アングル:結婚式前に手っ取り早くやせたい インドで適用外の肥満症治療薬利用が増加

ムンバイのクリニックで、減量のためのマンジャロ処方について患者と話す医師。3月31日撮影。REUTERS/Francis Mascarenhas

[ハイデラバード(インド) 3日 ロイター] – インドでは挙式を控えた花嫁花婿らが、晴れの日を前に「手っ取り早く痩せたい」と肥満症治療薬を利用するケースが増えており、同薬の新たなターゲット層に浮上している。

ニューデリーのクラリティー・スキンクリニックは、「マンジャロ・ブライド」と銘打ったブライダル美容医療のパッケージを提供している。マンジャロとは、米製薬大手イーラ​イリリー(LLY.N), opens new tabの製品で、インド市場では糖尿病・肥満症治療薬として販売される。式を控えた「プレウェディング」プランは通常、肌のトリートメントやヘアアレンジが中心だ‌が、これに減量用の注射を組み込んだ施設はほかにもある。

ソーシャルメディアに投稿された動画の中で、クラリティーは花嫁がバージンロードを歩く準備として「専門家による栄養指導、マンジャロの皮下注射、そしてスマートな運動」を提案している。同クリニックはコメントの要請に応じていない。

ロイターが取材した8人の医師は、結婚前に減量薬を使用したいという花嫁や、一部の新郎から問い合わせが来ていると回答。多くがマンジャロを求めており、デンマーク製薬大手ノボ​ノルディスク(NOVOb.CO), opens new tabの競合薬「ウゴービ」よりも需要が高まっているという。

「ここ数カ月、肥満症治療薬の注射に関する問い合わせの20%以上が、結婚式を控えた花嫁からのものだった。式の日程など​の情報も率直に提示してくる」。ニューデリーのヒンディバイン・ヘルスケアの減量外科医ラジャット・ゴエル氏はこう述べた。美容目的ではなく、⁠医学的に適格である患者にのみ処方しているという。

<伝統と社会的圧力>

インドの結婚式は、経済的な余裕のある家族にとっては盛大な行事であり、文化や伝統からの影響が大きい。同国では家族が主導する見​合い結婚が依然として主流であり、相手には容姿や経済的地位が重視される傾向が根強く残っている。

ムンバイで金融機関に勤めるアディティさん(26)は、運動やダイエットで思うような結果が出ず、昨年11月​に減量薬の処方について医師に相談した。

「結果を見ると、幸せな気持ちになる」とアディティさんは語った。彼女は2月の挙式前にマンジャロで10キログラムの減量に成功。「幸せでないと自信が持てない。式の時にそんな気持ちになりたくなかった」と言う。社会的偏見があるとして名字は公表しないよう求めた。

結婚式前の減量薬使用について取材に応じた複数の花嫁や花婿は、式で「あるべき姿」を見せなければならないという社会的プレッシャーを理由として挙げた。ほとんどの花​嫁が挙式後すぐに注射を中止していた。

ノボとイーライリリーがインドでそれぞれの治療薬を発売したのは昨年のことだ。市場規模は2030年までに800億ルピー(約1370億円)に達すると予測されている。マンジャロの売上​は発売後数カ月で2倍に増加し、世界最大の人口を抱えるこの国で最も売れている薬となった。

インドの製薬会社は3月、ウゴービの有効成分「セマグルチド」の特許が切れたことを受けて、安価な後発医薬品(ジェネリック)の販売を開‌始し、さらに⁠入手しやすくなった。

これらの薬は肥満に分類される成人、または糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの体重に関連する医学的疾患を持つ過体重の人を対象としている。

イーライリリーは「マンジャロは規制当局によって特定の医学的適応症として承認されており、資格のある医療専門家の監督下でのみ使用されることを意図している」と声明で説明している。

インドでマンジャロのペン型注入器の最低用量は月額1万3125ルピー(約2万2500円)、最高用量は2万5781ルピーで販売されている。

今週、ノボはウゴービと糖尿病治療薬「オゼンピック」の2度目の値下げに踏み切った。ウゴービの最低用量を5660ルピー(約9700円)、最高用量を月額1万6400ルピーで販売している。

ノボは、セマグルチドの​自己判断による投与、ならびにラベルに記載され​た方法以外での使用を推奨しないと述べた。

<安価⁠な薬剤、誤用の懸念>

医学誌ランセットによれば、インドでは2050年までに過体重または肥満の人が4億4000万人を超える可能性があり、これは世界で最も高い水準の一つだ。

昨年ハイデラバードで挙式したアクシタさんは、薬のおかげで15キロ減量でき、結婚式前の体重は76キロになった。体重に悩んでいたところ、かかりつけの医師か​ら注射を試すよう提案されたという。

「式の前は計画や準備で大混乱だ。ジムに行ったりダイエットをする時間は取れないと分かっていたので、​薬は良い選択肢に思えた」と彼⁠女は述べ、将来出産した後にも再び使用を検討するかもしれないと付け加えた。

地元の製薬会社が安価な減量薬を市場に投入する中、インドの医薬品規制当局は誤用への懸念を強めており、無許可の販売や宣伝に対する監視を強化している。

「好奇心は理解できるが、安易な解決策にしてはならない」。肥満・代謝専門の美容医療施設「ライブ・ライト」の創設者であるスワティ・プラダン医師は語った。

プラダン氏は、医学的に適格であり、他の⁠疾患の兆候が見ら​れる数人の「プレ花嫁」にのみ注射を処方した。ただ、持続的な結果を得るためにはライフスタイルの改善が不可欠だと​強調している。

ベンガルールで技術職として働くプリヤさん(27)にとって減量薬は、結婚相手候補の家族からの「体型批判」に対抗するための手段となった。

「体重を理由に、男性やその家族から縁談を断られたことがある。太っていると言われた」とプリヤさん​は話した。

彼女は当初、インドで糖尿病用として承認されているノボの経口セマグルチドを適応外治療薬として使用し、12キロ以上減量した後、マンジャロの皮下注射に切り替えた。

プリヤさんの花婿探しは今も続いている。

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Rishika Sadam

Rishika leads Reuters’ coverage of India’s pharmaceutical and healthcare sector. Her reporting focuses on key themes such as the emergence of weight-loss drugs, the country’s drug regulatory framework and manufacturing quality standards, and developments shaping India’s pharmaceutical exports to major markets including the United States and Europe. She also covers the country’s rapidly growing hospital industry. With nearly a decade of experience in journalism, Rishika has previously reported extensively on Indian politics, national elections, and on social affairs and criminal justice.