泉屋博古館(京都市左京区)で、特別展「文化財よ、永遠に2026 ―次代につなぐ技とひと 住友財団文化財維持・修復事業助成の成果展示」が4月4日から開催されます。

住友財団は、1991年創立以来、人類共通の宝である文化財を後世に伝えることを現代人の責務と考え、文化財維持修復事業の助成に務めてきました。民間という立場から、我が国だけでなく海外の文化財にまで助成対象を広げて、35年間活動を重ねてきました。

本展は、住友財団の助成事業によって修理がなされ、よみがえった文化財を展示することで、文化財の保存修理を取り巻く環境と技術、そして人に光をあてようとするものです。何人もの人間が一つの作品のために連携して、厳選した材料を惜しみなく投入し、伝統と最新を兼ね備えた技術で最善を模索し続ける文化財修理というものが、はたして大量消費を前提としてコストパフォーマンスを重視する現代社会でどのように生き残っていけるのか。山積する課題を前に困惑して停止してしまわないためにも、文化財修理の意義と技術、さらにそこに注ぎ込まれた人々の努力を、伝えようとする試みです。

滋賀県指定文化財「薬師十二神将像」 南北朝時代・14世紀 新宮神社 Ⅲ期展示(6/2~6/28)
京都府指定文化財 塩川文麟筆 報恩寺本堂障壁画「山水図」 江戸・天保 7年(1836) 報恩寺(場面替えあり)
重要文化財「紅縮緬地熨斗文友禅染振袖」 江戸時代・18世紀 友禅史会 Ⅲ期展示(6/2~6/28)

特別展「文化財よ、永遠に2026 ―次代につなぐ技とひと
住友財団文化財維持・修復事業助成の成果展示」

会場:泉屋博古館 (京都府京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24)

会期:2026年4月4日(土)~6月28日(日)
1期:4月4日(土)~5月6日(水)
II期:5月9日(土)~5月31日(日)
III期:6月2日(火)~6月28日(日)

開館時間:10:00~17:00 (入館は16:30まで)

休館日:月曜日(5月4日は開館)、4月24日(金)、5月7日(木)、5月8日(金)

観覧料:一般1,200円、学生800円、18歳以下無料
※学生・18歳以下は証明書要提示
※本展覧会の入館料でブロンズギャラリーも観覧可能
※障がい者手帳等呈示で本人および同伴者1名まで無料

アクセス:
京都市バス「東天王町」下車、東へ200メートル(5、93、203、204系統)
京都市バス「宮ノ前町」下車すぐ(32系統)
地下鉄東西線「蹴上駅」から徒歩約20分

詳細は、泉屋博古館公式サイトまで。

そもそも、文化財修理とは

長い歴史のなかで継承されてきた文化財。それを次代につなぎとめるためには、適切に修理を行うことが肝要です。現在残されている文化財も、過去の人々によって修理がなされたからこそ、今、目の前にすることができていると言えるでしょう。

現代の文化財修理で目指すのは、文化財の現状を尊重することです。すなわち制作された当時の姿を想像して勝手に補ったり、色を変更したりはしません。それは「復元」と呼ばれる手法で、文化財修理とは区別されます。文化財修理が重視するのは、あくまで現在残されているオリジナル部分の保全です。

本展は、修理という視点から文化財を見つめ直す場とし、作品に宿る魅力とそれを守る意義を感じていただく機会となります。

重要文化財 徐九方筆「水月観音像」 高麗・忠粛王10年(1323) 泉屋博古館 Ⅱ期展示(5/9~5/31)/展示では、修理のために駆使された繊細緻密な技の数々が紹介される
展示のみどころ
1「ものへの光」~修理が完了した文化財が持つ価値や魅力を紹介

現在にまで残る作品の裏には必ず、それを残そうと奮闘した懸命な人々がいます。その人々を駆り立てたのは、やはり作品そのものが持つ力や美しさでしょう。本展では、作品の魅力を文化財修理の出発点として位置付けて、作品たちの美しくよみがえった姿を楽しむことができます。

「繻子地刺繍 仏涅槃図」 江戸・元禄4年(1691) 三寳寺 Ⅰ期展示(4/4~5/6)

