東京の多彩な食の魅力を紹介するイベント「The Secrets Behind Tokyo’s Deliciousness」の様子

マグロ三部位一貫の握りや茶碗蒸し仕立ての白子寿司など進化系寿司も披露

 東京都は1月27~29日の3日間、海外メディアや外国人インフルエンサーらを招いて、東京の多彩な食の魅力を紹介するイベント「The Secrets Behind Tokyo’s Deliciousness」を開いた。東京で活躍するシェフ、流通に携わるプロフェッショナルらが登壇し、短編映像、シェフによる調理実演と解説、実食、クロストークなどを連日実施。江戸から続く東京の食の多彩さと奥深さを「伝統」「進化」「革新」の3つの視点から紐解いた。表舞台では語られることのない、東京の美食を支える舞台裏を紹介した。

三日間のテーマと登壇者

 このイベントは、東京が「どこで何を食べても美味しい」と評される背景にある市場・流通・専門家の3要素に焦点を当て、世界有数の美食都市としての魅力を世界に発信することを目的として開催された。

 各日ごとに異なるテーマが設定され、1日目(1月27日)は「伝統を守り愛され続ける老舗」、2日目(1月28日)は「進化する江戸料理」、3日目(1月29日)は「革新の最先端ガストロノミー」がテーマとなった。

 1日目は「銀座みかわや」のオーナー・渡仲晋平氏と料理長・山本辰也氏、「三栄水産」の常務取締役・高野秀貴氏、そして「山利喜」の四代目店主・山田研一氏が登壇。「芝海老のグラタン」や「活け車海老のフライ」、「煮込み、ガーリックトースト」、「ガツ刺し 生姜醤油」などを提供した。

 2日目は「浩也 東京前」の店主・本橋拓也氏と「キタニ水産」の店長・宮下太郎氏、「テンキ」の代表取締役・目良慶太氏と料理人・亀谷剛氏、「&Bugrass 北総農産」の代表取締役・吉岡和彦氏が登壇。進化系寿司と新しい天ぷらの魅力を紹介した。

 3日目は「Sincère」のシェフ・石井真介氏と「さかな人」の代表・長谷川大樹氏、「Restaurant Florilège」のシェフ・川手寛康氏と「みどりショップ」の代表取締役・奥村武士氏が登壇。未利用魚や発酵、野菜を活用した革新的な料理を提供した。

 

進化系寿司、江戸前の技術と世界の要素の融合

本橋氏

 

 2日目の前半セッションでは、浩也東京前の店主・本橋拓也氏が登場。東京タワー近くの浜松町大門に店を構える「浩也東京前」は、江戸前寿司の技術をベースに、和食、フレンチ、中華など多様なジャンルの食材や技法を融合させた創作料理を提供している。

 本橋氏は「東京は世界から見ても、食という文化が発展している地域だと思います。そこに世界中からいろいろな食材、食文化が集まってきます」と説明。一般的なお寿司屋が「最初にお刺身とかおつまみ、お酒のあてが来た後に後半お寿司を召し上がりましょう」という流れであるのに対し、同店では「まずはお寿司を一口召し上がっていただいて、その後にお料理、お寿司とランダムに構成したコース内容」を提供していると語った。

 また日本酒にも詳しい本橋氏は「常時50種類以上の日本酒をご用意していまして、なかなかお寿司を扱うお店で、それだけの種類を置いているお店は少ないかと思うんですけども、そういった色々な日本酒を使いながらコースのペアリング、マリアージュをお楽しみいただけるものをご用意しております」と、日本酒とのペアリングにこだわりを持っていることを明かした。

 実演では「tuna Tuna TUNA」と名付けられたマグロの赤身、中トロ、大トロを一貫にまとめた寿司を披露。本橋氏は「どうお寿司というものを日本の方ではなくて海外の方にお寿司の面白み、すごさを知っていただくには、マグロをどう提供すればマグロのすごさ、良さを味わっていただけるかな」と考え、「全部の部位を一貫にまとめたらマグロ一匹を楽しめるかな」という発想から生まれたという。

 さらに「白子卵出汁」と名付けられた茶碗蒸し仕立ての白子寿司も紹介された。トラフグの白子を使った一品で、口の中に含んだ状態で港区の江戸会場の濁り酒を一緒に飲むことで一体感が楽しめるという。また、後半では黒胡椒を酒に加えることで味わいの変化も楽しむことができる斬新な提案がされた。

「tuna Tuna TUNA」と名付けられたマグロの赤身、中トロ、大トロを一貫にまとめた寿司

 

