桜のシーズンが始まっていますが、今春は「日本一の桜」で名高い吉野山(奈良県)を含む、修験道の聖地 奈良「吉野・大峯」エリアが要注目です。というのも、4月10日から、奈良国立博物館(奈良市)で開催される特別展「神仏の山 吉野・大峯 ―蔵王権現に捧げた祈りと美―」にて、修験道の聖地「吉野・大峯」に宿る神仏の真髄がかつてない規模で明らかにされるからです。

この大規模展(全161件のうち国宝14件、重文35件)について、奈良博の井上洋一館長は、昨年10月の記者会見で「今まで、この地の文化財を単体で取り上げたことはありましたが、質量ともにこれだけの規模は奈良博として初」と力を込めて語りました。約1000年ぶりに女人禁制の大峯山山上から秘仏を含む6体が初下山することも含め、仏教美術ファン必見の注目ポイントをご紹介します。

特別展 「神仏の山 吉野・大峯 ―蔵王権現に捧げた祈りと美―」

会場:奈良国立博物館 東西新館(奈良市登大路町50番地)

会期:2026年4月10日(金)~6月7日(日)
前期:4月10日(金)~5月10日(日) 後期:5月12日(火)~6月7日(日)

開館時間:午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで

休館日:毎週月曜日 ※ただし4月27日(月)、5月4日(月・祝)は開館

観覧料:一般2,000円、高大生1,500円
※中学生以下無料
※障害者手帳またはミライロIDをお持ちの方(介護者1名を含む)は無料
※本展の観覧券で、名品展(仏像館・青銅器館)も観覧可能

問い合わせ:ハローダイヤル 050-5542-8600

アクセス:近鉄奈良駅下車徒歩約15分/JR奈良駅・近鉄奈良駅から市内循環バス(外回り)「氷室神社・国立博物館」下車すぐ

詳細は、展覧会公式サイトまで。

なぜ桜の名所に?蔵王権現の聖地である吉野・大峯
役行者倚像 室町時代(15世紀) 奈良 𠮷水神社

山岳修業はじまりの地とされる奈良の吉野・大峯エリアは、奈良県の吉野から和歌山県の熊野へと至る大峯の険しい山々が連なる場所。2004年に世界遺産登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産の一部です。

約1300年前、修験道の開祖・役行者(役小角)は、大峯山山上ヶ岳おおみねさんさんじょうがたけで1000日修業をし、金剛蔵王大権現こんごうざおうだいごんげんを感得かんとくしました。役行者は、その姿を山桜の木で刻み、山上ヶ岳の頂上と山下の吉野山(金峯山寺)に修験道の本尊としてまつったと伝わります。そのため、桜が神木として崇められ献木され、吉野山は「日本一の桜」として知られるようになりました。

吉野・大峯は、“蔵王権現の聖地”として、人々の篤い信仰を集めてきた歴史があります。

注目ポイント1 奈良博初!大型スクリーンで日本最大の秘仏・金峯山寺「蔵王権現像」3躯のVR映像
VR映像『金峯山寺』より 製作協力:総本山金峯山寺 製作著作:TOPPAN

吉野山の金峯山寺きんぷせんじは、全国から修験者や山伏が集う修験道の根本道場。本堂・蔵王堂(国宝)の秘仏本尊「蔵王権現像」3躯(重要文化財)は、像高7メートルにも及ぶことから、日本最大の秘仏として知られています。

同寺の五條ごじょう良知りょうち管長(金峯山修験本宗管長)は、蔵王権現について、「役行者が命を削って創り出した日本独特の。いわば”日本製”の仏様」と説明します。さらに、この迫力ある忿怒形ふんぬぎょうについて、「悪い世の中を生きる人々を“こら悪い事をするな、しっかりせい”と𠮟りつけながらも救ってくれる親心のような思いの表れ」と語っています。

