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フリーライター・翻訳者
ロシア軍には、戦場で致命的になりかねない「意外な弱点」があった。通信の多くを、アメリカの民間企業が提供する衛星通信「Starlink(スターリンク)」に依存していたことだ。イーロン・マスク氏のSpaceXがアクセスを遮断すると前線は混乱に陥り、通信を失った部隊同士が互いを敵と誤認。友軍誤射で部隊が全滅する悲劇まで起きたと海外メディアが報じている――。

写真=©Valery Sharifulin/TASS via ZUMA Press/共同通信イメージズ
2026年3月5日、国際女性デーを前に、クレムリンで様々な専門分野を代表する女性代表団と会談するロシアのウラジーミル・プーチン大統領
通信遮断で混乱した最前線
ロシア軍が前線で使用している通信網が寸断され、各部隊は混乱状態に陥っている。
イーロン・マスク氏率いるアメリカの宇宙企業SpaceXが、衛星インターネットサービス「スターリンク」へのアクセスを遮断したためだ。皮肉にも、ロシア軍は敵対するアメリカの民間技術に通信の大半を依存していた。
英BBCによると、SpaceXはウクライナのミハイロ・フェドロフ国防相の要請を受け、2月初旬にアクセス制限に踏み切った。以降、ロシア軍の攻撃能力は50%低下し、ウクライナ南東部のザポリージャ州東部など前線各地で撤退を余儀なくされている。
混乱は指揮系統に広く波及した。米軍事専門メディア「ウォー・ゾーン」によると、ウクライナ戦略通信センターは、「過去2年間、ほぼすべての作戦指揮統制が米国の衛星インフラに依存してきた。安定性と速度で匹敵する代替手段は存在しない」と指摘している。各地で突撃作戦が止まり、ウクライナの国防省顧問セルヒイ・ベズクレストノフ氏は、「全軍の指揮系統が停止した」と指摘する。
友軍誤射の悲劇まで起きた。親ウクライナのパルチザン組織アテシュによれば2月、ザポリージャ方面では通信が完全に途絶し、各部隊が互いの位置情報を把握できなくなった。
このとき前進中だった12人編成のロシアの突撃グループについて、別のロシア部隊が敵部隊と誤認し、砲撃を開始。グループは通信手段を失っていたため友軍であることを伝えられず、全滅したという。アテシュは、「通信が失われると指揮系統が崩壊し、部隊は互いを殺し合い始める」と指摘している。
ドローン制御不能で攻撃件数が6割減
ウクライナ軍参謀本部のデータによると、SpaceXが端末の遮断を開始した2月2日以降、前線での軍事衝突は15〜20%減少した。
BBCロシア語サービスは、1月31日に338件あった武力衝突は、2月4日にはわずか133件にまで減少したと報じている。スターリンクを通信基盤として頼っていたBM-35やイラン製シャヘドといったロシアの攻撃ドローンは、接続を絶たれた瞬間に遠隔操作が不能となった。
シンクタンク「欧州政策分析センター」のアナリスト、デビッド・キリチェンコ氏はブルームバーグの取材に対し、「戦闘の多くはドローンで行われており、前線全体の火力による被害の約60%を占めている」と語った。ドローン操縦不能の影響は大きい。
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)も、スターリンクのサービス停止によって攻撃用ドローンを用いた作戦が打撃を受け、「過去数週間と同じペースと深度での攻撃を行うことが難しくなっている」と指摘している。
