イェンス ヴィッシング監督のもとで始まった新生ガンバのキーワードは『前へ』。

選手、スタッフの誰もがその言葉を心に据えて、

プレーも思考も、さらにはフットボーラーとしての生き方を含めて前への意識を強め、サッカーに向き合っている。

今シーズンのWE ARE GAMBA OSAKAはそんな「前へ」突き進む男たちが、

キャリアを大きく動かした体験や出会いといった『突破』の瞬間にスポットをあてる。

その先に、彼らはどんな世界を見出したのだろうか。

 初めての海外、シェフィールド・ウェンズデイFC(EFLチャンピオンシップ)で過ごした昨年2月からの約半年間は、20代後半に差し掛かっていた初瀬亮に、新たなサッカー観を備えさせ、キャリアの広がりを持たせてくれた。

「ヴィッセル神戸での2度のJリーグ制覇など、タイトル獲得に貢献できた事実は自分の大きな分岐点になったし、その経験や自信が海外への挑戦にもつながりました。もっとも、イギリスではほとんどが雨や曇天という毎日で、ピッチコンディション、食べ物、言葉を含め日本と大きく違う環境での挑戦は決して簡単ではなかったです。でも、そこに身を置いたから味わえた喜び、孤独があって、それでも『挑戦し続けることが成長につながる』と思って戦い続けられたのは自信になりました」

 何より、初めて体感する『サッカー』によって植えつけられた闘争心は今も、彼の背中を押してくれている。

「球際を含めて1つ1つのプレーのバトルがほんまに激しく、どの試合も、プレーもまさに『戦(いくさ)』でした。EFLはVARが導入されていないため、目に見えないところでのやり合い、引っ張り合いも多く、でも、簡単にはファウルをとってもらえないのが当たり前で、アバウトなボールで一気に攻守が入れ替わることもしょっちゅうでした。変な言い方ですけど、同じサッカーなのに違う競技をやっているような感覚というか。でも、その強度に食らいついていったから身についた強さもあって、それを毎日の練習から積み上げられたことは今、イェンス(ヴィッシング監督)の強度の高いサッカーをする上でもすごく活きています」

 もっとも、その半年間が自分の人生においてどんな意味を持つものになったのかは答えが出ていないと明かす。結果的にクラブの財政的な事情もあって半年でその場を去らなければいけなくなったことを含め「やり残したことがたくさんある」のも本音だろう。それを意味のあるものにするために『今』と向き合っているということも。

「ウェンズデイの監督に『亮は今、サッカーを楽しめていないように見えるぞ。あれこれ考えすぎてプレーが小さくなっていないか? サッカーをもっと楽しめ』と言われたことがあったんです。僕自身は楽しんでいるつもりでいたので驚きだったんですけど、思い当たる節もあったというか。神戸時代を含め、近年は結果につながるプレーをしようと思い過ぎて、思い切りの良さみたいなところは少し薄れていたかもな、と。でも、それじゃあもったいない。この歳になれば、格段に技術が伸びることはないですけど、気持ちの持ちようでもう1ステップ、2ステップ、成長できるはずなので。だからこそ、チームから課せられたタスクは意識しながらも自分らしく、思い切ってプレーしたい。この歳だからこそ見出せる成長を自分も楽しみながら、僕にとって特別なクラブに戻ってこれた幸せを責任感に変えて、海外でやり残したことを全部、ガンバでやり切るつもりで戦おうと思っています」

 その腹が決まったせいか、初瀬は今「サッカーがすごく楽しい」そうだ。厳しい連戦にも「心は試合ができる喜びで溢れている」と逞しい。

「自分の全部で思い切ってやろう、と考えるようになったら不思議と試合前に緊張することもなくなりました。それに、ここでは心強いサポーターがいつも僕の味方でいてくれるから。彼らの声援を聞きながら、幼少の頃から慣れ親しんだチャントに勇気づけられてプレーできるなんて、こんな幸せなことはないっしょ!」

 だから今日も、猪突猛進。恐れず、ビビらず、サイドを駆ける。



高村美砂●文 text by Takamura Misa