マリオット高知210室、既存5,551室に+3.8% — 四国初のコートヤード、ADR7,900円と浸水1〜2mの敷地

四国旅客鉄道(JR四国)は2026年9月17日、高知市本町三丁目で「コートヤード・バイ・マリオット高知」の安全祈願祭を行い、建設工事に入った。地上14階建て・210室(予定)、オールデイダイニングとミーティングルーム、フィットネスジムを備え、2028年秋の開業を予定する。四国で初めてのコートヤード・バイ・マリオットで、計画地は電車通り沿いの旧高知新聞放送会館の跡地にあたる。本稿では、この単一の新築案件を高知市の客室ストックと推定成約ADRの中に置き、210室がどれだけの需要を新たに取り込む必要があるかを見積もる。あわせて、国土交通省の不動産情報ライブラリと高知県の公表資料で敷地の地価と津波・長期浸水の想定を確認し、浸水対策の設備投資と事業継続計画(BCP)が収支にどう効くかを簡易試算で示す。

本記事における指標の定義

ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。本稿では宿泊前日(LT1)時点の値を用いる。
ブッキングカーブ/LT:チェックイン日に向けたOTA残室数の推移。LT(リードタイム)=チェックインまでの日数。本稿はLT45→LT1の範囲のみを用いる。
客室稼働率(観光庁):観光庁「宿泊旅行統計調査」の公表値(2025年確定値、高知県)。
掲載価格:2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。本文で言及する場合は明記する。
データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/観光庁「宿泊旅行統計調査」/国土交通省 不動産情報ライブラリ/国土交通省 国土数値情報/総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」/高知県「南海地震長期浸水対策検討結果」

コートヤード・バイ・マリオット高知

210室

地上14階・2028年秋開業予定

高知市の既存客室

5,551室

63施設・ホテル/旅館

既存ストック比

+3.8%

2028年までの計画3棟合計で+10.8%

高知市の推定成約ADR

¥7,900

2025年9月〜2026年8月・前年比+6.3%

敷地の津波浸水想定

1〜2m

標高1.6m(T.P.)

出典:四国旅客鉄道(2024年10月18日発表)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=57〜60施設)/国土交通省 国土数値情報(津波浸水想定)・国土地理院 標高データ

Key Takeaways

210室は、高知市で現在稼働が確認できるホテル・旅館63施設・5,551室の+3.8%にあたる。2027〜2028年に開業・完成を予定する他の2棟(計392室)を含めると、計画3棟で+602室・+10.8%となる。
高知市の推定成約ADRは直近12か月(2025年9月〜2026年8月)の平均が¥7,900で、前年同期比+6.3%。月別の振れ幅は最も低い6月(¥6,900)から最も高い8月(¥9,600)まで1.38倍と小さく、業務需要が年間の底を支える市場である。
施設別の12か月平均で¥10,000以上の価格帯は13施設・1,515室。コートヤードの210室はこの上位価格帯に+13.9%の客室を加える計算になり、全体比の+3.8%より吸収のハードルは高い。
2026年6〜8月の平日(月〜木)の推定OCCは79〜85%、土曜は94.6%。よさこい祭り期間(8月9〜13日)は99%を超え、ピーク日の在庫はすでに残っていない。新規210室が取り込む余地は平日と閑散月にある。
敷地は商業地域(容積率600%)で、国土数値情報の津波浸水想定は1〜2m、標高は1.6m。市内の既存ストック5,551室のうち95.9%が同じく津波浸水想定区域内にあり、浸水リスクは中心市街地に共通の前提条件である。そのため、受変電設備の上階配置など浸水後も早く営業を再開できる設計が、競合に対する差別化の材料になる。

計画概要 — 四国初のコートヤード、JR四国が所有し運営を委託

JR四国が2024年10月18日に発表した資料によると、コートヤード・バイ・マリオット高知の計画地は高知市本町3丁目40-1(地番)、延床面積は約11,000㎡、地上14階建てで、客室は210室を予定する。ホテルはJR四国が所有し、運営はEastGateホスピタリティー株式会社が担う。同社はノボテル沖縄那覇の運営を引き継いだ実績を持つ運営会社で、発表時点でホテルスプリングス幕張とベストウェスタン恩納/幸喜を運営している。本ホテルはマリオット・インターナショナルの会員プログラム「Marriott Bonvoy」に参加する予定である。

