新規訪問数は年間100軒以上。世界の次世代バーカルチャーを追うお酒ライターが、アジアの新興国が塗り替える「Asia’s 50 Best Bars」の勢力図をリアルレポート! インド・ベンガルール編。

インドのシリコンバレー・ベンガルールで必訪の「世界水準のトップバー」3選

新たな“クラフトカクテルの首都”

インドのシリコンバレーとして知られるベンガルール。日本企業の進出も多く、2000年初頭にはすでに1700を超えるIT企業があり、日系だけでも80社弱が存在していたことを、“専務”時代の島耕作を読んでいた方ならご存じだろう。

多国籍のビジネスパーソンが多いことや2010年に酒類免許改正によってマイクロブルワリーが増えたことから、クラフトビールの街としてのイメージが強いベンガルールだが、この数年で新しい流れがでてきている。世界水準のカクテル文化の勃興だ。

世界のバーランキング「Asia’s 50 best bars 2025」では、この3年以内にオープンした店舗が3軒もランクインするなど、飛躍的に存在感を伸ばしている。

流れが変わったのは、コロナ禍だ。かつての主流は、ビール文化の影響を受けた「提供の早さ」を重視するスタイル。しかし、苦境の中でバーテンダーたちは、自分たちの提供できる真の価値を問い直した。その結果、手間を惜しまないクラフトカクテルと、空間としての魅力を追求する方向へと大きく舵を切ることになる。その活動が世界に知られるまでに驚くほど早かったのは、インド人特有のエネルギーの賜物だろう。

島耕作が訪れた時から約20年。現在では当時の10倍のIT企業が存在するといわれ、ITハブ大国から世界での主導権を握る大きな経済力を持つようになったベンガルールで、現在花開くカクテル文化を紹介したい。

インドのトップバーに名を刻む「ZLB23」

インドのトップバーに名を刻む「ZLB23」スタッフの8割が女性という女性主導のチームであることも特徴。

2023年のオープン後、2024年にはAsia’s 50 Best Bars 2024にランクインし、インドで最上位のIndia’s Best Barに選出された「ZLB23」。位置するのは、インド最大の独立系ラグジュアリーホテル「THE LEELA PALACE」の日本料理店の奥だ。予約者のみが入れるスピークイージースタイルで、ゲストは業務用のエレベーターでバーにたどり着く。そこに広がるのは、邸宅のような趣のラグジュアリーなバー空間だ。

左:隠れ部屋の演出がされた「ZLB23」。 中:オペレーションマネージャーのウチスミタ・ロイ・チョードゥリーと、ヘッドミクソロジストのラジブ・ムカルジー。 右:時間により3部構成でライブ演奏が入る。

コンセプトは“京都のスピークイージー”。カクテルメニューは、禁酒法時代のクラシックの再構築、日本へのオマージュ、そして地元の素材を使ったローカルカクテルで構成されている。重層的な香りや味わいが凝らされたカクテルが多く、インドならではのスパイス使いが印象的だ。例えば、シグネチャーカクテルのひとつ「ショウユ・ラーメン」はテキーラをベースに酒や味噌で旨味を加えたもの、また現地の料理であるラッサムをカクテルに落とし込んだ「サザン・エンバー」は、テキーラとメスカルにタマリンドやカレーソルト等を使用した個性が光る一杯だ。

左から、「ショウユ・ラーメン」、「サザン・エンバー」、「ユズ・ピカンテ」。

3周年を迎えた新たな試みとして始めたのが、インド初となる没入型カクテルスペースの「シアター」。映像とカクテルを連動させる試みで、バー内に設えられた7名の個室にある大型スクリーンに投影される。映像に合わせて、バーテンダーがその場でカクテルを作り上げる仕組みだ。

「ここではバーテンダーは語り部、カクテルは登場人物、そしてゲストは物語の一部となります。細部まで計算された演出とフレーバーの変遷をお楽しみください」とヘッドバーテンダーのラジブ・ムカルジー氏。

