2016年の熊本地震から10年。再び大きな揺れに襲われた熊本では、1カ月半余りを経て夏休み明けの学校生活が再開している。しかし、子どもたちの日常が元に戻ったわけではない。自宅を失い避難生活から通う生徒、鉄道の不通で片道3時間をかけて登校する生徒、家計が急変した家庭、そして今後表面化するかもしれない心への影響――。9月、熊本市内の九州学院中学校・高等学校、学校法人九州ルーテル学院が運営するルーテル学院中学・高等学校と九州ルーテル学院大学を訪ねた。

 九州学院では、地震発生時すでに夏休みに入っていたものの、部活動や夏期講座で生徒が登校していた。教職員はまず屋外へ避難させ、保護者と連絡を取りながら順次帰宅させた。室永芳久校長によると、八代市や氷川町などを中心に自宅が被災した生徒がおり、9月の新学期開始後も20人以上が被災した自宅から通っている。交通手段を失った水俣方面の生徒にはオンライン授業を認めるほか、希望者には食費のみの負担で一時的に寮を開放している。

 大きな壁となっているのが通学だ。JR九州によると、9月17日現在、鹿児島本線の宇土―八代間は引き続き終日運転を取り止めており、10月中旬ごろの再開を目指している。通学利用者を優先した代行バスが走るものの、それまで鉄道を利用していた通勤・通学客がバスに集中し、道路そのものも混雑している。

 室永さんは「通学だけで体力を消耗している」と話す。始業に間に合わない場合は遅刻や公欠について柔軟に対応しているが、生徒にかかる負担は大きい。県内の私立学校長らも県に通学手段の確保を求めているという。「バスを増やせばいいというだけでもない。道路が渋滞すれば災害復旧にも影響する」と、交通インフラそのものが学校生活を左右する現状を指摘した。

 2016年の熊本地震では、九州学院の校舎も深刻な被害を受け、1カ月近く学校を再開できなかった。教室が使用できず、プレハブ校舎で授業を受ける生徒もいた。当時担任だった室永さんは「全然違う」と振り返る。10年前の震災後に建て替えた建物に大きな損傷がなかった。新学期早々、生徒の心の状態を把握するアンケートを実施。現時点で地震との関連が明確な変化は確認されていないものの、室永さんは「心理的な問題がこれから出てくる」と見ており、スクールカウンセラーとも対応に備えている。

 同じ課題はルーテル学院中学・高等学校にもある。地震発生時、部活動などで約70人の生徒が校内にいた。全員をグラウンドへ避難させ、保護者への引き渡しを進めたが、道路は大渋滞。普段なら車で40分ほどの距離を、保護者が長時間かけて迎えに来たケースもあった。

 校内にも地震の爪痕は残る。約100年の歴史を持つ礼拝堂には亀裂が入り、毎朝の礼拝などで使われてきたパイプオルガンは内部のパイプが倒れ、一部の音が出なくなった。体育館では部材の落下や窓ガラスの破損があり、取材時も使用できない状態だった。学内では約50カ所に被害が確認されたという。それでも授業再開そのものを妨げるほどの被害には至らず、チャプレンの野口和音さん=写真最上部=は、10年前を受けた耐震対策に加え、夏休み中だったことで安全確認や補修の時間を確保できたことも大きかったと振り返る。

 ここでも最大の課題の一つが通学だ。宇土、八代方面などから通う生徒も多く、鉄道が使えず、バスでは片道3時間を要する生徒もいる。午前6時に家を出ても学校に着くのは午前9時。1時間目には間に合わない。それでも「授業を休みたくない」と、遅れてでも授業に参加をする生徒がいるという。野口さんは、「一人ひとりに寄り添いながら生徒に向き合っていければ」と話す。

 もともと長期休暇明けは心が不安定になる生徒もいる時期だけに、今回は地震や避難生活の影響が重なる。「キリスト教主義の学校として、できる限りさまざまな面で先生方も心を尽くしてくださっている」

 中高、大学を擁する九州ルーテル学院は、学院全体でも早い段階から対応に動いた。光永尚生(ひさお)学院長の教職員向け報告によると、地震翌日には「対策本部」を立ち上げ、4回にわたって会議を開催。施設や人的被害の情報を集約し、議事録を教職員に共有した。

 光永さんは「子どもたちには、リフレッシュする居場所の必要性が今後とも継続して重要になる」と述べ、八代、宇城、氷川など被災地域で今後も必要が生じれば、学校やキリスト教関係団体に限らず、地域で連携して心のケアにつながる取り組みを続けていくことの重要性を訴える。

 被災した大学生らは、同時に支援する側にも回った。大学では日ごろから高齢者施設や児童福祉施設、生活困窮者への支援など、地域でのボランティア活動が行われてきた。今回、約160人が参加するチャペル活動の学生らに呼びかけたところ、夏休み中にもかかわらず、地震支援のために約50人の参加希望者が集まったという。

 大学チャプレンの和田憲明さんは「学生主体になったのが嬉しい」と振り返る。普段から礼拝や奉仕活動、ボランティアを学生自身が担っており、人に関わり、心に寄り添うことを学びと実践の両面で積み重ねてきた。和田さんは、「そうした日常の営みが今回の非常時にも機能したと思います」と語った。

 背景には、2026年4月に学院が設置したアウトリーチセンターの存在もある。それまで個々の教職員のつながりで行われることも多かった地域活動を学院として支え、現地で得た情報を持ち帰って支援につなげる仕組みが、地震発生後にも機能した。

 九州ルーテル学院は今年創立100周年を迎え、記念礼拝や式典を準備する中で被災した。10年前を経験した教職員も多い。だからこそ、光永さんが気に掛けるのは目に見えない疲労だ。「知らず知らずのうちに、私たち自身は疲れています」

 学校が再開した今、むしろこれまで見えにくかった一人ひとりの困難にどう寄り添い続けられるかが問われている。「学びを止めない」ことと同時に、学び続けるための暮らしと心をどう支えるのか。熊本の学校では、授業再開後の長い復旧が続く。

*「熊本地震レポート」として現地を取材した模様を連続してお届けします。

【熊本地震レポート①】 110年の家業に幕 八代の老舗スーパーを九キ災が買って応援「KUMAMOTO BATON」 2026年9月15日

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