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「Day1 ローカル」地域を動かす若きプレーヤー

矢印全寮制の私学高専「神山まるごと高専」の寮生向けアプリ「DOME」全寮制の私学高専「神山まるごと高専」の寮生向けアプリ「DOME」。同高専の一期生で4月から4年生になる中本さんが自作し、インフラとして使われている。撮影:Business Insider Japan

Sansan創業者の寺田親弘氏が発起人となり、2023年に開校した学費無償の私立高等専門学校「神山まるごと高専」。

徳島県神山町に全国から学生が集まり、全寮制で共同生活をおくっている。学生寮に暮らすのは、約120人。生活単位として見れば、一つの「小さな村」ともいえる。

この寮では、朝の点呼や荷物の通知、洗濯機の稼働状況までを一括で管理するアプリが使われている。外部の企業が提供するシステムではない。学生自身が開発し、日々アップデートを重ねているものだ。

与えられた環境をただ使うのではなく、不便であれば自ら作る。神山で起きているのは、この“村”の中で、生活の当事者がインフラを担い、「使う側」から「つくる側」へと回っていく、そんな動きだ。

同高専の学生寮で使われている、寮生活のDXアプリ。その名は「ドーム(DOME)」という。アプリを開発し、AIを相棒にバグ修正や新機能実装などのメンテナンスを担うのは現在18歳、4月から4年生になる中本慧思(なかもと・さとし)さん。

4月から4年生になる中本慧思さん4月から高専4年生になる中本慧思さん。2月、都内で開かれた神山まるごと高専のイベントにて撮影。撮影:Business Insider Japan

寮の生活環境に、現代的なDXを持ち込もうと実践する中本さんに取材すると、「インフラを構築し、維持することの難しさ」を楽しみつつ奮闘する、等身大のZ世代の姿が見えてきた。

※この記事は特集「『Day1ローカル』地域を動かす若きプレーヤー」シリーズとしてお届けします

学生だから着想できた「学生寮のアプリ」神山まるごと高専の学生寮「HOME」神山まるごと高専の学生寮「HOME」。地域にあった旧神山中学校の建物を大規模にリノベーションして学生寮として活用している。写真協力:神山まるごと高専

神山まるごと高専の1年〜3年生用の学生寮「HOME」では、全校生徒約120人が日々の生活を送っている。寮生活では、毎日の点呼確認や、物品の貸し出し作業といった、人手の負担が必要な決まりごとが山ほどある。

共同生活をおくる寮生、運営にかかわる学校関係者の両方から「デジタル化」の着実なニーズはある。が、市場規模の小ささから採算が取れず、システム化しようにも開発の担い手がいない。非常にニッチな領域だ。

DOMEはiOS版、Android版の両方を用意している。取材時点の最新版「DOME Ver. 2」を中本さんが見せてくれた。

DOMEのスライドDOMEのアプリ説明。iOS版とAndroid版がある。アイコンは、歴史のある公立中学校をリノベした、実際の高専の学生寮の外観をもとにしている。撮影:Business Insider Japan

ホーム画面には、学生寮で欠かせない「点呼」が何人まで終わっているか、宅配で届いた荷物の通知、寮生のメッセージなどが表示される。このVer.2では寮内で稼働中の洗濯機がアプリ上から分かるようにもした。

まるで最新のコインランドリーアプリさながらだ。けれども、基本的にDOMEの開発は手弁当で予算もない。どうやって実装しているのだろうか。

「SwitchBotっていう電流が測定できるデバイスを使っています。元は、後輩がDOMEとは別のプロジェクトで、寮の洗濯機を見える化しようと考えていたんです。それを統合して、一緒に実装しました」

DOMEの実際のアプリ。App Storeで一般アプリとして提供されているのでダウンロード自体は誰でもできるが、アカウントが作成できないため、神山まるごと高専の関係者だけが使えるアプリになっている。DOMEの実際のアプリ。App Storeで一般アプリとして提供されているのでダウンロード自体は誰でもできるが、アカウントが作成できないため、神山まるごと高専の関係者だけが使えるアプリになっている。撮影:Business Insider Japanアプリの「フォーム」(左)と「リスト」をタップすると切り替えられる機能。フォームでは外出届が申請でき、入力の手間を減らしてくれる。アプリの「フォーム」(左)と「リスト」をタップすると切り替えられる機能。フォームでは外出届が申請でき、入力の手間を減らしてくれる。画像協力:神山まるごと高専

またホーム画面の余白には、メッセージを投稿できる「掲示板」機能を付けた。

「余白の活用をしようと直感で(掲示板機能を)つくったんですけど、意外とここにみんなが自分のコメントとかを投稿してくれるんです。コミュニティ機能ってすごく大事なんだなって(気付かされました)」

取材していると、機能の端々に、学生寮のリアルユーザーが開発しているからこその視点が詰まっていることが伝わってくる。シゴトとしてアプリを作る大人の発想では、なかなかこうは作れない。

中本さんのアプローチは、目の前に見えている課題でアプリを作り、約120人の寮生たちも協力して完成度を高める、という手法を自然にとっている。ソフトウェア開発で言われる「ドッグフーディング」(自分で開発したサービスを市場投入前に仲間内で改善すること)を実践しているわけだ。

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寮生の「新インフラ」を大人に認めてもらう