表1 計画概要(コートヤード・バイ・マリオット高知)
項目内容

名称コートヤード・バイ・マリオット高知
計画地高知県高知市本町3丁目40-1(地番)/電車通り沿い、旧高知新聞放送会館跡地
建物規模延床面積 約11,000㎡、地上14階建て
客室数210室(予定)
付帯施設オールデイダイニング、ミーティングルーム、フィットネスジム等
所有/運営四国旅客鉄道株式会社/EastGateホスピタリティー株式会社
工事「JR四国高知新ホテル(仮称)新築他工事」大林・合田特定建設工事共同企業体、契約価格85億円(2025年4月18日契約)
安全祈願祭/開業予定2026年9月17日/2028年秋

出典:四国旅客鉄道「『コートヤード・バイ・マリオット高知』2028年秋に開業予定」(2024年10月18日)、同社「落札者等の公示(建設工事)」(2025年4月28日)、テレビ高知(2026年9月17日)

工事はJR四国が2025年4月28日に公示した「落札者等の公示(建設工事)」で確認できる。件名は「JR四国高知新ホテル(仮称)新築他工事」一式、契約者は大林組四国支店を代表とする大林・合田特定建設工事共同企業体で、契約価格は85億円(8,500,000,000円)である。210室で割ると1室あたり約4,050万円、延床約11,000㎡で割ると1㎡あたり約77.3万円になる。建築着工統計の全国の宿泊業用建築物(2024年、工事費予定額÷床面積)は1㎡あたり約59.1万円で、本件はその1.31倍の水準にあたる。件名に「他工事」を含む契約価格であり、純粋な建築費とは範囲が異なる点には注意が必要だが、宿泊特化型より広い共用部と飲食・会議機能を持つ14階建ての構成を反映した単価といえる。なお、延床面積を客室数で割った1室あたりの延床は約52㎡である。

JR四国のグループは2020年に高知駅に近い北本町で「JRクレメントイン高知」(187室)を開業しており、市内では2棟目のホテルとなる。テレビ高知の報道では、外観は土佐紬(つむぎ)を、客室は県内の清流をモチーフにデザインし、高知城を望む立地を生かすという。JR四国の発表資料は、車で1時間圏内の仁淀川・吉野川・物部川を舞台にしたアドベンチャートラベルの拠点としての役割も挙げている。

市場単価 — 高知市の推定成約ADRは¥7,900、前年比+6.3%

メトロエンジンリサーチのデータで高知市の推定成約ADRを見ると、直近12か月(2025年9月〜2026年8月)の単純平均は¥7,900で、前年同期(2024年9月〜2025年8月)の¥7,400から+6.3%上昇した。対象は各月57〜60施設である。業態別では、施設数の多いビジネスホテル(43〜46施設)が¥7,700で前年同期比+6.0%と、市場全体とほぼ同じ動きをしている。シティホテルは4施設しかなく単価比較の母集団として小さいため、本稿では業態別の比較に使わない。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高知市・全業態、推定成約ADR、N=57〜60施設)。2026年9月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定のため表示していない

月別に見ると、最も高いのはよさこい祭りのある8月(2026年8月は¥9,600、前年同月比+5.8%)で、最も低いのは梅雨の6月(同¥6,900、+2.0%)である。12か月のうち前年同月を下回ったのは2026年2月(−0.3%)だけで、2025年10月(+14.0%)や2026年1月(+15.6%)のように2桁の伸びを示した月もある。高値月と安値月の差は1.38倍にとどまる。夏と秋の行楽期に単価が2倍近く跳ねる観光地型の市場と比べると、平日の業務需要が年間の底を支え、季節の波が小さい県都型の単価構造だと読める。

表2 高知市の推定成約ADR(月別・全業態とビジネス、2025年9月〜2026年8月)
月全業態前年同月比ビジネス前年同月比対象施設(全業態)

2025年9月¥7,566+7.4%¥7,506+6.9%58
2025年10月¥7,987+14.0%¥7,928+13.2%58
2025年11月¥8,901+10.4%¥8,784+10.0%58
2025年12月¥7,438+7.5%¥7,148+6.2%59
2026年1月¥7,881+15.6%¥7,268+12.9%58
2026年2月¥7,551−0.3%¥7,363−1.3%59
2026年3月¥7,938+5.0%¥7,672+5.1%60
2026年4月¥7,492+1.5%¥7,422+3.1%60
2026年5月¥8,042+6.7%¥7,985+6.7%60
2026年6月¥6,938+2.0%¥6,849+3.8%60
2026年7月¥7,230+1.2%¥7,192+2.9%58
2026年8月¥9,575+5.8%¥9,282+3.4%57
12か月平均¥7,878+6.3%¥7,700+6.0%57〜60