市場と寿司店をつなぐ信頼関係、夜中から始まるマグロの仕入れ

キタニ水産の店長・宮下太郎氏

 

 後半のクロストークセッションでは、キタニ水産の店長・宮下太郎氏が登壇。築地に店舗を構え、豊洲市場でもマグロを競り落とす宮下氏は「僕が出社するのは夜中の12時くらいですから、それからお昼ぐらいまでずっとマグロをまとめたり」と、市場では見えない仕事の一端を紹介した。

 宮下氏は「お客様の注文をまとめて、今持っているマグロとあとは今日行って仕入れるマグロを総合的に判断して、一番お客様に合うマグロをお客様のところに提供する」という日々の流れを説明。豊洲市場での競りは「見るのは30分1時間くらいの時間帯しかない」中で「お尻の部分、ちょっと切ってある部分があるんですけど、そこを見て質感だったり、ちょっと食べることはできないので、経験で見て選ぶ」と、目利きの技術について語った。

 また、マグロの鮮度管理についても「マグロに特に必要なのは血抜きっていう作業があって、取れた時にその内臓を抜いて血を抜かなきゃいけない」と説明。さらに「取ってすぐ食べたら美味しいわけではないんですね。何日間か少し氷詰めにして寝かせて熟成をさせた方が美味しくなるので」と、熟成の重要性も強調した。

 本橋氏は「基本的に好きな部位があって、その部位しかもらわないスタイルでやっています」と独自の仕入れ方法を明かし、「お寿司屋さんの場合は赤身、中トロ、大トロまんべんなく使うお店がほとんどなので、大きい塊のマグロをもらうんですけども、僕はその塊の中でもやっぱり全部赤身でも、中トロでも大トロでも味が異なります」と説明。「その中で一番好みの部位の柵という状態の切り上げたマグロのみをもらうようにしていまして、それがやらせてくれるのは、おそらく北西さんの太郎さんしかいない」と宮下氏との強い信頼関係を語った。

 

冷凍技術の進化が支える一年中美味しいマグロ

 クロストークセッションでは、近年の冷凍技術の進化についても議論された。本橋氏は「冷凍技術というのはすごく発展している」と述べ、「今日皆様に召し上がっていただいたお寿司、こちらもマグロのお寿司ですね。冷凍のマグロです」と明かした。

 本橋氏は「大きく分けて2種類あるんですけど、取れてからすぐに水揚げされてから冷凍されているマグロと、冷凍マグロと呼ばれるものです」と説明。「今日皆様に召し上がっていただいたものは、お店に来た時までは生のマグロです。一度も冷凍処理をされていない。それをあえて冷凍庫に入れていい状態のマグロを少し持たせるという生冷という技術なんですけれども、生のものをあえて冷凍していい状態のピークの時のものをキープして、それをまた解凍してお客様に召し上がる」と、最新の食材保存技術について解説した。

 宮下氏は「だいたい、マイナス50度から60度ぐらいが僕たちマグロはですね。マグロは、そうしないとどうしても表面が焼けてしまって美味しさが損なわれてしまう」と業務用の冷凍技術について詳しく説明。「日本近海で上がってくる生のマグロというのは、時期があって今の時期が一番美味しい」「5月6月になると産卵期になってしまってすごく脂が落ちる」と季節による変化にも触れ、「せっかく行ったときにちょっと油が薄いと残念だなっていう部分がだから、今採れたものをそのまま生冷凍かけて1年中そのいい状態、おいしい時のマグロが食べれるようになっている」と冷凍技術の恩恵を語った。

 

フレンチシェフが提案する進化系天ぷら

「テンキ」の代表取締役・目良慶太氏(写真=右手前)と料理人・亀谷剛氏(写真=右奥)

 

 2日目の後半セッションでは、「テンキ」の代表取締役・目良慶太氏と料理人・亀谷剛氏、「&Bugrass 北総農産」の代表取締役・吉岡和彦氏が登壇。フランスで修行した亀谷氏が提案する新しい天ぷらの魅力を紹介した。

 亀谷氏は「渋谷で4店舗、居酒屋をやっております。亀谷がもともとフランス料理。フランスで4年間くらい修行しておりまして、フランス料理の技法を使って居酒屋業態に落とし込む」と説明。「天気はですね。天ぷらと白ワインというテーマ」で営業しており、「天ぷらの素材ごとに衣を全部変えて、あと味付けもすべて変えて提供する」と独自のアプローチを紹介した。

