グアダラハラと並ぶメキシコ第二の都市モンテレイ(写真:Rick González / CC BY 2.0)
中米の雄メキシコが今、制御不能な暴力の渦にのみ込まれている。国境を越えた麻薬密売の震源地となっているのがメキシコ・カルテルだ。これに業を煮やした米国は、メキシコ政府に情報提供をした。それによって今年の2月、カルテルとメキシコ軍との激しい衝突が起き、カルテルのリーダーが殺害されたのだ。
これを契機に、組織による報復として、大規模な無差別破壊行為(ナルコ・テロ)が、20州以上の各地で頻発したのだ。主要道路は燃え盛る車両で封鎖され、白昼堂々の銃撃戦が罪のない市民の日常を容赦なく引き裂いた。統制を失った組織はより過激化し、地域社会を恐怖に陥れた。
この凄惨な社会不安の中で、最も危険な標的となっているのが、信仰的使命に堅く立つ牧師や聖職者、そして正義を貫こうとするキリスト教徒の政治家たちだ。犯罪組織にとって、教会は単なる宗教施設ではない。自分たちの支配を根底から揺るがす「最大の障害」なのである。牧師たちが若者に福音を伝え、ドラッグや暴力の連鎖から彼らを救い出すことは、カルテルにとっての「兵員補充」を直接的に妨害することを意味するからだ。
彼らの敵意は、具体的な凶行となって現れている。2022年には、チワワ州の教会に逃げ込んできた男性を助けようとした2人の高齢のイエズス会司祭が、至近距離から射殺されるという痛ましい事件が起きた。また近年では、カルテルの汚職を追及し、地域社会の再建を訴えた敬虔なキリスト者の市長候補が、選挙直前に暗殺されるケースが相次いでいる。みかじめ料(保護料)の支払いを拒否した牧師が、礼拝中に説教壇で射殺されることさえ珍しくないのが今のメキシコの現実だ。
カルテルのリーダーが死んでも、暴力の連鎖は止まらない。むしろ、恐怖による支配を誇示するかのように、信仰者への攻撃はエスカレートしている。彼らはまさに、この世の暗闇に対して「否」を突きつけた故に、自らの命を削りながら福音の灯をともし続けているのである。この暴力の嵐が吹き荒れるメキシコにおいて、さらに霊的な暗闇が深いとされる「円環」へと足を踏み入れた宣教師夫妻がいる。(続く)
■ メキシコの宗教人口
カトリック 77・7%
プロテスタント 11・2%
無神論者 3・6%
土着の宗教 1・2%
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(いしの・ひろし)
2001年より、浜松の日系ブラジル人教会で日本人開拓、巡回伝道者として従事。12年より、奥山実牧師のもと宣教師訓練センター(MTC)に従事、23年10月より、浜松グッドニュースカフェMJH牧会者として従事。18年3月より、奥山実牧師監修のもと「世界宣教祈祷課題」の執筆者として奉仕。23年10月より「世界宣教祈祷課題」を「ワールドミッションレポート」として引き継ぎ、執筆を継続している。