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高知市、推定成約ADR・税抜相当。ビジネスは各月43〜46施設)

市場の単価水準をもう一段細かく見るため、稼働が確認できる施設ごとに12か月平均の推定成約ADRを計算し、価格帯別に並べた(6か月以上の観測がある59施設・5,434室)。施設別の中央値は¥7,600で、¥10,000以上の価格帯は13施設・1,515室と客室全体の約28%にあたる。¥15,000以上は5施設・489室で、うち3施設は旅館である。

表3 施設別12か月平均の推定成約ADRによる価格帯分布(高知市59施設)
施設別12か月平均の推定成約ADR施設数客室数客室構成比主な業態

¥6,000未満9499室9.2%ビジネス9
¥6,000〜8,000221,784室32.8%ビジネス16・旅館5・シティ1
¥8,000〜10,000151,636室30.1%ビジネス14・シティ1
¥10,000〜15,00081,026室18.9%ビジネス5・シティ2・旅館1
¥15,000以上5489室9.0%旅館3・ビジネス1・リゾート1
合計595,434室100.0%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高知市、2025年9月〜2026年8月のうち6か月以上観測のある59施設、客室5室以上)

コートヤード・バイ・マリオットは、マリオット・インターナショナルが60の国と地域で1,310軒以上を展開するブランドで(JR四国の2024年10月18日発表資料)、本件も客室に加えてオールデイダイニングとミーティングルームを持つ。一般にフルサービスとリミテッドサービスの中間に位置づけられる業態である。価格帯としては高知市の上位2帯(¥10,000以上)と重なる可能性が高い。仮に210室がこの帯に入るとすれば、同じ帯の客室は1,515室から1,725室へ+13.9%増える。市全体で見た+3.8%に比べ、競合する客室に対する比率は3倍を超える。吸収の余地を見積もるには、市全体の需給に加えて上位価格帯の需要の厚みを見る必要がある。

供給パイプライン — 2028年までに中心部で3棟・602室

高知市で現在稼働しているホテル・旅館(ビジネス・シティ・リゾート・旅館・カプセルの5業態、2026年6〜8月に掲載価格の観測があるもの)は63施設・5,551室である。うち200室以上は8施設あり、2026年に開業した「東横INN高知」(209室)もこれに含まれる。コートヤードの210室は、この既存ストックに対して+3.8%にあたる。

国土交通省「建築物動態統計調査」と各社の公表・報道をあわせると、2027〜2028年にかけて中心部の電車通り沿いに計画3棟が並ぶ。共立メンテナンスが本町1丁目で進める和風ブランドの「御宿 野乃 高知」(仮称、12階建て・172室)は2027年春以降の開業予定で、同ブランドとして四国初の出店となる。ルートイングループがはりまや町3丁目に計画する「ホテルルートインGrand高知」(仮称、14階建て、220室)は2026年6月に着工し、建通新聞によれば完成は2028年春ごろを見込む。これが完成すると同社のホテルは47都道府県すべてに揃う。

表4 高知市中心部の計画3棟(供給パイプライン)
計画所在地客室数規模開業・完成予定

御宿 野乃 高知(仮称)本町1丁目(電車通り沿い)172室12階建て2027年春以降
ホテルルートインGrand高知(仮称)はりまや町3丁目(電車通り沿い)220室14階建て・延床約10,567㎡2028年春ごろ完成
コートヤード・バイ・マリオット高知本町3丁目(電車通り沿い)210室14階建て・延床約11,000㎡2028年秋
計画3棟 合計602室既存5,551室の+10.8%

出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成/四国旅客鉄道発表資料/さんさんテレビ(2024年12月24日・2025年5月21日)/高知新聞(2025年5月21日)/建通新聞(2026年6月2日)。※調査時点での確認申請・公表ベース。今後の申請追加で件数・客室数は増加する見込みであり、現時点での確定パイプラインの下限値として参照

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、既存63施設)/国土交通省「建築物動態統計調査」・各社公表資料・報道。各年の値は年内の開業・完成予定分を加えた累計で、既存施設の閉館は織り込んでいない

