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解体工事が進められていた「旧香川県立体育館」が、保存活用に向けての“最後のチャンス”を迎えています(詳細はこちらの記事を→https://bunganet.tokyo/kagawastop/)。この機に、BUNGA NETでは緊急連載「旧香川県立体育館に思う──アーキテクトボイス50」を行います(発起人:田根剛、佐々木睦朗、北山恒、宮沢洋)。この建築や今回の経緯への思いを、1日1人ずつアップしていきます。33人目は、高松市の対岸、岡山市を拠点に活動する建築家の弥田俊男氏です。(ここまでBUNGA NET編集部)

 2011年4月に、独立して自分の設計事務所を立ち上げると同時に、岡山理科大学工学部建築学科の准教授に着任し、岡山に拠点を持つことになった。その頃から対岸の地の香川からは、丹下健三による香川県立体育館はいずれ解体されることになっているらしいとの風の噂が耳に入ってきていた。同様に、岡山市にある佐藤武夫による岡山市民会館も、将来は解体されて歴史公園にされるというような未確認情報が聞こえてきていた。

 そうした中、2014年11月に、村野藤吾による八幡市民会館の保存活用を目指した「八幡市民会館リボーン委員会」によって、九州・山口の建築12大学の学生からの再生活用案を集めた学生提案展が開催されると聞きつけ、自分の足元の岡山での来るべき時への準備として展示を見に駆け付けるとともに、八幡市民会館リボーン委員会を推進している地元財界の中心人物の話を聞く機会を持つなどした。その後に八幡市民会館は閉館(2016年3月)し解体予定の危機に瀕したが、八幡市民会館リボーン委員会による現代美術館としての再生活用の提案などを経て、2018年に北九州市が保存活用する方針を固め、宮本佳明氏らの設計により「北九州市立埋蔵文化財センター」へとコンバージョンされることとなった経緯は、勇気をもらえる先例である。

 お隣の香川での動向も気にかけ、見守ってきた。香川県立体育館の保存再生活用への活動としては、改修計画のための調査結果から2012年に競技場部分が使用停止となり、翌年の3回の耐震改修工事の発注には最終的に1社の応札もない不調により、香川県が耐震改修を断念した(2014年6月)直後、香川の建築家カワニシノリユキ氏がすぐさま立ち上げた「香川県立体育館 保存の会」(後に改名し「船の体育館 再生の会」)(2014年7月)が嚆矢となった。徒手空拳的ではありながら精力的に活動を続け、2021年に実施された「サウンディング型市場調査」には、運用や改修方針や事業収支など具体的にかなり踏み込んだ熱量ある提案を行い、2023年2月に香川県立体育館の取り壊しの方針が正式発表された際には、県政の中から声を届けるべく4月の投開票日まで残り1か月しかないタイミングで、「かがわ船の党」を結党(2023年3月)して香川県議会選挙に出馬したものの力及ばずの結果となるなど、孤軍奮闘を続けてきた。

 カワニシ氏の約10年間の悪戦苦闘の活動が、長田慶太氏の「旧香川県立体育館再生委員会」に引き継がれた以降については、BUNGA NETで詳しく報じられている通りである。

 私自身もいくつかの建築の保存再生活用の活動に関わってきている。岡山後楽園の門前の地に建つ明治~昭和初期の商家「福岡醤油建物」では、建物を守り活かそうという近隣市民、地元名士、設計者や学識者、大学のゼミ学生といった有志に声掛けをして「福岡醬油建物プロジェクト」を立ち上げ、2012年~2020年までの間、建物を周辺地域に開いた再生活用実験プログラム〈たまりBAR〉を開催するなどしながら、官民協働によるMINTO機構を活用した再生計画を立てていたところ、石川文化振興財団が建物を所有することになり、地階をアートギャラリーへと耐震改修する設計に携わり、現在は「福岡醬油ギャラリー」として活用されその姿を街に残している。奈良・春日大社では、谷口吉郎の設計による春日大社宝物殿を耐震改修し増改築した「春日大社国宝殿」、新潟県長岡市では、吉武泰水も設計に関わりdocomomo Japanにも選定されている市民に愛されてきた図書館建築「長岡市立互尊文庫」を「長岡戦災資料館」へとコンバージョンする展示空間設計に携わった。

ありし日の岡山市民会館。2024年に閉館し、解体された(写真:宮沢洋)