 実演では3種類の天ぷらが披露された。一つ目は「季節野菜の天ぷら~taco style~」と題した人参の天ぷらで、海苔で巻いて手で食べるスタイル。亀谷氏は「一回カットをするんですが、水で戻して一回水を吸わせる作業をして水分量を調整にしてあげる作業はひと手間」と独自の下処理方法を説明した。

 二つ目は「えび天」。エビのつみれの中にエビの身とエビの頭のソースを入れた二度揚げの天ぷら。「衣も先ほどとちょっと違った衣なんですね。少しトマトの風味を加えた衣になっています」と、素材ごとに衣を変えるこだわりを紹介した。

 三つ目は「いちごの天ぷら」。宮崎県産のいちごを天ぷらにし、甘酒とイチゴを使ったソースで味わう一品。「水分量を多くして衣を薄くする作業をして、薄くしてよりフルーツの香りだとか楽しみ、より火を入れる自体も本当に完全に火を入れるわけじゃないので、フレッシュな香りも楽しんでいただきたい」と話した。

 

生産者と料理人の信頼関係

&Bugrass 北総農産の吉岡和彦氏(左)、「テンキ」の料理人・亀谷剛氏(中央)と代表取締役・目良慶太氏(右)

 

 後半のクロストークセッションでは、&Bugrass 北総農産の吉岡和彦氏が、料理人と生産者のつながりについて語った。

 吉岡氏は「私はもともとは商証券会社に20年にいて、その時に体調が悪くなって、体重も90キロを超えたぐらいまでいっちゃいまして」と自身の経験を振り返り、「滋賀県でですね。玄米のおにぎり。くるみとか山椒とかですね。漬物が10種類以上一緒に握られたおにぎりをもらった時に、ちょっともうおいしいという感覚を超えたような感覚になって」と食との出会いが人生を変えたことを語った。

 「自分が野菜を食べ続けるためには正直、ちょっと残念ながら、普通に買いに行ってもなかなか自分の納得する袋のものが手に入らなくて」という思いから「会社を辞めて生産販売を始めました」と、生産者への転身を決意した経緯を説明した。

 現在は「青山のファーマーズマーケットというところで14年目くらいになるんですけども、毎週土日に野菜を売りに来て」いるという。彼は「私たちが扱っている野菜は、土を発酵させて発酵の力で微生物を増やすという作り方をしている人たちのものばかりです」と、こだわりの栽培方法を強調した。

 亀谷氏は「すごく大事にしているコンセプトだと思います。テンキの天ぷらに関しては、とてもつながりがあってこそ人の思いが届くと思っている」と生産者との関係性の重要さを語った。目良氏も「青山ファーマーズマーケットの話になるんですけれども、やっぱり料理人が3、4人いますので、本人が行って野菜屋さんですとか、魚屋さんと直接話してそれをお客さんに届けるっていうのを自分でやりたいと思ってやってるのがすごく素晴らしい」と同意した。

 

東京の多彩な食文化の魅力を世界へ発信

 このイベントでは、東京の食文化を支える市場・流通・専門家の三要素の結晶として、江戸前から進化した料理の数々が披露された。質疑応答では、海外からの訪問客への対応や、若い寿司職人が増えている背景についても議論された。

 本橋氏は「近年、特に今3年くらいですかね。お寿司屋さんの数が本当に多くなっています」と述べ、「クラシックなものから今の新しいものからいろんなものをお楽しみいただくと進化の良さというのを感じていただけるかな」と、東京の多様な寿司文化を海外からの訪問者に体験してほしいと語った。宮下氏も「本橋さんもそうですけど、若い大将がすごくたくさん東京にいます。20代、30代の大将がすごくたくさんいます」と補足した。

 吉岡氏は「お客さんもありきでお客さん側が求めない限り私たちもいなくなりますし、消費者がそういうものを求める人がいて、私たちがそれに対してどんどん応えます」と、消費者との関係性を「運命共同体」と表現した。

 東京都は食の魅力を世界に発信するウェブサイト「GO TOKYO Gourmet」を2025年12月18日に公開。同サイトでは東京が世界に誇る多彩な食の魅力や東京の食文化の奥深さについて、記事と動画を通して発信している。また、2026年5月15日から17日までの3日間には、東京の多彩な食が集結するフードフェスティバル「Tokyo Tokyo Delicious Museum」の開催も予定されている。

 

GO TOKYO Gourmet – Official Guide to Discovering Cuisine and Culture

 

東京の多彩な食の魅力を紹介するイベント「The Secrets Behind Tokyo’s Deliciousness」の様子