高橋 杉雄

防衛研究所防衛政策研究室長

台湾海峡有事の発生を、どうすれば防ぐことができるのか。防衛研究所上席研究官の高橋杉雄氏は「さまざまな前提を踏まえて考えると、2つの可能性を局限していく必要がある」という――。


※本稿は高橋杉雄『世界戦争論 次の大戦争をどう防ぐか』(SB新書)の一部を再編集したものです。


中華人民共和国の旗。アメリカ合衆国の国旗。台湾旗

写真=iStock.com/HUNG CHIN LIU

※写真はイメージです



「現状」についての合意がない危うさ

激しい対立があったが戦争にならなかった、冷戦期のことを考えてみよう。冷戦期には米国とソ連は直接戦争することはなかった。その大きな理由は相互核抑止である。キューバ危機を最後に食い止めたのは、米ソがともに抱いていた、核戦争を本当に戦うことの恐怖であった。


加えて、1975年のヘルシンキ宣言により、国境線についての現状を合意できたために、「現状とは何か」を共有し、お互いにそれを打ち破ろうとしないことをひとつの暗黙の前提とすることで、対立しながらも共存していくことができた。


台湾海峡有事を防ぐことを考える上で非常に難しい問題は、この「現状とは何か」についての関係国の合意が存在しないことである(※1)。


「現状を変える」方法をめぐる深い溝

まず、米国も日本も含めた関係国が合意している現状とは、中国を代表するのは中華人民共和国であるということである。日米ともに中華人民共和国を外交的に承認し、台湾(中華民国)との公式な外交関係を持たない。


同時に、日本も米国も、台湾海峡を巡る問題については平和的に解決することを支持しているとしている。一方で中国は軍事力を行使しての統一を排除していない。


つまり、中華人民共和国が中国を代表するという「現状」についての合意は明確に存在しているものの、「現状を変える」とすれば平和的手段に限ると考える日米と、武力を行使して「現状を変える」ことも排除していない中国との間に深刻な立場の違いがあることになる。


(※1)笹川平和財団における「核脅威の増大と抑止のあり方」事業研究会で同財団の福田潤一主任研究員より聴取、2024年2月27日。


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