計画3棟が予定どおり揃うと、市内の客室は2028年に6,153室となり、現在から+10.8%増える。2026年に開業した東横INN高知の209室を加えると、2026〜2028年の3年間で811室が増える計算である。いずれも電車通り沿いの中心部に立地し、200室前後の中高層という点で共通する。3棟のうち外資ブランドはコートヤードだけで、ほかの2棟は国内チェーンの上位・和風ブランドである。そのため、同じ時期に開業しても直接競合する客室の範囲は一様ではない。

観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年確定値では、高知県の客室稼働率はビジネスホテルで68.1%、シティホテルで70.8%、全施設で48.6%であった。全国平均(ビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%)と比べるとビジネスホテルで7.2pt低く、客室の埋まり方にはまだ伸びしろがある。仮に市内の客室が+10.8%増えても稼働率を今の水準に保つには、宿泊需要も同じだけ増える必要がある。

この「同じだけ増える必要がある」を、需要の伸び方で3通りに分けて見ておく。2026年の客室5,551室が2028年末に6,153室(+10.8%)となり、既存施設の閉館はないと置く。基準の稼働率には、観光庁の高知県ビジネスホテル(2025年確定値・通年68.1%)を市場全体の目安として使う。需要が年率で横ばいなら、2028年の市場の稼働率は通年61.4%と6.7pt下がる。年+3%なら65.2%(−2.9pt)にとどまり、今の水準を保つには年+5.3%の需要増が2年続く必要がある。高知市の推定成約ADRは前年比+6.3%と伸びているが、これは単価の伸びであり、宿泊需要の量が同じ率で伸びていることを示すものではない。

表5 需要の伸び方別に見た2028年の市場稼働率(通年・試算)
シナリオ宿泊需要の伸び(年率・仮定)2028年の需要(2026年=100)2028年の市場稼働率(通年・試算)基準(68.1%)との差

悲観0.0%(横ばい)100.061.4%−6.7pt
中位+3.0%106.165.2%−2.9pt
楽観(現水準維持)+5.3%110.968.1%±0.0pt

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年確定値、高知県ビジネスホテル客室稼働率 通年68.1%)、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高知市の既存63施設・5,551室、計画3棟602室)より試算。稼働率=68.1%×需要指数÷客室指数(6,153÷5,551=1.108)。需要の伸び率は説明のための仮定で、予測値ではない。コートヤードの開業は2028年秋のため、2028年の暦年では客室の寄与は一部にとどまる

需要の厚み — 平日は79〜85%、土曜とよさこいは満室圏

需要の中身を、就業と居住の商圏から確認する。計画地(本町三丁目2番15号・旧高知新聞放送会館付近、北緯33.5587度・東経133.5343度)の半径1km圏には、2021年の経済センサスで2,925事業所・27,407人の就業者がいる。オフィス系業種の比率は22.3%で、行政・金融・商業が集まる県都中心部の業務集積である。高知県の延べ宿泊者数(2025年確定値)を見ても、観光目的の宿泊者が50%未満の施設での宿泊が144.7万人泊と、50%以上の施設の102.9万人泊を上回っており、業務・その他の目的の宿泊が県全体でも大きい。

一方、半径1.5km圏の居住人口(国土数値情報の250mメッシュ推計)は2020年の37,770人から2025年に35,550人、2040年には30,141人へと減る見通しで、2020年比では−20.2%、2025年比では−15.2%となる。高齢者(65歳以上)の比率は2025年時点で34.5%である。ここで示す居住人口は国勢調査ベースの推計であり、日中の滞在人口や来訪者数ではない。宿泊需要の主体は域外からの出張・観光客であるため、居住人口の減少がそのまま宿泊需要の減少を意味するわけではない。ただし、中心市街地の商業や飲食の厚みは長期的に居住人口の影響を受けるため、ホテルが館内の飲食機能を持つことの意味は大きくなる。

出典:国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)。中心=計画地付近、半径1.5km

次に、OTAの在庫データから高知市の需給を見る。主要予約サイトで総客室の30%以上を掲載する施設で構成した固定コホートを対象に、2026年6〜8月の宿泊前日(LT1)時点の推定OCCを曜日別に平均した(よさこい祭りとお盆を含む8月8〜16日は除外)。平日の月〜木曜は79.4〜84.5%、金曜87.3%、土曜94.6%、日曜79.1%である。土曜はほぼ満室圏で、平日と日曜に15pt前後の空室が残る。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高知市、推定OCC・LT1時点。対象34〜36施設/客室3,285〜3,370室(主要予約サイト掲載ベース)。2026年6月10日〜8月31日のうち8月8〜16日を除く)

