青森県の八戸市美術館で開催中の「GOMA展 WONDER 不思議と驚きと奇跡」は、他県から遠征して見るべき価値があります。障害をものともせず才能を開花させているGOMAさんは、青森県内でのローカルな活動から世界へはばたきつつあるアーティストです。下書きもなく超速で作品を仕上げていく制作スタイルを見た人は、みな「天才だ」と舌を巻きます。早く県外での展覧会を見たいところですが、まずは青森へ見に行きましょう。
GOMA展 WONDER 不思議と驚きと奇跡
会場:八戸市美術館(青森県八戸市大字番町10-4)
会期:~3月29日(日)
開館時間:10:00~19:00(最終入場18:30)
休館日:火曜日(2月17日(火)は開館)
観覧料:一般1,200円/高校生・大学生800円/小学生・中学生600円
※未就学児無料
※障害者手帳をお持ちの方とその付き添い者は半額
アクセス:
・JR八戸線「本八戸」駅下車、徒歩約10分。
・八戸駅東口前バス乗り場1番から中心街方面乗車、約20分。
・中心街ターミナル(三日町または八日町)下車。徒歩2分。
・八戸自動車道八戸ICから中心市街地方面へ約15分
(※駐車場はありません。近隣の有料駐車場をご利用ください。)
詳細は、八戸市美術館公式サイトまで。
GOMAさんというアーティスト
GOMAさんは弘前市の出身。ADHD(注意欠陥・多動症)とディスレクシア(発達性読み書き障がい)と診断されているそうです。2013年に26歳でアーティストになり、最初は「スプレーアーティスト」として活動していました。2015年にパリで開かれたJAPAN EXPO PARISにスプレーアートで参加した際、空き時間にステージ横の壁にペンで描いた即興画が大人気を博し、道を切り替えることになりました。ショッピングモールでライブアートを開いてファンが増え、2022年に初の大規模個展を青森県七戸町で開催。2回目を2024年に同田舎館村で開いて、今回が3回目になります。90%が新作だそうです。
GOMAさんを紹介するパネル
代表作の《MOON MONSTER》は、月に住んでいる怪獣だそうです。2019年にはMOON MONSTERを主役にした文字のない絵本を制作しています。GOMAさんの代名詞的な作品で、「相棒のような存在で、いつか必ず超えてみせるたいと思えるライバルのような存在」だとコメントしています。
エントランスで代表作《MOON MONSTER》がお出迎え
GOMAさんのライフワークが、特別支援学校・特別支援施設でのボランティアワークショップです。「第2のGOMA育成プロジェクト」を主宰して、一緒に作品を作りながら、新しい才能の発掘に努めています。八戸の郷土玩具「八幡馬(やわたうま) 」をモチーフに、八戸高等支援学校の生徒の皆さんとワークショップで作った作品も展示されていました。
GOMAさんが八戸高等支援学校の生徒と作った「巨大八幡馬」
「色のない世界」に驚愕
最初の展示室に入ると、広い部屋の壁面と床が、黒サインペンで描かれた緻密な絵で埋め尽くされていました。案内係の方が「GOMAさんがここで46時間かけて描かれました」と説明してくれました。「下書きもなく、脚立に登ってかなりのスピードで描くんです。サインペンを何本使ったことか」と愉快そう。作品はすべて撮影可。来場者が立つ位置も示されていて、鳥の翼を広げた写真も、「妖精さん」と傘を差した写真も撮れます。
GOMA《World without color》(2025年)の一部
GOMA《World without color》(2025年)の一部
この作品のすごさは、ぜひ動画でご覧ください。
色のない世界には立体作品もあります。国宝や重要文化財の土偶が、GOMAワールドに変身しています。
GOMAさんの立体作品展示風景
GOMA《遮光器土偶の親子》
アートの街作り
