうち、なぜ生き物は片方だけを使っているのか」という、百年以上続く化学の謎です。

 ニュースは硤合さんを「東大出身」と紹介しました。けれど、この受賞の本当の重さは別のところにあります。それを考えることは、日本の科学と教育のこれからを考えることでもあります。

何が「初めて」なのか

 硤合さんは東京大学で学び、1981年に東京理科大学へ講師として着任しました。受賞につながった「不斉自己触媒反応」は、理科大で学生たちとともに見つけ、育ててきた研究です。ご本人も以前から、この研究は理科大で芽生え、学生や共同研究者の努力によって発展したものだと語っています。

 ここで、二つの物差しを分けてみましょう。「どこで学んだか」と「どこで発見したか」です。日本の自然科学分野のノーベル賞受賞者を見ると、私立大学の学部を卒業した人はまだ一人もいません。

 一方で、民間企業や民間の研究機関で生まれた成果が受賞につながった例はあります。ソニーの江崎玲於奈さん、島津製作所の田中耕一さん、日亜化学の中村修二さん、旭化成の吉野彰さん、北里研究所の大村智さんです。

 私立大学が若いころの修業の場だった人もいます。大村さんは理科大の大学院で学び、北川進さんは近畿大学で13年間教えました。

 しかし、少なくとも日本の自然科学分野の受賞者では、私立大学の研究室を一貫した拠点として受賞研究を育ててきた、初めてのケースとみられます。「東大出身」という紹介だけでは、このいちばん大事な点が見えなくなってしまいます。

 なぜ、これまで一人もいなかったのでしょうか。理由は、日本の私立大学の仕組みにあります。

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