よさこい祭り期間は、2026年8月9日から13日にかけて、観測のある4日(9・11・12・13日)の推定OCCが99.3〜99.9%に達し、コホート3,285室のうち前日時点の残室は2〜10室しかなかった。本祭の8月11日の掲載価格(コホート平均・税込)は¥48,900と、平日(6〜8月の月〜木曜平均でおよそ¥12,000)の約4倍である。この期間の需要は既存の客室だけではまかない切れておらず、210室の新規供給にとってもピーク日の単価を高く設定できる機会になる。ただし、こうしたピーク日は年に数日しかない。年間の収支を左右するのは、平日と6月・12月・1月といった閑散月の稼働である。よさこい祭りの予約進捗は『よさこい祭り2026の予約進捗』で詳しく扱った。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高知市・全業態、月内の全宿泊日の平均ブッキングカーブ、LT45→LT1。対象34〜35施設/客室3,159〜3,333室(主要予約サイト掲載ベース)。6月は6月10日以降の21日分)

ブッキングカーブで見ると、宿泊45日前(LT45)時点の推定OCCは6月・7月が57%台、8月は65.8%で、そこから前日までに6月は+24.4pt、7月は+27.1pt、8月は+23.3pt積み上がる。7月と8月は宿泊日の2週間前(LT14)以降だけで10pt以上を上積みしており(6月は+9.9pt)、直前に動く需要が大きい市場である。出張需要が中心の市場では直前の予約が多くなる傾向があり、観光庁の2025年確定値で高知県のビジネスホテルの稼働率が11月(76.1%)や10月(73.5%)に高く、12月(62.4%)と1月(59.6%)に低いという季節の形とも整合する。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年確定値、高知県、施設タイプ別客室稼働率)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

これらの数字から、210室が取り込むべき需要の量をおおまかに見積もる。仮にコートヤードが年間OCC70%(通年の仮定値)で稼働すると、年間の販売客室数は約5.4万室泊になる。高知市の既存5,551室が観光庁のビジネスホテル並みの68.1%で稼働していると置けば、市全体の販売客室数は年約138万室泊で、コートヤード1棟の分はその約3.9%にあたる。計画3棟が揃えば、同じ稼働率を保つために約10.8%の需要増が必要になる。土曜とピーク日はすでに満室圏であるため、増える需要のほとんどは平日の業務・MICE需要と、閑散月の観光需要で埋める形になる。ミーティングルームを持ち、国際的な会員プログラムで法人・インバウンドの需要を取り込めるコートヤードは、この平日の需要を広げる役割を担いやすい立ち位置にある。

立地評価 — 商業地域・容積率600%、地価は4年で+3.8%

国土交通省の不動産情報ライブラリで計画地(本町三丁目2番15号付近)を確認すると、用途地域は商業地域で、指定容積率600%・建蔽率80%である。延床約11,000㎡・14階建ての計画は、この高容積の指定を生かした構成といえる。計画地から東へ約290mにある地価公示地点「高知5-4(本町2丁目104番)」は、2026年1月1日時点で1㎡あたり16.4万円・前年比+1.2%であった。

計画地周辺の地価公示(1㎡あたり)— 「高知5-4」本町2丁目104番(計画地から約290m)

2022年1月1日

158,000円

前年比 0.0%

2024年1月1日

160,000円

前年比+1.3%

2026年1月1日

164,000円

前年比+1.2%

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

この地点は2022年・2023年と横ばいで、2024年から上昇に転じた。2022年から2026年の4年間では+3.8%である。中心商店街の「高知5-12(帯屋町1丁目170番外)」は2026年に27.3万円(+1.5%)、「高知5-1(本町1丁目38番1外)」も27.3万円(+3.0%)で、はりまや橋に近い「高知5-6(はりまや町1丁目108番)」は22.1万円(+0.9%)である。三大都市圏の中心部と比べれば地価の伸びは穏やかだが、上昇基調が続いている点は、長期保有を前提とするオーナーにとって資産価値を下支えする材料になる。

