徳川将軍家の血筋を守るために創設された「田安徳川家」とは

JR静岡駅から徒歩15分、駿府城公園のほど近くに位置する静岡市歴史博物館。

徳川家康をはじめ今川氏や、東海道など静岡市の歴史と文化を学べるこの博物館の3階企画展示室では、現在、企画展「田安徳川家史料寄託記念 徳川御三卿 田安徳川家~静岡藩主家達の生家~」が3月8日まで開催されています。

田安徳川家は、八代将軍・徳川吉宗の子、宗武を祖とし、徳川将軍家の血筋を守るために創設されました。

明治時代に静岡藩主となった徳川家達(いえさと)も、田安徳川家の出身(七代当主)であり、十五代将軍・慶喜に代わり徳川宗家十六代当主になった人物です。

本展では、将軍家を支え続けた田安徳川家に伝わる資料を公開しています。家の成り立ちや将軍家との関わりがわかる資料をはじめ、当主たちの自筆の書や絵画、生活の様子を伝える品々まで、様々な資料が展示されています。

学芸に優れた家として知られる田安徳川家。その文化的な水準の高さを、実物資料から感じ取ることができる内容です。私は書や絵画に関心があるので、歴史上の人物の息づかいを身近に感じられる展示が印象的でした。

書 ― 歴史と教養を伝える、田安徳川家の筆跡
和歌や漢詩といった文芸に優れた家系として知られる田安徳川家。代々の当主が遺した直筆の書が展示されており、その筆跡を通して当主の人柄や時代背景を今に伝えています。

初代・宗武の和歌短冊

田安徳川宗武筆 和歌短冊 個人蔵(静岡市歴史博物館寄託)

宗武が六十歳の長寿を祝って詠んだこの和歌は、九代当主・達孝の死後に至るまで、宗武の命日に毎年掛けられていたと伝えられています。和歌をたしなみ、人生の思いをその一首に託した宗武。その文芸の心は、子から孫へと受け継がれていきました。

二代・治察の漢詩

伝田安徳川治察筆 漢詩句「咫尺愁風雨 匡盧不可登」個人蔵(静岡市歴史博物館寄託)

二つ目は、二代当主・治察による漢詩。治察は20代という若さで亡くなりましたが、幼少期から文芸を好んだ人物でした。その短い生涯の中で遺した貴重な作品の1つと伝わる書であり、確かな才がうかがえます。

三代・斉匡の和歌

田安徳川斉匡筆 和歌帖 個人蔵(静岡市歴史博物館寄託)

三つ目は、三代当主斉匡による和歌。数多く詠まれた歌から和歌の才能が感じられるだけでなく、色彩を施した紙からは、文化を楽しむ華やかな時代の空気が伝わってきます。

朝廷から初代・宗武への公式文書
田安徳川家当主の手によるものではありませんが、初代・宗武が朝廷より位階や官位を授けられた際の公式文書も、見逃せない展示のひとつです。

田安徳川家の歩みを知るうえで重要な史料であると同時に、用いられている紙の色にも注目してみてください。

左:兼任右衛門督口宣案(田安徳川宗武あて)個人蔵(静岡市歴史博物館寄託)右:叙従三位口宣案(田安徳川宗武あて)個人蔵(静岡市歴史博物館寄託)

朝廷の公式文書に使われていた紙は、白ではなく薄墨色。紙そのものが格式を示す役割を担っており、当時の制度や文化を今に伝える貴重な資料となっています。さらに、保存状態が非常に良い点も着目すべき点。時代を超えて大切に受け継がれてきた重みを感じさせてくれます。

絵画 ― 当主の描いた作品
絵画作品からも、田安徳川家の高い文化的素養がうかがえます。

田安徳川慶頼筆 「惇宗院斉匡像」 個人蔵(静岡市歴史博物館寄託)

一つ目は、五代・慶頼が描いた、出家姿の父・斉匡の肖像画。落ち着いた色使いと、細部まで丁寧に描き込まれた表現から、確かな画力が感じられます。

田安徳川斉匡筆「花鳥図」(左:牡丹金鶏図 中:牡丹孔雀図 右:牡丹白閑鳥図)個人蔵(静岡市歴史博物館寄託)

二つ目は、斉匡が描いた「花鳥図」。発色の良い顔料を用いた大作で、迫力のある三幅対の作品です。斉匡は「三玄斎」という号を名乗っており、本作にもその署名が見られます。当時流行した色彩や文化を作品から直接感じ取ることができます。

家達ゆかりの玩具

御三卿田安徳川家御用 亀之助(家達)玩具 妙了寺

家達が用いていたとされる玩具も展示されています。

これらは、かつて田安領とされていた山梨県のお寺・妙了寺に伝えられてきたもので、通常は非公開。今回の企画展は、間近で鑑賞できる貴重な機会となっています。

振ると音が鳴る張り子の玩具で、細かな装飾から職人が丹精込めて作り上げたことが伝わります。

鑑賞のあとは、お茶で一服

鑑賞後は、館内1階にある人気カフェ「hugcoffee」へ。静岡市を中心に展開するカフェで、コーヒーはもちろん、お茶の名産地・静岡らしいお茶メニューも充実しています。

おすすめは、和菓子と静岡茶がセットになった「駿府万福セット(1,200円)」。7種類のお茶から選べるのも嬉しいポイントです。

hugcoffeeオリジナルのお茶の中で特に注目したいのが「山椒緑茶」と「山椒抹茶ラテ」。家康公が鷹狩の際に立ち寄った由比の林香寺で、和尚が山椒の葉を浮かべた水を飲み、その味に驚き喜んだという逸話に感銘を得て、hugcoffeeが自ら取材して開発した一品です。

現在のポップアップ展示「関守」

また、hugcoffee博物館店では、作家作品のポップアップ展示も定期的に開催されています。1〜2か月ごとに展示替えが行われ、静岡ゆかりの作家や作品が紹介・販売されています。

次回は静岡市清水区の山のふもとで木工製品を製造する「挽物所639」による「コーヒーと樹の器」の展示販売が行われる予定。

寒い日や天候が気になる日でも、田安徳川家が育んだ優美な文化の世界に触れながら、じっくりと歴史と文化を味わえる静岡市歴史博物館。展示鑑賞のあとは、温かいお茶でほっと一息——そんな冬のおでかけはいかがでしょうか。

■静岡市歴史博物館
場所:静岡市葵区追手町4―16
時間:9:00~18:00
休館日:月曜(祝日の場合は開館、翌平日休館)
観覧料:一般750円(基本展示+企画展)、150円(企画展のみ)/高校生・大学生・市内居住70歳以上520円(基本展示+企画展)、100円(企画展のみ)/小・中学生180円(基本展示+企画展)、30円(企画展のみ)/市内居住、通学の小・中学生、未就学児無料(1階は無料エリア)
電話:054-204-1005