
近年、高齢化や人手不足の影響などにより日本全国でバスの運転士不足が深刻化し、自治体や交通事業者にとって地域の公共交通ネットワークの維持が課題となっています。 こうした課題に対し、神奈川県横須賀市は路線バスの自動運転の導入を検討・推進しています。2025年12月から2026年2月にかけて、YRP野比駅エリアで路線バスの自動運転走行に関する実証実験と試乗会が行われ、ソフトバンクが自動運転バスの運行に伴う技術やノウハウを提供しました。実証の狙いや背景を紹介します。

話を聞いた人
ソフトバンク株式会社 鉄道事業推進本部 BRT推進部
木下 真吾(きのした・しんご)
自動運転バス事業における事業企画・推進を担当。プロジェクトマネージャーとして全体の指揮や交渉、調整などを行う。

話を聞いた人
ソフトバンク株式会社 鉄道事業推進本部 BRT推進部
竹内 克光(たけうち・かつあき)
木下とともに、自動運転バス事業の事業推進を担当。PMOとして現場でのヒアリングや技術調査などを行う。
朝夕の通勤ラッシュ解決の糸口は自動運転バス? 試乗会に参加してみた

今回、試乗会が行われたのは神奈川県横須賀市のYRP野比駅エリア。YRP野比駅から横須賀リサーチパークまで、往復約6キロメートルのルートを走行しました。
実証実験および試乗会に先駆け、神奈川県横須賀市と京浜急行バスおよびソフトバンクの三者はコンソーシアムを設立。横須賀市が主導する「横須賀市路線バス自動運転導入プロジェクト」の実現に向けた取り組みを進めています。
この取り組みの中で、自動運転走行における技術面の検証などを行う実証実験を経て、実際の走行ルートや運用面での課題抽出を目的とした試乗会を実施しました。今回の試乗会では、1台の大型路線バスによる自動運転レベル2※ での走行の検証を行い、将来的には2台の自動運転車両が連なって走行する隊列走行技術を用いた路線バスの実用化を目指しています。
路線バスの試乗会は、横須賀市民をはじめとする一般のお客さまを対象に行われ、YRP野比駅から横須賀リサーチパークまで片道約3キロメートルのルートを走行しました。
試乗会に参加するため、YRP野比駅でプロジェクトを担当するソフトバンクの木下、竹内と合流。都心からやや離れているためか、人もまばらだなと思っていると…。
「この時間はあまり人がいないように見えますが、今回の目的地である横須賀リサーチパークには多くの企業が集まっていて、そこに勤務される方がここから通勤でバスを利用されるので、朝夕は非常に混雑する駅です。
通常、平日の日中は1時間に3本くらいですが、朝8~9時台と夕方17~19時台は通勤ラッシュで1時間10本前後の運行になります。本当に混んでいるときは、乗車待ちの行列が駅前のロータリーから駅構内にある改札の手前まで続くこともあるんですよ」
そんなに混むんですね! 便数を増やすことで解決するのは難しいのでしょうか?
「便数を増やすのは簡単なことではないんですよ。便数を増やすということは、対応する人員を増やさなければなりませんが、人手不足でかなり難しい状況です。また、運転士さんは路線ごとに固定の配置になるので、人員が増やせたとしても朝と夕方以外は便数が少なく、運転するバスがないということになってしまいます。
そこで、ラッシュ時間帯だけ隊列走行を活用して人を増やさず輸送力を維持できないか、というのが京浜急行バスの考えです」
お話を聞いていると、私たちが乗る自動運転バスが到着。バスの上部やナンバープレートの近くにカメラやセンサーが付いていて、普通の路線バスとの違いが見た目からも分かります。ワクワクしながら乗車するとアナウンスが。車内2カ所に取り付けられたモニターに表示されている内容をはじめ、バスの車外に設置されたカメラやセンサーといった機器、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)による走行中のバスの測位や通信方式など、どのように自動運転を行っているかの仕組みを解説してくれました。