表6 計画地付近の用途地域・標高・災害想定
項目計画地付近の結果出典・注記

用途地域商業地域・容積率600%・建蔽率80%国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)
標高T.P.+1.6m国土地理院 標高データ(1mレーザ測量)
津波浸水想定1m以上〜2m未満国土数値情報 津波浸水想定(高知県、2016年設定)
洪水浸水想定(想定最大規模)0.5m以上〜3.0m未満(鏡川・国分川)国土数値情報 洪水浸水想定区域
液状化の地形区分旧河道・旧池沼(非常に液状化しやすい区分)国土交通省 地形区分に基づく液状化の発生傾向図(250mメッシュ)
長期浸水の標高条件該当(T.P.+2.7m以下)高知県「南海地震長期浸水対策検討結果」(2013年3月)

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。計画地の位置は旧高知新聞放送会館の住居表示を国土地理院のジオコーダで変換した地点で、実際の建物の各部とは異なる場合がある

浸水想定 — 市内ストックの95.9%が同じ条件、差がつくのは「再開の早さ」

高知市は南海トラフ地震で大きな地盤沈降が想定される都市である。高知県の「南海地震長期浸水対策検討結果」(2013年3月)は、中央防災会議の2003年モデルに基づき浦戸湾付近で1.95mの沈降を想定し、現在の標高でT.P.+2.7m以下の範囲、約2,800haが長期にわたって浸水すると整理した。同資料は、中心市街地や国道32号、県庁・市役所、広域災害拠点病院も長期浸水域に含まれるとしている。昭和南海地震(1946年)でも高知市では約1.2mの地盤沈降が生じ、市街地を含む広い範囲が浸水した。

津波については、高知県が2025年10月に13年ぶりとなる新しい津波浸水予測を公表した。解析の網目を10m四方から5m四方に細かくしたもので、高知市では1cm以上の浸水面積が4,689.5haから4,367.6haに縮小した。高知新聞の報道によると、中心部では播磨屋橋以東の電車通り周辺で3〜5m、追手筋・高知駅周辺で1〜2mの浸水が予測され、市中心部の浸水開始は地震発生から40〜60分後とされる。本稿の地図と集計に使った国土数値情報の津波浸水想定(2016年設定)でも、計画地は1〜2mの区分にあり、新しい予測と大きな差はない。個別敷地の設計には、県が公表した新しい予測図で改めて確認する必要がある。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高知市の既存63施設、円の大きさ=客室数)/国土交通省 国土数値情報(津波浸水想定)。計画中の2棟は町丁目の代表点に置いた概略位置

注目すべきは、この浸水条件が計画地だけのものではない点である。高知市の既存63施設・5,551室の所在地を同じ津波浸水想定と照合すると、浸水想定区域に入るのは58施設・5,324室で、客室の95.9%にあたる。最も多いのは計画地と同じ1〜2mの区分で、38施設・4,097室(客室の73.8%)を占める。標高で見ても、56施設・5,180室(93.3%)が長期浸水の条件であるT.P.+2.7m以下にある。つまり、高知市の中心部でホテル事業を行う限り、浸水リスクは避けて通れる条件ではなく、全ての事業者が共有する前提である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高知市の既存63施設・5,551室)/国土交通省 国土数値情報(津波浸水想定、高知県2016年設定)

そうであれば、新築のホテルが既存施設に対して差をつけられるのは、浸水を避けることではなく、浸水した後にどれだけ早く営業を再開できるかである。国土交通省と経済産業省が2020年6月に公表した「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」は、受変電設備などの電気設備を想定浸水深より高い階に置くこと、建物の出入口や開口部に止水板などを設けて浸水を防ぐこと、浸水しても使える設備を選ぶことを、新築時の対策として整理している。1〜2mの浸水が想定される敷地では、受変電設備と非常用発電機を2階以上に置くことが基本的な考え方になる。

被災後の宿泊需要という観点もある。2026年7月28日の令和8年熊本地震の後、熊本市中央区の推定OCC(対象38施設/客室5,501室、主要予約サイト掲載ベース)は、2026年7月の82.8%から8月に96.5%へ上がった。夏休みの季節要因も含む数字ではあるが、被災地の周辺では復旧工事や支援に携わる人の宿泊需要が生まれることを示す一例である。長期浸水域にある高知市中心部で、浸水後も早く電力と客室を戻せるホテルは、こうした復旧需要の受け皿にもなりうる。

