ゾロの台湾グルメ 公式インスタグラムより
台湾グルメを紹介して約14万人の登録者を集め、台湾では土産店も経営する日本人YouTuberが、現地で批判を浴びている。発端は高雄の夜市で食べた料理への「クソまずい」という酷評だった。しかし、一つの料理への感想だったはずの話は、なぜ台湾メディアが報じる騒動にまで広がった。
夜市で料理を吐き出し、最後は「台湾嫌い」
問題になっているのは、台湾在住の日本人YouTuber「ゾロの台湾グルメ」こと堀井裕氏だ。台湾各地の飲食店やローカルグルメを紹介し、「台湾グルメで失敗したくない」という旅行者に向けた情報を発信してきた。台湾グルメを軸に動画を重ね、現在のチャンネル登録者は約14万人に上る。
騒動の発端は8月9日に公開した台湾一周企画。台湾のテレビ局TVBSによると、堀井氏は高雄の六合夜市で150台湾ドルの「五花肉泡菜捲(豚バラキムチ巻き)」を食べ、一口で口から出した。その後も味を強い言葉で酷評し、「台湾嫌い」と受け取られる発言をしている。動画は9月にSNSで改めて注目され、台湾メディアも報道。日本語で公開された一本の動画が、撮影された台湾側でも知られることになった。
反論動画でも「まずい」は撤回しなかった
騒動を受け、堀井氏は9月23日、「大炎上の件について」と題した1時間を超える動画を公開した。YouTuber関連ニュースを扱うユーチュラによると、問題となった料理について評価は変えず、「今も言ったるわ。マジでクソまずいから」と改めて主張。一方、「一部の民度の低い台湾人のみなさまへ」と記したサムネイルについては、注目を集める目的で強い表現を使ったと説明し、謝罪した。
料理の好みは人によって違う。グルメを紹介するYouTuberが、食べたものをすべて褒める必要もない。実際、堀井氏のチャンネルは「本音でわかりやすい」「3星評価システム」を掲げており、率直な評価そのものが発信の特徴でもある。それでも今回の騒動は「辛口レビュー」で終わらなかった。台湾側で注目されたのは、料理の評価以上に、その伝え方だった。
「まずい」より問題になった店の見せ方
TVBSなどの報道では、料理を口から出した場面とともに、店が分かる状態で強く酷評したことも取り上げられている。個人の味覚として「自分には合わない」と伝えるだけでなく、その評価が特定の店と結び付いた状態で約14万人規模のチャンネルから発信された。
台湾メディア「Newtalk新聞」によると、台湾を拠点に活動する日本人ジャーナリストの矢板明夫氏は、料理をおいしくないと言う権利はあるとしたうえで、店や店主が分かる状態で食べ物を吐き出し、大勢の視聴者へ「まずい」と発信すれば、店の営業に影響する可能性があると指摘している。
友人との会話で「あの料理は口に合わなかった」と話すのと、店を映した動画で十数万人へ伝えるのでは影響が違う。さらに今回の場合、一皿への不満から夜市への不満へ広がり、「台湾嫌い」と受け取られる言葉まで重なった。台湾側の反発が「料理をまずいと言われたから」だけでは説明できない理由がここにある。
台湾グルメで人気を得て、台湾で店も経営
さらに炎上を大きくしたのが、堀井氏自身と台湾との関係だ。TVBSによると、堀井氏は台北・迪化街で土産物店を経営している。日本メディアの女性自身も、2022年のインタビュー記事をもとに、堀井氏が2019年から台湾に住み、台北市内でスイーツ店を経営していると伝えている。
つまり台湾は、動画を撮るだけの旅行先ではない。台湾グルメを紹介することで視聴者を集め、生活し、実店舗で事業も展開する場所になっている。その人物から「台湾嫌い」と受け取られる発言が出たことで、台湾側では料理の評価とは別の疑問が生まれた。
さらに騒動が広がると、過去の動画まで掘り起こされるようになった。Newtalk新聞は、過去の飲食店での言動や台湾での活動をめぐるネット上の批判も紹介している。ただし、こうした過去の話にはネットユーザーによる指摘も含まれるため、今回の夜市動画で確認された言動とは分けて見る必要がある。
なぜ一皿の食レポが「台湾への姿勢」の話になったのか
ここまでの経緯をつなぐと、炎上が台湾まで広がった理由が見えてくる。一皿の料理を「まずい」と評価した。店が分かる状態で食べ物を吐き出した。夜市への不満を口にし、「台湾嫌い」と受け取られる発言もした。そこへ「台湾グルメを紹介して約14万人を集めている」「台湾で店を経営している」という本人の背景が重なった。
その結果、台湾側で問われ始めたのは、豚バラキムチ巻きがおいしいかどうかではなくなった。「台湾を題材に活動してきたこの人物は、台湾やそこで商売する人たちをどう見ているのか」という話へ広がったのである。料理への評価を撤回しなかった反論動画も、その議論を終わらせるものにはならなかった。
台湾を紹介して人気になったからこそ、台湾からも見られる
今回の騒動にはもう一つ興味深い点がある。堀井氏のチャンネルは日本語が中心で、日本人旅行者を意識した台湾グルメ情報を発信してきた。しかし登録者が増え、影響力が大きくなれば、発言を見るのは日本人だけではなくなる。今回も動画の一部がSNSで広がり、台湾メディアが報じたことで、発言は国境を越えて本人が暮らす台湾へ戻ってきた。
台湾グルメを紹介したから約14万人が集まり、台湾での知名度や事業にもつながった。その一方で、台湾を題材に影響力を持ったからこそ、台湾側からも発言を見られるようになった。この関係が今回の炎上を単なる「まずいと言って叩かれた話」と違うものにしている。
グルメレビューで料理を酷評すること自体は珍しくない。「本音」を求める視聴者もいる。しかし、一皿への評価と、店への評価、夜市への評価、国への評価は同じではない。今回の動画では、その境目が曖昧になったように受け取られた。
一皿の「クソまずい」から始まった騒動が台湾メディアまで巻き込んだのは、言葉の強さだけが理由ではない。台湾を紹介して人気を得て、台湾で生活し、商売する人物の発言だったからこそ、「この人は台湾をどう見ているのか」という別の問いまで生まれた。
台湾を題材に影響力を持つということは、台湾について発信する力を持つと同時に、その発信を台湾側からも見られる存在になるということだ。今回の炎上は、その距離が以前よりはるかに近くなっていることを浮き彫りにした。