「こうした職人技を維持するのは本当に大変なんです」と、白戸は話す。京都伝統の町家を建てるためのノウハウも、徐々に失われつつあるという。「町家の保存には多大な努力が必要です」と、白戸は語る。「それでも、壊して新しい建物を建てるよりも、今ある建物を今後の世代に向けて残していくほうが、ずっとサステナブルだというのが、私たちの考えです」

ご馳走になったディナーも終盤にさしかかったところで、「あれ、聞こえますか?」とサムが話しかけてきた。耳を澄ますと、確かに外から、カチカチという音が聞こえてくる。「あれは“火の用心”、防火のための見回りです。毎晩、近所の人たちが拍子木を打ちながら練り歩き、火の用心を呼びかけているんです」

今では夕飯の支度にかまどの火をおこして使っている家庭はほとんどないだろうが、この数世紀の歴史を持つ風習はいまだに受け継がれている。サムと白戸は、地元の町内会ではかなりの若手ということもあり、ゆくゆくは活動に加わりたいという。それによって住民同士の結びつきが強いこの地域で、自分たちの居場所を確保することもできるとの考えだ。

妹島にとっても、この家、そして住人が、ここの地域社会と調和して生活してくれることが何よりも重要だった。設計プロセスの初期段階で、妹島は5つの異なる設計案を提示し、加えて紙の立体模型を製作したという。この模型には、周囲の町並みにある建物も含まれていた。妹島と家主の二人はこの模型を囲み、この家が近所の環境とどう連関していくのか、イメージを掴んでいった。「この建物が、プライバシーを確保しつつ、同時に地域の一部になるように、というのが妹島さんの考えでした」と白戸は振り返っている。

Photos: Yoshihiro Makino Text: Hannah Martin Translation: Tomoko Nagasawa Adaptation: Sakura Karugane