この絵の中央に描かれた、涅槃にはいったお釈迦様は、なんと取り外せる仕組みになっています。もちろん今回の修理でも、そこは変えずに取り外しができる形でなおされました。他に例を見ない巨大な刺繍涅槃図を、お見逃しなく。

重要文化財「弥勒下生変相図」 高麗・忠烈王20年(1294) 妙満寺 Ⅱ期展示(5/9~5/31)

高麗仏画のきらびやかな色彩世界に、思わず息を呑みます。幕末の修理銘が残る、古くから海を渡った日本で大切に守り抜かれてきた絵画です。鮮やかな発色の秘訣も、今回の修理で明らかになります。

重要文化財「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」 鎌倉時代・13世紀 泉屋博古館 Ⅰ期展示(4/4~5/6)
[修復中画像〕泉屋博古館蔵「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」

最古級の歌仙絵として古来珍重され、ことに大正期に絵巻から分割され各家蔵となり掛軸に改められたことで有名になった「佐竹本」。もともと横方向に巻く巻物を、縦方向に巻く掛軸に改めたことによる弊害が、切断から100年を経て目立ち始め、修理に入りました。修理後初公開となります。

2「わざへの光」~修理に必要な技術や材料、道具を紹介

文化財と一口に言っても、形式も素材もさまざま。本展では、絵画・書跡の修理/古文書・歴史資料の修理/彫刻の修理/考古資料・工芸品の修理 と4つに分けて紹介されます。さらにいえば、たとえ素材が同じでも、作品が抱える「症状」は作品一点ごとに異なります。作品の「声なき声」を丹念に聞き取り、その「症状」にあわせて繊細緻密な修理技術が注ぎ込まれる修理現場の最前線が紹介されます。

重要文化財「阿弥陀如来坐像」平安・大治5年(1130) 泉屋博古館 通期展示

像内部の銘文から制作年が1130年だと判明しており、院政期仏像の基準作となっている阿弥陀像です。しかし、彩色の浮き、銘文が記されている背板と体部分との接合のゆるみ、大正時代に修理された箇所の損朽も激しく、展示はおろか移動すらままならない状況になりつつありました。そこで、住友財団の文化財維持修復事業の助成を受けて修理に踏み切ることになりました。

〔修復中画像〕泉屋博古館蔵「阿弥陀如来坐像」
3「ひとへの光」~修理に携わった人々の努力を紹介

ひとつの文化財を修理するためには、所有者はもちろん、調査によって文化財の価値を見出す研究者、修理まで導く文化財保護を専門とする行政機関の人たち、さらに実際に修理を行う技師まで様々な人々の連携が必要です。本展では、そうした文化財の裏に隠された人々の努力にもスポットを当てます。

海北友雪筆 麟祥院本堂障壁画「雲龍図」 江戸時代・17世紀 麟祥院 場面替えあり

襖絵を守ろうと奔走した住職によって修理に至った雲龍図。禅宗寺院の方丈で最も格式の高い室中を飾り、麟祥院の歴史を見守ってきた本作。気迫を込めてこれを描いた海北友雪は、麟祥院を開基した春日局によって徳川家光に紹介され、出世の道が開けた画家です。

重要文化財「十一面観音立像」 鎌倉・文永5年(1268) 乙訓寺 Ⅱ・Ⅲ期展示(5/9~6/28)

仏像の修理では、いったん一つ一つの部材単位まで丁寧に分けてゆがみを是正し、安定した状態になるように緻密に組み立て直す解体修理がしばしば行われます。本像の場合、なんと像の中から大量の古文書が見つかりました!本像が造られた経緯が記された貴重な古文書も発見され、制作年の確定などにつながりました。

本展は、私たちが普段目にしている名品の「修復」に光を当てることで、展覧会の舞台裏で何が行われているのかを垣間見ることのできる貴重な機会です。時を超えてよみがえった水月観音像や、巨大な刺繍涅槃図、そして解体修理によって新発見が得られた十一面観音立像など、修復を経て美しい姿を取り戻した文化財の魅力はもちろん、それらを守り、受け継いでいく営みの重みや尊さにも触れられます。本展で、文化財修理の最前線をたっぷりと体感してみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)