アメリカの宇宙企業Astrobotic Technology(アストロボティック・テクノロジー)は現地時間2026年3月3日、Thales Alenia Space(タレス・アレニア・スペース)から月面用のホイールアセンブリ(車輪システム)を開発する契約を受注したと発表しました。
この車輪は、ASI(イタリア宇宙機関)が進めるMPH(Multi-Purpose Habitation=多目的居住)モジュールに搭載される予定です。MPHモジュールはNASA主導の「Artemis(アルテミス)」計画を構成する重要な要素のひとつで、宇宙飛行士が月面に滞在して科学実験や居住性の検証を行うための与圧モジュールです。現時点での計画では、2033年にNASAのケネディ宇宙センターから打ち上げる計画が示されています。
【▲ 月面に展開されたMPH(多目的居住モジュール)の運用イメージ図(Credit: Thales Alenia Space / Agenzia Spaziale Italiana)】月面の過酷な地形に対応する車輪設計
Astroboticが開発するホイールアセンブリは、起伏のある月面をMPHモジュールが安定して移動できるようにするためのものです。構造的な強度を確保しつつも、地表の状態に合わせて柔軟に変形できる設計が採用されています。
ハブとリムの間を軽量の張力ケーブルで接続することで全体の質量を抑え、接地面のトレッド部分には柔軟な素材が使われます。斜面の登坂や軟弱な土壌の走行時にはしっかりとしたグリップ力を発揮しつつ、平坦な場所では効率的な走行が可能になるよう設計されているとのことです。
この車輪の設計は、同社が自社のローバー「AMP(Astrobotic Mobility Platform)」向けに開発した車輪技術を基盤としています。AMPで培った知見を、MPHが求めるサイズや荷重条件、10年間の運用寿命に耐えられる仕様へと発展させる方針です。

【▲ Astroboticが開発する月面用ホイールアッセンブリのレンダリング画像(Credit: Astrobotic)】月の南極付近での長期運用を見据えた設計
MPHモジュールの運用が想定されている月の南極付近には、長時間にわたって日光が当たらない永久影領域が存在します。ホイールアセンブリには特殊な材料と設計上の工夫が施されており、影の中での運用時に車体からの熱の放散を抑制し、重要な機器を保温するために必要な電力を低減できるようになっています。
また、打ち上げ時の振動や月面到着後の極端な温度変化、放射線、月面の微細な塵(ダスト)への長期的な曝露といった、ミッション全体を通じた環境条件に耐えられる設計が求められています。
米欧協力で月面の持続的な有人活動を目指す
MPHの開発は、Thales Alenia Space Italiaが主契約企業として予備設計フェーズを担当しており、ASIとThales Alenia Spaceの合弁会社であるAltec(アルテック)などイタリアの産業パートナーと連携して進められています。今回のAstroboticへの車輪開発委託は、アメリカとヨーロッパの企業間協力による月面探査推進の一例といえます。
なお、MPHモジュールは幅約3m、長さ約6m、質量約15トンの規模で、1回のミッションにつき2名のクルーが7〜30日間滞在する想定で設計されているほか、緊急時にはより多くの宇宙飛行士を短期間収容する能力も備える計画です。運用期間は約10年が見込まれています。
Astroboticは今後、同社の技術検証プロセスを通じて設計を成熟させ、最終的に飛行可能な仕様へ仕上げていく予定です。
文・編集/sorae編集部
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