ミラノ・コルティナ五輪での衝撃的な結果と決定的瞬間は、開催国イタリアでどう報じられているか。現地在住日本人記者のレポートの凝縮版をお届けします。

「ファンタシェンツァ!」

 りくりゅう会心の演技の中で、イタリアのテレビ中継ではこの言葉が連呼された。まるで《SFファンタジーのように現実離れした》奇跡のスケートだった。ミラノ・コルティナ五輪で繰り広げられたフィギュアスケートの数々のドラマ。開催国イタリアの報道は、同国らしい抒情的な表現でその決定的瞬間を伝えている。

「人間の身に堕ちた神」「団体金は悲劇への前菜」

 2月13日夜、男子個人決勝で大本命イリア・マリニンがまさかのフリー失敗により金メダルを逃した。翌日、イタリアの主要メディアは世紀の大番狂わせを容赦なく伝えている。

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「マリニン陥落。人間の身に堕ちたフィギュア界の神」とは『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙。「自滅したマリニン。氷上に溶け消えた金メダル」とした『コリエレ・デッラ・セーラ』紙は、さらに悲劇性を増した表現で伝えた。

「今となれば、団体戦の金メダルはこの悲劇を引き立たせるためのアンティパスト(前菜)だったようにすら思えてくる」

「カオリはもっとできたはずなのに」

 19日夜の女子シングルでは、坂本花織が銀メダル、中井亜美が銅メダルを獲得した。だが金メダル最有力候補と見られていた坂本の滑走直後、イタリアの実況アナウンサーは「えー……」と言葉を失った。

「カオリはもっとできたはずなのに。いつもの彼女ではない」

 解説者の重い声が、キスアンドクライでうずくまり肩を震わせる坂本の姿に重なる。

「絶望の涙ですね……何千という後悔の念が彼女の頭を埋めていることでしょう」

 それでもイタリアの解説陣は、日本チームをこう評し、一貫して高く評価し続けた。

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