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デジタル全盛の時代に、いま米国で、ある“逆行”ともいえる動きが再燃している。それは、自分たちの手でつくり、綴じ、手渡す小冊子「ZINE(ジン)」の再評価だ。

もともとZINEは、1970年代のフェミニズム運動やパンクカルチャーのなかで育まれたメディアだった。主流メディアに載らない切実な声を、自分たちの手で印刷し、ホチキスで綴じ、直接届ける。その行為は、大きな権力や資本に依存せず、「誰もが対等に語り合える場所」を街の片隅につくる実践でもあったのだ。

ではなぜ今、再びZINEなのだろうか。

Image via Unsplash

背景にあるのは、アルゴリズムによって加速する分断や、民主主義のゆらぎに対する直感的な危機感である。現在のデジタルプラットフォームは、滞在時間を伸ばすことを前提に設計されている。そのため、より刺激的で、感情を強く揺さぶる投稿が優先されやすい構造になっている。しかし、情報の速さは必ずしも理解や対話を深めない。私たちは、理解する前につい、反応してはいないだろうか。

その点、ZINEはまったく逆の時間軸にある。書き、印刷し、製本し、届けるまでに、驚くほど手間がかかる。一見すると非効率だが、この「遅さ」こそが言葉に誠実さを宿らせるのだ。拡散を前提にしない文章、ページをめくる身体的なリズム。それは、情報を一方的に消費する状態から、思考を深めるために滞在する場所へと私たちを連れ戻していく。

そしてこの「遅さ」への回帰は、単なる理念ではなく、具体的な実践として広がり始めている。

米国のニュースメディア「404 Media」もまた、あえてZINEを制作することを発表した(※1)。大手メディアを離れた記者たちが立ち上げた同メディアは、デジタル発の報道機関。それでも彼らは、ウェブメディアを残しつつ「紙で残るもの」を選んだ。常に更新され、仕様変更ひとつで埋もれてしまうデジタル記事とは異なり、ZINEは物理的に存在し続ける。アルゴリズムに左右されず、スクリーンの外で読まれ、誰かの手元に残るメディアでもあるのだ。

さらに、この動きは草の根のコミュニティにも広がっている。ロサンゼルス中央公共図書館で行われたZINEづくりの集まりには、100人近い人々が文房具を手に集まった(※2)。カリフォルニア州の「Long Beach Zine Fest」や、フィラデルフィアの印刷拠点「The Soapbox Community Print Shop」では、住宅権利の主張や気候正義を訴えるアクティビストたちが、Instagramでの拡散ではなく、あえてZINEを手渡す方法を選んでいるという。

SNSの投稿は、見知らぬ誰かのタイムラインに流れ込み、そのまま消えていく。そこでは発信者の顔や、読者の体温が見えにくくなる。一方、ZINEは生身の人間の手を介して動くもの。共に手を動かし、何かをつくるという身体的なプロセスは、ニュース疲れや政治的分断が深刻化するなかで、バラバラになった個人を再び「市民」へとつなぎ直す時間にもなっているのだ。壇上でスピーチをする勇気がなくても、1冊を誰かに手渡すことはできる。それは、もっとも民主的な社会参加の形なのかもしれない。

さらに、ZINEはメディアの「所有」にも問いを投げかける。私たちが日々利用するプラットフォームは企業の持ち物であり、規約やアルゴリズムの変更によって、人々が築き上げてきた「人とのつながり」が容易に断たれる可能性を孕んでいる。しかし、ZINEの場合は異なる。制作も配布も個人の手の中にあり、それは公園や図書館のような公共の概念を、紙の上で再現するような試みにも見える。中央集権的なプラットフォームへの依存を減らし、ローカルな信頼を基盤にした、レジリエントなつながりを築こうとする実践でもあるのだ。

デジタル空間は物事を白か黒かに分けがち。しかし現実の社会課題は、もっと複雑で、割り切れないグラデーションの中にある。手書きの文字や拙いイラスト、コラージュされた写真。ZINEには作り手の迷いや未完成さまでもが包み込まれる。その不完全さこそが、「あなたはどう思いますか」という優しい余白を生み出すのだ。

効率を追い求め、瞬時に正解を求められる時代において、ZINEを読むこと、つくること。それはあえて効率の悪さを味わい、他者の痛みを想像するための時間を取り戻す行為なのかもしれない。

もし、誰にも評価されないとしたら。あなたは今日、どんな言葉を紙に書き記すだろうか。

※1 404 Media Is Making a Zine
※2 Gen Zine: DIY publications find new life as a form of resistance against Trump
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