 行く末が危ぶまれた岡山市民会館に対しても、正式に問題が表面化する以前から有志と協力しながら水面下で行動してきた。少しでも抗うべく学術的評価の獲得を目指し2022年6月にdocomomo Japanに選定されたが、力及ばず2024年から解体が開始された。解体の進行中においても、行政内部と掛け合い、躯体のみが残された今まさに香川県立体育館が置かれる状況と同じ段階に対して、失われてしまえば取り戻すことのできない近代建築の価値や空間の迫力を体感する機会を創出しようと企てた。もしかしたら、市「民」の大量の声や財力を有する「民」の強力な声が巻き起こせればと、最後の逆転に一縷の希望を期してはみたが、辛うじて建築学生を対象とした躯体空間見学会が実現できたまでに留まった。

2025年5月、岡山市民会館のスケルトン状態で実施された躯体空間見学会の様子(写真:弥田俊男)

 日本の社会はなぜか、一度決まったことは変えたがらない。「官」に見受けられがちな、体面を重んじ、事なかれ主義の先送りで責任を回避し、顔色を伺う体質。そして「民」の無関心、他人事、諦観、忘却。日本に蔓延する「官」「民」のこの気質こそが、地域の魅力の未来への根深い障壁となる。

 八幡市民会館では、“志”「民」と“財”「民」と「官」が同じ方向を目指すことができた。残念ながら岡山市民会館では「民」も「官」も反応しなかった。香川県立体育館は、かつてない本気度の充実の“志”「民」と“財”「民」が結集しており、残すは「官」に同じ方向を向かせることができるかどうかである。

 存廃の岐路に立たされている近代建築の中には、耐用年数に先回りしてある早い時期に呪詛のように“解体・再開発”の命令が秘かに書き込まれたものが一定数あると思っている。それを嗅ぎ取った志ある人物が早くから声を上げても冷ややかに“から騒ぎ”としか受け取られず、いよいよ呪詛が発動して正式に解体が発表されてから慌てて活動開始しても“時すでに遅し”というパターンである。香川も岡山もこのタイプであろう。

 香川の知人から香川県立体育館の件には「黒幕」がいると聞いたことがある。真偽は定かではないし誰かも分からない。岡山市民会館の件にもラスボスがいた。その難敵に正論を衝突させて戦うだけではなく、こちらの提案にどれほどに賢く正しい“得”があるかを耳打ちし、方針を翻すに値する合理性をラスボスに得心させ“堕とす”ことができるか、しなやかにしたたかに最大の“敵”を最強の“味方”にできるかに成否の鍵があると考える。

 この2026年5月、国土交通省から都市再生特別措置法の一部改正が公布された。その中で〈地域固有の魅力を活かし、既存ストックを活用し、エリア全体に民間投資を呼び込み、地域住民が愛着と誇りを持てるまちづくりを進めることが重要〉〈地域に民間投資を呼び込み、個性ある都市空間を実現する「令和の都市(まち)リノベーション」を進める必要〉として、「固有魅力維持向上区域(通称:わがまちリノベーション区域)」による法律・予算等への支援がついに制度化され始めた(詳細はこちら→https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi07_hh_000298.html)。今まさに国策の潮目も変わろうとしている。

 香川県立体育館を巡って巻き起こっている保存再生活用へのこれほどの活動のうねりは、これ以降は起き得ない最大規模で最後のものであろう。そして、香川県立体育館がどのような結末を迎えるかは、建築や地域の問題だけに留まるものではなく、日本という国や国民の将来の有り様を“象徴”する、非常に重要な分水嶺なのだと感じている。

 とうに日本は、大量消費・一極集中・拡大の「成長」の時代から、持続循環・多極分散・縮小の「成熟」の時代へと突入している。今、壊されずに現存している“歴史”の可能性を見極め、どのように護り残し、改変し、新旧を併存させることによって、地域の“未来”の新しい魅力と価値を編み出すか。その知恵の深化、そのための技術の進化を、競い合い、高め合う。それこそがこれからの「成熟」の時代に向かうべき都市文化の発展の先進的なあり方ではないだろうか。

 まさに今こそ、逆風や荒波を打ち破り、新たな潮目と風を掴み、時代の先端へと漕ぎ出していける「船」となれるか、それとも旧い価値基準に固められたまま解体され沈みゆく「船」となってしまうか。これからの時代において、「賢」となり「先進」となり得るか、「愚」となり「後進」になり下がるか。現代の我々に重大な選択が突き付けられている。

弥田俊男/弥田俊男設計建築事務所、岡山理科大学准教授

プロフィルはこちら→https://www.axismag.jp/posts/2018/08/99587.html

外構の解体工事が始まった頃の旧香川県立体育館(写真:宮沢洋、2026年5月10日撮影)

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