VR映像『金峯山寺』より 製作協力:総本山金峯山寺 製作著作:TOPPAN

本展では、奈良博初の試みとして、この秘仏本尊「蔵王権現像」3躯のVR映像を大型スクリーンで上映。可能な限り原寸サイズで再現し、リアルに目の前で参拝したかのような迫力と臨場感を味わえるのだとか。※秘仏本尊「蔵王権現像」は、3月24日から5月6日まで、金峯山寺で特別開帳も行われています。

注目ポイント2 非常に稀有な機会、女人禁制の大峯山寺から金色の秘仏を含む6体の本尊が一挙降臨し寺外初公開

本展を担当する奈良国立博物館の山口隆介美術工芸室長は、吉野・大峯について「まず、桜の名所として知られるようになる遥か前から、この地が神々や仙人が住まう山岳信仰の聖地であったことをお伝えしたい」と語ります。奈良博の研究員が同地の社寺をひとつひとつ訪ね歩き、継続調査してきた成果が凝縮した内容とのことで、力がこもっています。

展示構成は、第1章「伝説の地 吉野」、第2章「金峯山をめざして」、第3章「ひろがる信仰世界」、第4章「後醍醐天皇 吉野へ」、第5章「豊臣秀吉 華の宴」、第6章「近世・近代の吉野と奈良」と歴史をたどる全6章。

その中で、見逃せないのは、女人禁制の大峯山山上ヶ岳山頂の「大峯山寺」から、金色こんじきの秘仏を含む6躯の蔵王権現立像が下山し(うち5躯は初下山)、一挙公開される点です。展示室の一角に大峯山寺の本堂内陣を再現したコーナーが設けられます。

「平安時代に山上に納められてから、約900年ぶりに里へ下りてきたことになります」と山口室長。人力で険しい山道を背負って歩き、下山した5躯の像は必見です。女人禁制なので、もちろん女性にとっては、本展が初めてその姿を拝する機会となります。

中でも金色に輝く秘仏本尊の蔵王権現は見逃せません。過去の開帳はわずか2回。今回を逃すと、2度とお目にかかれない可能性も高く、非常に稀有な機会です。本展の図録で初めて画像としてその姿が掲載されます。

注目ポイント3 修理後初公開!藤原道長が埋経した直筆の「紺紙金字経」
国宝 紺紙金字阿弥陀経(金峯山経塚出土)(部分) 藤原道長筆 平安時代 寛弘4年(1007) 奈良 金峯山寺 【展示期間:5月12日~24日】

平安時代になると、大峯は、弥勒が出現するまで金を秘める山「金峯山」と呼ばれるようになり、時の権力者である藤原道長など貴族が篤く信仰し、参詣しました。奈良博での修理を終えた、道長が埋蔵したとされる道長・師通(道長のひ孫)自筆の紺紙金字経(国宝)全18巻が修理後初公開されます。

南北朝時代には、後醍醐天皇が吉野に南朝を置き、安土桃山時代には、天下人の豊臣秀吉が盛大に吉野で花見を催すなど、歴史の中で何度も登場し、明治期の廃仏毀釈を乗り越えてきた吉野・大峯の地。

重要文化財 金剛力士立像 南北朝時代 延元4年(1339) 康成作 奈良・金峯山寺 それぞれ像高5メートルを超える

奈良博の仏像館には、日本で2番目に巨大な仁王像である金峯山寺の金剛力士立像2躯(重要文化財)が寄託中(国宝の金峯山寺仁王門が修理中のため)です。本展とあわせて、圧倒的なスケールから、この地に残る深い信仰を実感できるはずです。(ライター・いずみゆか)

あわせて読みたい
◇【吉野・大峯展】音声ガイドナビゲーターに柄本佑さん 大河ドラマ「光る君へ」の藤原道長役

◇【吉野・大峯展】藤原道長が書いた国宝「紺紙金字阿弥陀経」展示期間は5月12日~24日に 奈良国立博物館が展示期間を発表

◇【プレビュー】「神仏の山 吉野・大峯 ─蔵王権現に捧げた祈りと美─」奈良国立博物館で4月10日から 寺外初公開多数!修験道の聖地に伝わる至宝の数々を堪能