アジアの新たなバーシーンの息吹が感じられる場所だ。

クラフトカクテルの新時代を感じさせる「SOKA」

クラフトカクテルの新時代を感じさせる「SOKA」シェフのソンビル・チョードリーとバーテンダーのアビナシュ・カポリが共同代表を務める。2人の頭文字をとり、So(ソンビル)+Ka(カポリ)という店名となった

ベンガルールで外せないバーのひとつが中心部インディラナガル地区にある「SOKA」。2025年のランキングでは28位となり、カクテルラバーが世界から押し寄せる場所となった。

大箱の多いベンガルールでは珍しく、客席は30席程度。洗練されたミニマリズムと遊び心があり、土のようなアースカラーの壁や天井につるされた繭(コクーン)など独自の世界観で魅了する。ヘッドバーテンダーのアビナシュ・カポリは、地元の食材や文化を高度な技術を持って、カクテルに昇華させる。

例えば、「CHEESE CHERRY PINAPPLE」は、その名の通り、かつてインドにおける豪華なガーニッシュ(カクテルの飾り)の象徴だった“チーズ・チェリー・パイナップル”をモダンに構築した一杯。それらの風味を透明化してラムに合わせた繊細な表現に仕上げている。また、口語で「水っぽい」を意味する“PI PI”に掛けた「PI PI MARTINI」は、旧世代のバー文化への自嘲的なジョークを交えながら、最先端の技術でクラシックを再構築する試みが面白い。

バーフードには、マンゴーのチミチュリソースを合わせたフライドチキンや、マトン・ペッパー・フライなど、インド料理の風味をモダンに表現した「ナノ・プレート(超小皿料理)」を提供する。インドのフレーバーを再定義する、次世代バーの象徴的存在だ。

映画のような世界観を表現する「Bar Spirits Forward」

Bar Spirits Forward @barspiritforward.blr

Asia’s 50 best 2025で37位にランキングしたのが、「Bar Spirits Forward」。その店名の通り、ベースのスピリッツと素材を生かした力強い味わいのカクテルが特徴的だ。レトロなポスターやレザーシート、カウンターに飾られたマイクなど、映画セットのような空間で、カクテルにもその世界観が反映されている。

今期のテーマは「Diabolicals(悪役)」。ジョーカーや、グリンチなどおなじみのキャラクターにインスパイアされたカクテルは、ネーミングにも味わいにも遊び心があるもの。

シグネチャーカクテルのひとつ「ORDER66」は、映画『スター・ウォーズ』で、銀河皇帝がクローン兵に出した「ジェダイ(正義の騎士)をすべて抹殺せよ」という非情な絶滅命令のこと。ラムとアマーロに、梅と生姜の酒精強化酒やコーラのスパイスを効かせたインパクトある味わいの一杯。ほかに、世界的な大ヒットドラマ『ブレイキング・バッド』の主人公が裏社会で使用する変名からとった「ハイゼンベルク」は、彼が製造するドラッグが「ブルーメス」と呼ばれたことから、鮮やかな青のカクテルだ。

また、バーテンダーとの距離の近さも「Bar Spirits Forward」の魅力のひとつ。バーカウンターの高さが低めに設計されていることで、バーテンダーの所作を間近で見ながら会話を楽しむことができる。ホスピタリティとエンターテインメント性に富んだ一軒だ。

左:シグネチャーカクテルの「ハイゼンベルク」。 中央:創業者のアリジット・ボース、リードバーテンダーのプリティッシュ・ダコーデー、ロヒル・カリタが率いるバーチーム。 右:悪役からインスパイアされたバーメニュー

国際水準のカクテル技術をもちながら、バーの新興国ならではの自由な発想が交錯するベンガルール。今後のバー文化の盛り上がりも十分に期待できる。その熱量はぜひ現地で体感してほしい。

児島麻理子氏

お酒ライター 児島麻理子
出版社、洋酒会社勤務を経て、酒にまつわる執筆やプロデュースを行い、酒の魅力を発信し続ける。2025年には酒に特化したPR会社TOASTを立ち上げた。年間に訪れる新規バーは100軒以上。世界中の蒸留所も巡っている。