収支の簡易試算 — ADR×OCCの感度と、浸水対策Capexの重さ

最後に、市場の実勢水準を手がかりに210室の収支を簡易試算する。ADRはブランド側の想定ではなく、高知市の施設別分布から置いた。¥12,000は上位価格帯(¥10,000以上)の下の方、¥14,000はその中位、¥16,000は市内で150室以上を持つ施設の12か月平均の最高水準(¥16,600)に近い値である。OCCは、観光庁の2025年確定値で高知県のシティホテルが70.8%、ビジネスホテルが68.1%であることを基準に、65〜80%の幅をとった。客室売上は総売上の80%、GOP率は30%と置いた(GOP=売上高営業総利益。売上から人件費・原価・運営経費を差し引いた、賃料・減価償却・金利前の利益)。GOP率は、飲食と会議室を持つ業態であることを踏まえて保守的な水準とした。分母には工事の契約価格85億円を使い、土地の取得費や開業費、家具・備品などは含めていない。

表7 ADR×OCC別の年間GOPと工事契約価格に対する比率(試算)
ADR \ OCC(通年の仮定値)65%70%75%80%

¥12,0002.2億円(2.6%)2.4億円(2.8%)2.6億円(3.0%)2.8億円(3.2%)
¥14,0002.6億円(3.1%)2.8億円(3.3%)3.0億円(3.6%)3.2億円(3.8%)
¥16,0003.0億円(3.5%)3.2億円(3.8%)3.4億円(4.1%)3.7億円(4.3%)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。セルは年間GOP(カッコ内は工事契約価格85億円に対するGOPの比率)。前提:210室×365日、客室売上比率80%、GOP率30%。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です

試算では、年間GOPは2.2億〜3.7億円、工事契約価格に対する比率は2.6〜4.3%となった。仮に工事契約価格の5%にあたるGOP(4.25億円)を得るには、同じ前提でRevPAR(ADR×OCC)がおよそ¥14,800必要になる。高知市の推定成約ADR(¥7,900)に観光庁のビジネスホテル稼働率(68.1%)を掛けた市場の目安(約¥5,400)の2.8倍である。宿泊特化型の収支モデルでは説明しにくい水準であり、ダイニング・会議室の売上、国際ブランドの送客力、そして土地・建物を長期に持つ事業者の資本コストを合わせて成り立つ事業構造だと読める。駅や沿線の開発と一体で中心市街地のにぎわいをつくる鉄道会社にとっては、ホテル単体の利回りに加えて、まちづくりへの波及まで含めて評価する投資といえる。

浸水対策の設備投資は、この試算の中ではどの程度の重さになるか。受変電設備の上階配置や止水板、非常用発電機の増強などに工事契約価格の1〜3%(0.85億〜2.55億円)を追加すると仮定すると、ADR¥14,000・OCC70%(通年の仮定値)のケースで工事費に対するGOPの比率は3.31%から3.28〜3.22%へ0.03〜0.09pt下がる。追加額をこのケースの1日あたりGOP(約77万円)で割ると、110〜330日分の営業にあたる。

表8 浸水対策の追加投資とGOP比率への影響(試算)
浸水対策の追加投資(仮定)追加額工事費に対するGOP比率1日あたりGOP換算

追加なし(基準)—3.31%—
工事契約価格の1%0.85億円3.28%約110日分
工事契約価格の2%1.70億円3.25%約220日分
工事契約価格の3%2.55億円3.22%約330日分

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(ADR¥14,000・OCC70%(通年)、年間GOP約2.8億円、1日あたり約77万円)。追加投資の比率は説明のための仮定で、実際の工事費ではない

比率で見れば、浸水対策の追加は利回りをわずかに押し下げるだけである。一方で、1日あたりGOPに換算した「営業何日分か」で見ると、決して小さな金額ではない。この投資の効果は、浸水が起きたときに受変電設備の更新にかかる費用と期間をどれだけ抑えられるかで決まる。高圧受変電設備が水没した場合、機器の調達と交換に長い期間を要することが多く、その間の休業はGOPの減少に直結する。長期浸水が想定される地域では、止水・排水の復旧を待つ期間も加わる。レンダーにとっては、この設計上の対策が、休業に伴う損害を補償する保険の条件や、事業継続を前提とした融資条件を検討する際の判断材料になる。

