世界基準で考える公共交通

経営が苦しくなると「協議」が始まる日本、そんな常識を覆すEU発のヒント

柴山 多佳児

柴山 多佳児
ウィーン工科大学交通研究所上席研究員

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2026.9.21(月)

美しい田園を行くオーストリア連邦鉄道Cityjet。欧州ではこうした地域輸送の路線網も、公的な交通計画(TEN-T)により手厚く維持されている(写真:筆者撮影、以下同じ)

「ビジネス」だから、減便も廃線もある

 国土交通省の都市局が「都市交通政策の再整理に関する検討会」という日本の中規模の都市や有識者からなる委員会を立ち上げた。筆者も「都市軸」についてのワーキンググループのメンバーとして参加したのだが、今年の7月21日に中間とりまとめが公開された。

 その資料に示されているが、国土交通省が全国383都市からの回答を分析したところ、約3分の1に当たる126都市では、都市の骨格構造として計画に位置付けた鉄道やバスの公共交通路線が減便され、9都市では廃止された路線さえもあるという。

 まさに、前回触れた、鉄道やバスがビジネス前提の建付けであるからこそ起こる課題である。国道や高速道路、新幹線には法的な存立の根拠がある。在来線鉄道やバス路線には、それがないのである。

 このことは公共交通サービスの骨格としての鉄道やバスにとっては致命的である。日常の移動に関わるサービスを供するのは基本的に在来線やバス路線だからである。

 人々の日常移動という経済・社会活動の根幹を支える活動を支える公共交通は、現在の日本ではコンビニやスーパーと同じようにビジネスであるとの立場から制度設計がなされている。しかし、経費に対して売り上げが見合わなくなれば、縮小したり撤退したりするのがビジネスの世界の基本である。

 売り上げと経費がバランスして鉄道やバスがビジネスとしてうまくいっている間はよい。ところが、沿線や利用者の状況が変わったり、燃料費や人件費が高くなったり、あるいは政策的に値段(運賃)を抑えざるを得ない状況になると、ビジネスとして成り立たなくなる。事業者と沿線自治体が協議をし、整わなければ廃止——。日本の現実はこんな流れになっている。

 前回の冒頭で触れた名鉄の広見線がまさにその典型である。広見線は輸送密度(1日1kmあたりの輸送量)が約1700人で、「そこそこ」の規模である。それでも、事業者である名鉄の決定で、2029年春には廃止することが決まってしまった。実際に廃止されれば、人々の生活や地域社会や経済活動にはさまざまな支障が生じてくるであろう。

 ビジネスとは異なる全く別のやり方、つまり鉄道路線に対しても公共のインフラとしての存立根拠を与えているところはないのだろうか。日本の国道や高速道路の世界がそうであるように、鉄道路線の区間や経路そのものに法的根拠を与えている例はないのだろうか。

 実はここで大いに参考になると筆者が考えているのが、欧州横断交通網、Trans-European Network – Transport(TEN-T)の2024年の改正である。

 日本語では「欧州横断輸送ネットワーク」と呼ばれることもあるが、以下ではTEN-Tと略す。TENには交通以外にも、電力やガスなどのエネルギー供給網、そして情報通信についてのものもある。したがって、道路や鉄道インフラについては、交通(Transport)を表す「T」が必ず付く。

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