2026年2月22日、メキシコ陸軍の特殊部隊は西部ハリスコ州タパルパでの作戦で、麻薬カルテル「ハリスコ新世代カルテル(CJNG/Cártel Jalisco Nueva Generación)」を率いるネメシオ・オセゲラ・セルバンテス容疑者、通称「エル・メンチョ」を殺害したと発表した。
エル・メンチョの死は、世界の麻薬密売の勢力図における大きな転換点となる可能性がある。だが同時に浮かび上がるのは、CJNGが築いてきた強固な統治モデルだ。高度な情報技術の活用、最新鋭装備の導入、そして柔軟な組織構造──それらが、支配・威嚇・資金調達・人員勧誘を可能にし、同組織に前例のない作戦遂行能力を与えてきた。
さらに、米国国務省は、この組織が「ほぼメキシコ全土」、アメリカ大陸、さらにはオーストラリア、中国、東南アジアの複数の国々において拠点や接点を維持していると指摘している。同省はその犯罪活動の多様性も強調しており、フェンタニルの密売に加え、恐喝、人身取引、石油・鉱物資源の窃盗、違法な武器取引にも関与しているとしている。
CJNGの起源
CJNGの起源は、「エル・チャポ」として知られるホアキン・グスマン・ロエラ率いるシナロア・カルテルとの関係にさかのぼる。2007年頃、シナロア・カルテルはイグナシオ・“ナチョ”・コロネル・ビジャレアルの指揮の下で勢力を拡大。その過程で、傘下のミレニオ・カルテル(Milenio Cartel)が武装部門として活動していた。ミレニオ・カルテルは別名「ロス・バレンシア」とも呼ばれ、当時ガルフ・カルテルから分裂した「ロス・ゼタス(Los Zetas)」と縄張り争いをしながら、シナロア・カルテルの支配下でハリスコ州などで勢力を伸ばしていた。
初期のCJNGは「ロス・マタ・ゼタス(Los Mata Zetas、ゼタス殺し)」と名乗っていた。BBCによると、2011年9月にベラクルス州ボカ・デル・リオで35体の遺体が発見された事件で、SNSに投稿された動画で犯行声明を出したことが、同組織の記録上初めての登場だったという。
そのころシナロア・カルテルとの同盟関係はすでに崩壊しており、2010年にイグナシオ・“ナチョ”・コロネルが死亡したことで、シナロア側にいた勢力の再編が進んでいた。その結果、ミレニオ・カルテル内部が分裂し、エル・メンチョらは独立して新たな勢力を形成した。これが後のCJNGである。指導権はオセゲラ・セルバンテスに引き継がれ、彼はメタンフェタミンなどの麻薬製造と密売の急速な拡大を主導した。
テクノロジーの活用
5年足らずのうちに、CJNGはミチョアカン州南部に拠点をもつ「テンプル騎士団(Caballeros Templarios)」を排除し、ハリスコ州北部およびサカテカス州の一部からもロス・ゼタスを追い出した。グスマン・ロエラの逮捕と引き渡し後、CJNGは戦略を強化し、金融や化学の専門家を勧誘して合成麻薬の製造を拡大するとともに、畜産・鉱業・農業・建設などの分野で資金洗浄スキームを拡大し、中小企業への恐喝も増加させた。
米国麻薬取締局(DEA)によると、CJNGは40か国以上で活動しており、「ロス・クイニス(Los Cuinis)」と呼ばれる財務組織をもっている。この組織はオセゲラの義理の兄弟であるアビガエル・ゴンサレス・バレンシアが率いており、国際貿易、暗号資産、アジアのネットワークとの連携を通じて資金洗浄を調整している。
複数の調査で、勧誘や詐欺にデジタルツールが利用されていることが明らかになっている。2024年、インターポールは、CJNGのような組織が人工知能(AI)や自然言語モデル、暗号資産に支えられた大規模な金融詐欺に関与していると警告。また、詐欺拠点での強制労働を伴う人身取引の拡大も確認された。
