佐賀市富士町の山々に囲まれた脊振山地に位置する「cafe space barva(バルバ)」のオーナー、矢野彩子さん(45)。
より子育てしやすい環境を求めて2016年にIターンし、2023年に「自家焙煎のコーヒー屋をしたい」という長年の夢を実現させました。
今回はそんな矢野さんに、佐賀で起業することになった経緯や想い、子育てとの両立、今後の展望などをインタビューしました。

こだわりの自家焙煎が楽しめる空間

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「cafe space barva」は、北山エリアのJA跡地の一角にお店を構えています。

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店内は落ち着いたトーンで統一され、柔らかい光が心地のいい洗練された空間。自家焙煎のコーヒーがやさしく香ります。

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使用する豆は、焙煎前に一つずつ”ハンドピック”で選別し、虫食いやカビ、発酵している豆を取り除くことにこだわっているといいます。

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子育てのために移住、そして起業

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カフェがオープンしたのは2023年11月。3人の息子がそれぞれ5歳、7歳、10歳の時でした。

もともと矢野さんは福岡出身。九州芸術工科大学(現:九州大学芸術工学部)で画像設計について学んだ後、東京のスペシャルティコーヒーの名店「カフェ・バッハ」に就職し、7年間経験を積みました。

コーヒーの道に進んだのは、学生時代に手伝っていた音楽イベントや映画イベントで、「アルコールはあるのに、おいしいコーヒーはなかった」ことがきっかけ。そこから「おいしいコーヒーを出したい」という想いが芽生えました。
また、大学には建築やインテリア、音響やグラフィックなどさまざまなデザインについて学ぶコースがありましたが、「カフェはその全てが入っている集大成」と考えるように。そんな中、縁があって「カフェ・バッハ」に就職することになりました。

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7年間「カフェ・バッハ」でコーヒーの知識や技術を学んだ後、矢野さんは福岡に戻って結婚。グラフィックデザイナーの夫の事務所の1階でカフェを営みながら、長男を出産しました。しかし、福岡の中心部での仕事と子育ての両立は難しく、やっと子どもを保育園に入れることができても、保育園は街中の商業ビルの一角で、子どもをのびのびと育てられる環境ではなかったそうです。

「このままここで子育てをするのは難しい」「いずれは自家焙煎のコーヒー屋をしたい」。そんな思いから矢野さんは、暮らしと仕事を一緒にできる物件を探し始めます。
条件は、夫の仕事が続けられるよう福岡から1時間圏内であること。
福岡でなかなか物件が見つからない中、「空き家バンク」という仕組みを活用し、佐賀市富士町にぴったりの住まいを見つけることができました。

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富士町に移住してきてからは、次男と三男を出産。以前は隣の家の人ともあいさつをしない生活でしたが、佐賀では子どもからお年寄りまで、いろんな人と触れ合える機会があって「とにかく人がよくて住みやすい」と感じています。

「子どもが大きくなったら自分の店を持ちたい」という想いを温めつつ、しばらく子育てをしながら夫の仕事の手伝いをしていた矢野さんでしたが、前の職場の先輩に誘われ焙煎の勉強会に参加するようになり、夫の後押しもあって、そのまま自分の店を開く決心をしました。

店を開く決心をしたはいいものの、周囲からは「まず子どものことをちゃんとしなさい」と反対の声も。「女性で子どももいるし、本当は子どものために貯めていくべき大金を自分のために使うことになるので自分でも悩みました」と矢野さんは明かします。

そんな中、知り合いから佐賀県の起業支援金があることを知り「女性でも(起業に向けて)動けた」という矢野さん。起業支援金は、地域課題の解決を目的とした起業をサポートをするもので、選ばれた場合は、決められた期間内で起業にかかった経費の半分を最大200万円支援するというものでした。

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「山に住んでいると職業がすごく限られてしまうのですが、女性でも、子育てしながらでも、自分の好きな仕事が生み出せることができたのは起業支援金のおかげです。このような仕組みをうまく活用しながら女性ももっと生き生き仕事ができるようになっていけたら」と語ります。

今でも仕事と子育てとの両立で悩むことはありますが、早くから動き出せたからこそ、バランスを見つけながら、一番お金がかかるとされる高校や大学に備えて収入の基盤をつくることにつながったといいます。

“バルバ”、「人が色」というコンセプト 

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「バルバ」は、チェコ語で”色彩”という意味です。
ずっとチェコに憧れてきた矢野さんは、「いろんな色を持った人たちが語り合って、混じり合って、新しい色を生み出していく場」という想いを込めて名前を付けました。

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店内の装飾のトーンが落ち着いているのも、「人が色というコンセプト」だからといいます。

カフェを訪れるのは地元の人や、福岡、佐賀県内からドライブに来る人など老若男女さまざま。「バルバ」で出会った客同士がつながっていく様子を見て「自分のやりたかったいい空間になってきている」と喜びを噛み締めます。「カウンターの向こうに立っていると、舞台を見ているような、私にしか見れない景色」なんだとか。

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カフェを始めて2年余り。今後は、客足が減る冬にも安定して収入を得るためにオンラインの自家焙煎豆の販売にもっと力を入れていきたいそうです。他にも、北山エリアの飲食店と力を合わせてイベントの企画を進めたり、地元の人と地域をどう盛り上げるかについて考えたり、取り組まないといけない課題はまだまだあります。「地域のカフェとして役に立っていけたら」と、矢野さんは語ります。

やりたいと思い続けて20年、ようやく”スタート”させることができた自家焙煎のカフェ。
「やりたいと思うことは、焦らず時期を見ながら努力していけば必ず叶うんだなと実感しています」─ そう話す矢野さんには、笑顔がにじんでいました。

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