岐阜県美術館(岐阜県岐阜市)で、「フランス近代絵画の祝宴」が12月13日まで開催中です。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、フランスのパリに世界各地から集った芸術家たちは、互いに刺激を受け合いながら活動し、激動の時代を鋭くとらえる感性と、新たな表現の探求によって、美術の潮流を次々に花開かせました。

本展では、笠間日動美術館と岐阜県美術館の西洋美術コレクションによる夢の饗宴が実現。印象派のモネやルノワールに始まり、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャン、そしてマティス、シャガール、藤田嗣治、ピカソといった巨匠たちの200点を超える作品が一堂に会する、宴の時となるでしょう。

マリー・ローランサン《三人の踊り子たち》1937-38年 岐阜県美術館蔵
ポール・セザンヌ《聖アントニウスの誘惑》1874年頃 笠間日動美術館蔵
オディロン・ルドン《神秘的な対話》1896年 岐阜県美術館蔵

岐阜新聞創刊145年記念 フランス近代絵画の祝宴

会場:岐阜県美術館 展示室3(岐阜県岐阜市宇佐4-1-22)

会期:2026年9月26日(土)~12月13日(日)

開館時間:10:00~18:00(10/16、11/20は20:00まで) ※展示室の入場は閉館の30分前まで

休館日:毎週月曜日(祝・休日の場合は翌平日)

料金:一般1,300円、大学生1,100円、高校生以下無料
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、特定医療費(指定難病)受給者証または登録証の交付を受けている方およびその付き添いの方(1名まで)は無料
※ミライロID利用可

アクセス:
JR西岐阜駅から徒歩約15分
JR岐阜駅・名鉄岐阜駅から岐阜バスで「県美術館」下車すぐ
名神高速道路岐阜羽島インターから車で約20分

詳細は、岐阜県美術館公式サイトまで。

展覧会の見どころ

画家たちが制作に込めたまなざしに思いをはせながら、巨匠たちと対話する特別な時間が愉しめます。そこで、本展に登場する主な巨匠についてご紹介します。(※解説は本展図録より転載)

ピエール=オーギュスト・ルノワール

「幸福な絵画というものは、生涯の終わりになってもなお人に幻想を与え、ときには喜びをひき起こす」―ピエール=オーギュスト・ルノワール(レイチェル・バーンズ編、小勝禮子訳『日経ポケット・ギャラリー ルノワール』)日本経済新聞社 P.76.)

ルノワールは実在する女性をモデルとし、姿勢や身振り、表現方法を変えながら、裸婦という主題に繰り返し取り組んだ。目の前の人物と、長い絵画の伝統のなかで描き継がれてきた裸婦像のあいだを行き来し、ひとつのモティーフを素描から絵画へ、ときには彫刻へと展開していった。裸婦は、時代を超えた永遠の美を表す主題でもあった。本作品では、透明感のある色彩が重なり、互いにとけあいながら、身体と周囲の空間を形づくっている。この頃ルノワールは、アメリカの画家で批評家のウォルター・パッチに「裸婦を見ると、そこには無数の細かな色合いがある。そのなかから、カンヴァス上の肉体を生き生きと震わせる色を見つけなければならない」と語っている。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《泉》1910年頃 油彩、画布 岐阜県美術館蔵
アンリ・マティス

マティスがニースを訪れ、その光について語った言葉「毎朝この光が見られるのだとわかったとき、私は自分の幸福が信じられませんでした」―アンリ・マティス(『マティス 画家のノート』二見史郎訳、みすず書房、1978年、p.142.)

北方出身のマティスにとって、南仏ニースの強く明るい光は特別な魅力を持っていた。1917年の初訪問以来、毎冬同地で制作を行い、1921年からは住居を構えた。本作は、ニースの海岸を望む「オテル・ド・ラ・メディテラネ」(「地中海ホテル」)で描いた一点である。マティスはこの時期、ホテルの室内を舞台にしてモデルや道具を配置しモティーフとした作品を複数残している。

アンリ・マティス《窓辺にすわる女》1919-20年頃 油彩、画布 笠間日動美術館蔵
パブロ・ピカソ

「もっとも恐ろしいのは、完成というものが、けっしてないということだ。『もう充分に仕事をした。さあ、明日は日曜日だ』と言えるような瞬間は、絶対やって来ない。止めるや否や、もう、また、はじめている。もう、これには触れまいといいつつ、一つの絵を片付けてしまうことはできる。だが、終わりという字を書き込むことは、絶対にできない。」―パブロ・ピカソ、エレーヌ・パルムラン(『ピカソは語る』瀬木慎一、松尾邦彦訳、造形社、1977年、P.6-7.)

ピカソは晩年に至るまで自身の様式の破壊と創造を繰り返した。本作は82歳の作品である。「画家とモデル」および「アトリエの画家」という主題は生涯探究したものだが、1963年、老境のピカソは画家としての自分を見つめ直すかのように集中してこのテーマに取り組んだ。画面左上には、1920年代より親交を深めた銀行家でありコレクターのマックス・ペレケルに対する献辞が書き込まれている。

マルク・シャガール

「私はただ部屋の窓を開けていただけだった。すると、青い空気、愛、そして花々が彼女と共に入り込んできた。白ずくめの衣装、黒ずくめの衣装で、彼女はずっと前から私の画布(カンヴァス)の向こうを飛んでおり、私の芸術を導いていたのだ。」―マルク・シャガール(Marc Chagall Ma Vie, Paris: Stock, 1983, p.170.)