デベロッパー

浸水リスクは中心市街地のほぼ全施設に共通する。差がつくのは設備の配置と再開までの期間であり、受変電設備の上階配置は設計段階で最も費用を抑えて組み込める対策である。

鉄道系デベロッパー

県都の上位価格帯は1,515室と薄い。駅・沿線の開発と一体で平日の業務需要とMICEを広げることが、210室の稼働を支える近道になる。

地銀・ノンリコースレンダー

RevPARの感度(ADR¥12,000〜16,000×OCC65〜80%)と、浸水時の休業日数の想定をセットで見る。設計上の対策は、休業損害を補償する保険の条件と融資条件を検討する材料になる。

まとめ

コートヤード・バイ・マリオット高知の210室は、高知市の既存ストック5,551室に対して+3.8%で、市全体の規模から見れば無理のない追加である。ただし、2028年までに中心部で計画3棟・602室が加わること、そして競合しうる¥10,000以上の価格帯は1,515室しかないことを考えると、吸収のハードルは数字以上に高い。高知市の推定成約ADRは前年比+6.3%と上昇基調にあり、土曜とよさこい期間はほぼ満室である。そのため、成長の余地は平日と閑散月の需要をどれだけ広げられるかにかかっている。

敷地は商業地域・容積率600%の中心部で、地価は2024年から上昇に転じている。津波浸水想定1〜2m・標高1.6mという条件は、市内の既存客室の95.9%が共有する前提である。そのため、この案件で問われるのは、浸水を避けることより、浸水した後に早く営業を再開できる設計になっているかどうかである。受変電設備の上階配置などの対策は、利回りへの影響は小さいまま、休業期間と保険・融資の条件に効いてくる。県都に外資ブランドを検討する事業者にとって、高知の案件は、需要の薄い上位価格帯と地域共通の災害リスクの二つを、ブランドの集客力と設備仕様でどこまで補えるかを見る試金石になる。

本稿の数値に関する注意:推定成約ADRと推定OCCは調査時点(2026年9月)までの実績月の値で、2026年9月以降の月は調査時点の掲載水準に基づく推定のため使用していない。開業・完成予定の時期と客室数は各社の公表・報道に基づき、今後の設計や協議で変わる場合がある。収支の試算は市場の実勢水準から置いた簡易なもので、ブランド・運営会社の想定値ではない。

関連記事

参考資料・出典一覧

■ データソース

推定成約ADRは、高知市でOTA上の掲載価格が観測できるホテル・旅館(各月57〜60施設、ビジネスは43〜46施設)の最安プラン水準に業態別の補正係数を掛けた推定値(税抜相当)で、2025年9月〜2026年8月の実績月を用いた。推定OCCとブッキングカーブは、主要予約サイトで総客室の30%以上を掲載する固定コホート(34〜36施設)の残室推移から算出した。既存ストック(63施設・5,551室)は2026年6〜8月に掲載価格の観測がある5業態の施設を数えた。計画中の施設は国土交通省「建築物動態統計調査」と各社の公表・報道、敷地条件は国土交通省 不動産情報ライブラリ・国土数値情報・国土地理院 標高データ、県の稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年確定値)による。

■ 試算前提

収支の簡易試算は、210室×365日、客室売上比率80%、GOP率30%、分母は工事契約価格85億円(土地取得費・開業費・家具備品を含まない)。ADRは¥12,000〜16,000、OCCは通年65〜80%の仮定で、ブランド・運営会社の想定値ではない。浸水対策の追加投資は工事契約価格の1〜3%とした説明用の仮定である。需要シナリオは、観光庁の高知県ビジネスホテル稼働率(通年68.1%)を基準に、客室が2028年末に6,153室となり閉館はないと置いた。

■ 限界・留意点

推定成約ADR・推定OCCはOTA販売在庫に基づく推定で、各施設の実際の成約価格・実稼働率とは異なる。推定OCCは宿泊前日(LT1)時点の値で、販売停止した客室も消化として数えるため、直前の上積みはやや大きめに出る。津波浸水想定は国土数値情報(高知県2016年設定)の区分で、2025年10月公表の新しい予測とは網目の細かさが異なる。敷地の位置は住居表示から変換した代表点である。計画施設の客室数・時期は今後変わりうる。

■ 計画・事業者の公表資料

■ 政府統計・公的データ

■ 市場データ・業界資料

Share.