マドリードの2強が欧州チャンピオンズリーグで眩い光を放つ中、ひっそりとヨーロッパの舞台で歴史的偉業に挑んでいるクラブがある。
スペインリーグで最も狭いラヨ・バリェカノのスタジアム。屋根も迫ってくる(撮影・高橋智行)
■古き良き時代の雰囲気漂う
それは1924年に創設され、100年以上の歴史がある“マドリード第3のクラブ”ラヨ・バリェカノだ。マドリード中心地から地下鉄でわずか10分の下町を本拠地とし、6月でちょうど50周年を迎えるホームスタジアムのエスタディオ・デ・バリェカスは、レアル・マドリードやアトレチコ・マドリードの最新スタジアムとは違い、古き良き時代のスペインサッカーの雰囲気がまだ漂っている。
サポーターは熱狂的で、ウルトラスはスペイン国内でも最も過激なグループのひとつに挙げられる。ホームでは毎試合、ラウール・マルティン・プレサ会長の辞任を求める大合唱が恒例となっているが、それはずさんな経営やクラブを取り巻く劣悪な環境に対しての訴えだ。老朽化したスタジアムや荒廃したピッチ、ロッカールームやトレーニング施設の不備は、成績にも大きく影響する。ピッチ状態の悪化が原因で先月、オビエド戦が開始直前に延期されたことからも、その深刻さがわかる。
ネガティブな面で注目を浴びることが多く、ピッチ内でのパフォーマンスにスポットライトが当たることはほとんどないが、他のクラブにはない魅力や個性をいくつも持ち合わせている。
ラヨ・バリェカノ戦のチケットはネット販売がなく、観客は窓口で列をなして購入する(撮影・高橋智行)
■25年ぶり欧州カップ戦出場
昨季のサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)は、4537万1000ユーロ(約81億6678万円)でスペインリーグ13番目。それにもかかわらず、真冬でも闘志あふれる半袖姿で指揮を執るイニゴ・ペレス監督に率いられたチームは、昨季のスペインリーグを8位でフィニッシュし、25年ぶりにクラブ史上2度目となる欧州カップ戦出場権獲得を成し遂げた。
最大の目標が1部残留のクラブにとって、資金力が大幅に上回るレアル・ソシエダードやジローナ、バレンシアなどを抑えての欧州カップ戦参加は称賛に値する。
2大会を平行して戦い抜けるほどの戦力を保有していないため、今季のリーグ戦は15位と苦戦しているが、ヨーロッパ第3の大会である欧州カンファレンスリーグでは絶好調だ。1次リーグを5位で通過し、アウェーでの決勝トーナメント1回戦第1戦ではサムスンスポル(トルコ)に3-1で勝利して準々決勝進出に大きく近づいている。欧州の舞台で結果を残すことは、スペインリーグが来季再び欧州チャンピオンズリーグの出場権を5枠獲得する上で重要となる。そのため、この調子を維持して初タイトル獲得という偉業に少しでも近づけることを期待したい。
ビッグクラブ相手には非常にディフェンシブな戦い方で臨むチームが多いスペインリーグにおいて、ラヨ・バリェカノは歴史的にも攻撃的なサッカーを展開するチームだ。それは監督が代わっても基本的には変わらない。決定力のある選手の獲得は金銭的に難しいため、そのプレースタイルが得点数に反映されることはそこまでないが、どんな相手にも真っ向からぶつかる姿はサポーターを魅了している。
スタジアム近くの通りのグッズ売り場(撮影・高橋智行)
■隣接マンションから観戦も
イニゴ・ペレス監督指揮のもと、ダイレクトプレー、素早いトランジション、サイドアタックを武器に、敵陣で選手たちが連携してチャンスを作る。その攻撃の柱は、スペインリーグ屈指の小柄な2選手のMFイシとアルバロ・ガルシア、そしてスペイン代表候補のFWデ・フルートスだ。1月のアフリカ選手権ファイナリストのモロッコ代表FWイリアス・アコマック、同大会王者のセネガル代表MFパテ・シス、昨夏バルセロナの獲得候補に挙がったルーマニア代表DFラティウなどもチームを支えている。
ラヨ・バリェカノを語る上で欠かせないのは、ホームスタジアムのピッチがスペインリーグで最も狭いことだろう(100メートル×67メートル)。エスタディオ・デ・バリェカスは下町の住宅街に狭い場所に建てられているが、当初の建設計画における計算ミスにより、東側ゴール裏には客席がない。隣接するマンションの上層階からは試合観戦が可能となっているほどだ。
ラヨ・バリェカノのホーム試合が見えるゴール裏のマンション(撮影・高橋智行)
スペインリーグの多くのピッチがFIFA(国際サッカー連盟)の推奨する105メートル×68メートルであるため、アウェーチームはやり辛いことをよく口にする。ラヨ・バリェカノはハイプレスや早いテンポのプレーが容易となるホームアドバンテージを存分に生かし、広いピッチに慣れたチームを大いに苦しめている。ホームで非常に負けにくいチームになっており、今季のリーグ戦13試合でわずか2敗しかしておらず、バルセロナやRマドリードとも引き分けた。
■チケットはネット販売なし
全勝中の欧州カンファレンスリーグでは、ピッチとスタンドの距離を3メートル取らなければならないというUEFA(欧州サッカー連盟)の安全基準を満たすため、さらに横幅を2・6メートル縮めていることは、アウェーチームにとってより戦いづらいスタジアムとなっている。また、スタンドがピッチに近いことで、対戦相手に大きなプレッシャーをかける雰囲気を生み出している。
同じ町にRマドリードやAマドリードというビッグクラブがある中で、ラヨ・バリェカノを応援するサポーターの忠誠心や地元意識は非常に強い。スタジアムの収容人数1万4708人のうちシーズンチケットホルダーは1万2000人で、毎試合満席に近い状態だ。
ラヨ・バリェカノのホーム戦を路地からのぞく人々(撮影・高橋智行)
客席のないゴール裏の路地からピッチが透けて見える様子(撮影・高橋智行)
外から訪れる観戦者が少ないため、チケット販売に力を入れておらず、スペインリーグで唯一インターネット販売がない。そのため観光客がチケットを手に入れるには直接スタジアムに行く必要がある。基本的に試合2日前から窓口販売が開始され、ビッグクラブとの対戦では長蛇の列ができる。
昨今のチケット代高騰を受け、このノスタルジックなスタジアムでは、客席がないゴール裏の路地から試合を覗くサポーターの姿を見ることができる。現在、スタジアムの改修工事や移転で意見が割れており、間もなく近代化に動くだろう。時代の波ではあるものの、その光景が失われることに一抹の寂しさを覚える。
普段、RマドリードやAマドリードの試合観戦でマドリードを訪れる人たちは多いが、古き良き時代のスペインサッカーを感じられるエスタディオ・デ・バリェカスに足を運んでみるのもいいだろう。
【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)