祖国に戻ることも叶わず、波瀾万丈な人生を送ったシャガールだが、第二次世界大戦後は南仏の光に魅了され、1966年以降は南仏サン=ポール=ド=ヴァンスに落ち着き終の住処とした。80代のシャガールが描いた本作には、画家が繰り返し描いた、花束、恋人たち、窓といったモティーフが、青を中心とした穏やかな色彩の中に浮かび上がる。引用は、シャガール唯一の自伝より。のちに死別することとなる愛妻ベラとの若き日の出来事を、詩的な文章で追想している。

ワシリー・カンディンスキー

「現代の《抽象》の或る種のものは、最高の意味で、芸術的生命を具備している。すなわち、それらには生命が脈打っている、それらは生の喜びを発散し、眼を介して人間の内面を揺り動かす。純絵画的な方法で。」―ワシリー・カンディンスキー(「抽象芸術論考」『カンディンスキー著作集3』)

1922年にバウハウスに赴任したカンディンスキーの作風は、有機的な抽象から幾何学的な抽象へと展開する。この時代の絵画の構成要素をめぐる研究成果は、著作『点・線から面へ』にまとめられた。本作はタイトルにあるように、淡い色調の中で、動的要素と秩序がバランスをとり合いながら画面を構成している。引用は、フランス画壇でいまだに敬遠されていた抽象絵画を擁護するため、1930年パリの芸術雑誌『カイエ・ダール』にカンディンスキー自身が執筆した文章より。

ワシリー・カンディンスキー《活気ある休息》1923年 笠間日動美術館蔵
フィンセント・ファン・ゴッホ

「タッチ、筆触とはなんと奇妙なものだろうか。戸外で風と、太陽と、人々の好奇心にさらされながら、できる限り仕事をし、大急ぎでカンヴァスを埋めていく。でもそんななかで真実と本質を捉えること。それはこの上なく難しい。しかし、少し経ってからこの習作に取り掛かり、描かれた対象に合わせて筆触を整える。するとたしかに、よく調和した見映えのよいものになり、清澄さや微笑ましさが加わっていく。」―フィンセント・ファン・ゴッホ(ファン・ゴッホ美術館編『ファン・ゴッホの手紙II』圀府寺司訳、新潮社、2020年、463頁.)

1889年、ゴッホは精神的に追い込まれ、自ら南仏サン=レミ=ド=プロヴァンスの療養院に入る。発作の再発に不安を抱きながらも、療養院の空いている部屋をアトリエとして借りながら真摯に制作を続けた。本作は療養院の近くの景色を見て描いたものだろう。植物の生い茂る窪んだ道を女性が歩き、強い陽光が照りつける情景を、鮮やかな色彩と大胆なタッチで捉えている。画面左手には、この地でゴッホが大切にしたモティーフであるオリーブの木が見える。

フィンセント・ファン・ゴッホ《サン=レミの道》1989-90年 油彩、画布 笠間日動美術館蔵
クロード・モネ

「テムズ川はまさに黄金色に輝いていました。なんて美しいことでしょう。あまりの美しさに、私は狂ったように筆を走らせ、太陽と水面に映るその光を追いかけて描きました。その間、各家庭の台所から煙が立ち上り、その煙のおかげで霧が立ち込め、やがて雲が湧き上がりました」―クロード・モネ(D. ヴィルデンシュタイン、1985年、書簡1593)

1870年におきた普仏戦争から逃れるため国外に出たモネは、霧に包まれた近代工業都市ロンドンを訪れた際にその独特の雰囲気に魅了された。1899年から数年間、数回にわたり同地を再訪すると、テムズ川北岸のサヴォイ・ホテルに滞在し、バルコニーから見える景色を描き続ける日々を送った。時間帯に合わせて方向を変え、午後の時間には、南向きにチャリング・クロス橋の方向を向いて、目の前の光景が消え去る前に、光が変わるたびにカンヴァスを変えては画面にそのすべてを描きとめる。現場での即興的で大胆な筆致による描写の後、フランスのジヴェルニーに戻ってからの丹念な仕上げによって、一瞬を永遠の美へと置き換えていった。移ろいやすく気まぐれな気候と工場からの煙等を含んだ濃密な大気のヴェールを通して見える儚く繊細な光と色彩。その効果を捉えようとする挑戦は、モネに幽玄な世界観と豊かな色調のパレット、雰囲気のある神秘性を創造させ、その後芸術的到達点をもたらした。

クロード・モネ《ロンドン、チャリング・クロス橋》1900年頃 油彩、画布 笠間日動美術館蔵

モネやルノワールが捉えた光と色彩のきらめきから、ゴッホの大胆な筆触、ピカソやマティスが切り拓いた革新的な表現まで、西洋美術史を彩る名品たちがかつてない規模で集う本展。笠間日動美術館と岐阜県美術館が誇る選りすぐりのコレクションがひとつの空間で響き合う様は、まさに芸術の豊かな実りを祝う祝宴そのものです。巨匠たちと出会う贅沢なアートの旅へ、ぜひ会場へと足を運んでみてください。(美術展ナビ)

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