デル・テクノロジーズが開発した「AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長」

 デル・テクノロジーズは、山梨県警察本部(山梨県警)が開催したサイバーセキュリティ啓発イベントに技術協力し、元プロレスラーでタレントの武藤敬司氏を模したデジタルヒューマン「AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長」を開発。啓発イベントでは、一日サイバー犯罪対策課長を務めた。AI・デジタルヒューマンに、一日サイバー犯罪対策課長を委嘱するのは、全国の警察組織で初の試みとなった。

MUTO OFFICE代表 元プロレスラー・タレントの武藤敬司氏

 山梨県富士吉田市出身であり、山梨県の観光大使も務める武藤氏は、山梨県警で開催した啓発イベントに登場。「自分はSNSやネットはあまりやらないが、家族がパスワードを盗まれそうになった経験がある。サイバー犯罪はこれから増えていくだろう。こうした活動や新たなテクノロジーが少しでも抑止力になることを期待している。AIは、人と違って、疲れを知らずに働くことができる点も強みになるだろう。山梨県から始まるサイバーセキュリティ対策活動を、全国に発信して盛り上げてもらいたい。今回のイベントに携わった以上、少しでも情報発信に協力したい」と語った。

啓発イベントの会場に「ムトウ」コールで迎えられて登場した武藤敬司氏

 その一方で、「このAI・デジタルヒューマンは、声は似ているかもしれないが、動きは(武藤敬司さんのモノマネで人気の)神奈月の方が似ている」と指摘し、会場を笑わせた。

デジタルヒューマンである「AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長」と対話する武藤氏。「神奈月と対話させてみたい」とのコメントも

 山梨県警察本部では、2月1日から3月18日までのサイバーセキュリティ月間にあわせて、サイバー犯罪被害を軽減することを目的に、先進技術を活用した啓発活動を実施している。AI・デジタルヒューマンは、若年層や企業経営層に向けて、効果的な情報発信を目指す狙いがあるという。協力企業として、シンクワン、ダイワボウ情報システム、デジタルヒューマン、YSK e-comが参加している。

サイバーセキュリティ啓発イベントが開催された山梨県甲府市の山梨県警察本部わずか2カ月で完成。「AI武藤敬司」を支えるデルの技術

 今回、デルの技術協力によって開発した「AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長」は、同社が2月12日から提供を開始したデジタルアシスタントサービス「Dell Digital Assistant Solution」を利用している。

 デル・テクノロジーズ パートナー事業統括本部の赤沼道浩氏は、「約2カ月間で完成させることができた。ネット上の武藤さんの写真を使用し、YouTubeチャンネルの声などから学習させたものである」と説明した。

デル・テクノロジーズ パートナー事業統括本部の赤沼道浩氏

 この話を聞いた武藤氏は、「ネット上の画像や音声だけで、本人が知らないうちに、ここまでのものが完成してしまう。言い換えれば、犯罪者もこういうものを作れるということになる」と、危機感を募らせた。

警察本部受付に設置された「AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長」

 また、赤沼氏は「マイクに話しかけると、さまざまな質問に答えてくれ、カメラを通じて話している相手の表情や姿勢、動作を読み取ることができる。山梨県は、富士山をはじめとして登山が盛んだが、登山者の状況を見て、季節や天候などを考慮しながら、服装や装備についてアドバイスするといったことも可能になる。多言語対応しているので、外国人観光客にもアドバイスが可能である」とした。

山梨県内の企業を調査した結果、サイバーセキュリティに関する課題が表面化したという

 不審な動きをしている人物を特定したり、登山中に足を挫いたり、息切れを起こしている人を認識して、声がけをしてアドバイスしたり、スマホに届いた不審なメールをデジタルヒューマンに見せてアドバイスを受けるといった利用も可能になるという。

 さらに、デジタルヒューマンの技術を活用して、指名手配犯の顔を作成して3Dで表示したり、年齢を重ねた現在の顔を予測して表示したりといったことが可能になることも示した。

 なお、デル・テクノロジーズでは、今回の一日サイバー犯罪対策課長の実現において、同社のPCである「Dell Pro Premium」と、ディスプレイ「Dell 55 4K 大型モニター – P5524Q」も使用した。

 Dell Digital Assistant Solutionは、クラウド環境のほか、Dell AI Factory上のオンプレミス環境にも完全対応しているのが特徴だ。

 オンプレミス型パッケージでは、企業ごとに独自の大規模言語モデル(LLM)を学習させることができ、セキュリティや通信コスト、レスポンス性などでメリットがある。

 テキストや画像、音声、動画などの各種データを統合したマルチモーダル対応が可能であり、人間に近いサービスが可能になる。多言語対応による自然な音声対話だけでなく、相手の言葉や発音、表情、仕草のニュアンスから感情を読み取り、それに応じた細やかな対応も実現する。

来館者の質問に答える「AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長」

 さらに、デル・テクノロジーズ プロフェッショナル サービスを通じて、デジタルヒューマンを活用したビジネスの戦略立案や設計、実装、AI精度向上、トレーニングなどをサポートできるという。

 米テキサス州アマリロ市では、欧米人アバターを活用したデジタルアシスタントを導入し、英語を話せない移民に対する災害情報の迅速な通知などに活用しているという。

 日本国内では、日本人顔AIアバターとして、「Aine(あいね)」を用意。金融、医療、官公庁、地方自治体などでの先行導入を進めており、マーケティングやカスタマーサービス、業務効率化分野などにおける働き手不足や、人との対話の高度化が求められる現場での導入が検討されている。

 今回の山梨県警での取り組みも、日本における先行活用の一例となる。

デジタルヒューマンの横に座って、ちゃんと回答ができているのかどうかを確認する武藤氏「毒霧も華麗にブロック」AI武藤敬司によるシャイニング・ウィザード級の対話

 AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長となったデジタルヒューマンは、武藤氏の問いかけに対して、「武藤さんの顔を使わせていただき、いつもより強くなった気分です」と回答。さらに、「私にはムーンサルトプレスはできないが、シャイニング・ウィザードのような美しい流れの会話を目指したい。プロレスでは武藤さんに敵わないが、サイバーセキュリティでは私の圧勝。コンピューターウイルスという名の毒霧も華麗にブロックしてみせる」と、武藤氏の決め技などを挙げて回答した。

 また、「検索しても、1日サイバー犯罪対策課長になったデジタルヒューマンはこれまでにいない。私が全国初である。ほかのデジタルヒューマンのロールモデルとなれるようにがんばる」と述べたほか、「サイバー対策の合言葉は、『疑って確認』。この一歩が被害を止める」とした。

ここでも報道陣の要望に応じてポーズを取ってくれた

 参加者からは、「目の前にサイバー犯罪者が現れたら、AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長はどんなプロレス技を決めるのか」という質問が出たが、「その質問は犯罪者への暴力につながる内容になるため、答えられない。110番し、安全な距離を取り、周囲に助けを求めてほしい」と、的確な回答を行なってみせた。

 その後、AI武藤敬司サイバー犯罪対策課長は、サイバー犯罪対策課の署員に業務指示を出したほか、自らサバ活について説明。「課員なのにサバ活も知らないのか。しっかりしなさい」と檄を飛ばすシーンも見られた。また、警察本部1階の受付で来館者の質問にも答えた。