GOMAさんが中学生の頃、初めて描いたのがビル群の絵だったそうです。「このビルたちが立体になったらどうなるのだろう」という長年の思いが、展覧会で最初の一歩を踏み出しました。手前にある小さいビル群は、観覧者が描いたそうです。
GOMA《アートの街作り》2025年
LIVE ART GOMAさんの本領
パリでその一歩を踏み出したGOMAさんのLIVE PAINTINGは、国内でも青森県内を中心に大きな支持を得ています。展示の《四神》は、それぞれ青森駅、八戸駅、八戸のショッピングモール、盛岡駅のショッピングモールでLIVE PAINTINGした作品をつなげたものです。4回分なのでかなりの大型作品になりました。
GOMA、「LIVE ART」《四神(玄武、白虎、青龍、朱雀)》
GOMA、LIVE作品《岩木山》2024年
人だかりの中でサインペンを走らせるGOMAさんは、目の合った観客に「お名前は?」と聞いて、その人の特徴を入れたアニマルキャラクターを描き、名前を入れます。男性は犬、女性は猫で描くそうです。
《岩木山》をズームして見ると、LIVE観覧者の似顔絵が無数に入っている
パリでのPAINTINGでは、GOMAさんが少女のリクエストでパンダを少女のイメージで描いたところ、両親を連れてきて「この2人も描いて」とねだられて描き足したそうです。すると「僕も描いて!」「私も!」と次々人が増えて、大盛況になったということです。まるで映画のような場面ですね。
GOMA、LIVE作品《鳳蝶》2025年
かわいいキャラクターアート
絵の一部として描いてきたキャラクターを、一つ一つ細部まで見つめ直したのがこのコーナーです。カラフルな色使いで、ファンタジーにあふれています。GOMAさんの鮮やかな配色は特に台湾でも好まれているようで、引き合いが多いそうです。
GOMA「キャラクターアート」の展示風景
GOMA《MOON MONSTER》
立体のMOON MONSTERも
神を描く
普段、GOMAさんがあまり見せることのない神様たちの作品です。キャラクターの絵とはだいぶ様子が違いますが、本当は一番描きたいのが神話的な存在だそうです。「いつか100体の神様を描き終えたら、神様だけの展覧会も開きたい」。GOMAさんはそんな夢も抱いています。
GOMA「神を描く」から《華虎》(左)と《華龍》
GOMA「神を描く」から《God eye》
花園に分け入る
GOMAさんは「ご来場いただいた方の記憶に残る展覧会にしよう。もう一度は入りたいと思える展覧会にしよう」と常に考えているそうです。この《FLOWER ROOM》はそんな思いを結実させました。3回目の展覧会に、新たに神魚「華」を追加しています。オコゼっぽい神様ですね。
GOMA《FLOWER ROOM》
GOMA《Flower Forest》
触って鑑賞できる作品
手で触れるアートは、目の不自由な子から「どんな絵を描いているの? 見てみたいなあ」という声を聴いて、GOMAさんが答えたものです。デザイン会社の協力を得て、点字印刷機で絵に立体的なエンボス加工を施しました。目の不自由な子は指で触って「猫だ。かわいいね」と言っていたそうです。すごい話です。
GOMA「手で触れるアート」の展示風景
最後はブラックキューブ
フィナーレは「ブラックキューブ」という仕切られた部屋です。中に入ると、ここも非日常の世界そのもの。タイトルは《最後の夜》です。宇宙空間に迷い込んだかのようで、子供たちにはインパクトがあるでしょう。GOMAさんは「久しぶりにスプレーアートをやった。どんどんSNSで拡散して」と話していたそうです。
GOMA《最後の夜》
GOMAさんは図録に次のように書いています。
「自分の展覧会では、訪れた人が深く考え込まなくても、小さな子どもからご年配の方、普段、アートに興味のない方まで、誰もが楽しめる空間を作りたいと、常に心がけてきました」
そんな優しさが見事に伝わってくる展覧会でした。(読売新聞美術展ナビ編集班・丸山謙一)
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