バスに揺られていると、何度か「手動運転に切り替えます」というアナウンスが聞こえてきました。あれ? この試乗会は、自動運転のはずでは…?
走行中、何度か手動運転に切り替える場面がありましたが、なぜでしょうか?
「路上駐車などの障害物を避けるためです。自動運転車両はあらかじめ走行するルートを設定して運行するのですが、障害物の有無は走行しないと分からないので、都度手動で対応することになります。
今回の試乗会の目的は、『自動運転で全ルートを完走する』ことではなく、『自動運転での走行にあたりどのような課題があるかを洗い出す』ことです。最終的には、試乗会で走行したルートは全て、運転士さんの人数を増やすことなく自動運転バスに切り替えていきたいので、どんな課題があるのかを最優先に調査しています」
路上駐車も今回発見された課題の一つということでしょうか?
「路上駐車は課題として想定はしていましたが、思っていたよりも多かったですね。片側一車線の道路で路上駐車があると、避けるためにバスが反対車線に入るので、検知しなければいけない対象物も増えてしまいます。
あとは、一般のドライバーや歩行者との譲り合いも今回見えた課題だと思います。例えば『先にどうぞ』とハザードをたいて知らせてくれても、自動運転バスだと譲られていることが分からないので待ってしまうんです。歩行者が横断歩道で待ってくれるケースなども同様です」
そして、終点である横須賀リサーチパークのバス停に無事到着。さまざまな角度から異常を検知し安全に走行するための配慮が行き届いており、人が運転するのと変わりなく安心して乗車できると感じました。
「単なる実証実験じゃなく、事業化したい」。路線バスの運営課題に本気で向き合う

試乗会でエリアの課題について教えてくれたお二人に、この取り組みについてもう少し詳しくお話を伺いました。
今回の試乗会の実施背景を教えてください。
「バスの運転士不足という社会課題の解決がもともとの大きな目的です。人手不足で減便が続く中、安定した輸送力の確保を実現したいと考えています。
今回、一般道での路線バスにおける自動運転プロジェクトに取り組んでいますが、私たちはもともと『鉄路変換』と言って、鉄道会社が維持できなくなった路線の線路を外し、バス専用道を作って自動運転で運行するBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)の取り組みを行っています。一般の路線バスではなく電車の代わりというイメージで、複数のバスをつなげて隊列走行させるというものです。
他県で行った隊列走行の実証実験を京浜急行バスに紹介したところ、『隊列走行と自動運転を応用すれば、運転士不足やラッシュ時間帯の混雑解消など、バス路線で抱える課題の解決に使えるのではないか』と興味を持っていただき、今回の試乗会実現につながりました」
その中で、ソフトバンクはどのような役割を担っているのでしょうか。
「1つはプロジェクト全体の取りまとめや推進で、横須賀市・京浜急行バス・ソフトバンクの三者間の調整などを行っています。もう1つは技術提供です。今回は、システムがハンドル操作などを部分的に行い、人が運転の責任を持つレベル2の単体車両による試乗会を実施しました。今後はシステムが自動で全ての運転操作を行うレベル4の実装と、複数台のバスでの隊列走行による実証実験を行い、最終的にはレベル4での隊列走行に関する技術やノウハウ提供も引き続き行っていきます」
今回の試乗会で、YRP野比駅エリアを選定された理由を教えてください。
「実は、この点は京浜急行バスの意向が大きいです。試乗会実施にあたり、いくつか候補地を見て回る中で、京浜急行バスから『実証実験だけをやりたいんじゃない。実証して事業化をしたい』と何度もお話をいただきました。YRP野比駅での朝夕の通勤ラッシュと、それに伴う運転士不足という明確な課題を隊列走行でクリアしたい、だからそこで走れるようにならないと意味がないということで、ハードルが高いという共通認識はありながらもYRP野比駅エリアでの試乗会実施に至りました」
実際に試乗会を終えて、手ごたえはいかがですか?
「手ごたえはありましたね。試乗会前は、トンネル内などは手動運転を想定していましたが、実際には技術の調整がうまくいき、走行ルートをほぼ100%自動運転で走行できた日もありました。自動運転に関する技術面での課題はかなりクリアできている状態です。横須賀市や京浜急行バスからは、『順調に実証実験が進んだと思う』とコメントをいただきました。パートナーの皆さんから社会実装の実現に期待が高まっているのを感じています」
「実際に乗った方からも、早く実用化してほしい、実現が楽しみという声を多くいただきました。また、乗車中に眠っている方もいて、普段乗っているバスと変わらない乗り心地を実現できているのではないかとポジティブに捉えています。横須賀市内在住の方も多く試乗会に参加してくださり、地元の皆さんの期待が伝わってきました」
今後も横須賀市で、隊列走行の実証実験を検討しているそうですね。どのようなことに注力していく予定ですか。
「まずは今回の試乗会を含め、ここまでで抽出できている技術面、運用面の課題をクリアしていくことに注力していきます。また、今後も引き続き試乗会の実施を検討していますので、その中で自動運転の取り組みを知っていただいたり、応援していただくといった、社会受容性を高めていく動きも続けていきたいです」
ありがとうございました。今後の展開を楽しみにしています。
ソフトバンクの隊列走行の取り組みはこちらでも紹介しています
(掲載日:2026年3月23日)
文:ソフトバンクニュース編集部


