2月4日、KDDIは滋賀県と包括連携協定を締結し、滋賀県庁において、滋賀県の三日月大造知事、KDDI代表取締役会長の髙橋誠氏が出席のもと、協定締結式が行なわれた。

今回の包括連携協定では、KDDIが持つ通信やデジタル技術を活用することにより、日本最大の湖である「琵琶湖」を擁する滋賀県における「湖国」ならではの発展や県民サービスの向上に貢献することが目的とされている。
自治体の取り組みを進めるKDDI
KDDIはauなどの携帯電話サービスをはじめ、auひかりや傘下のJ:COMなどの固定回線サービス、AIやデジタル技術を活かした法人向けサービスなど、さまざまなサービスを展開しているが、これらのサービスで培われた技術や知見を活かし、一昨年来、地方自治体との連携を展開している。
2024年10月の石川県との包括連携協定を皮切りに、2025年9月には徳島県、2025年12月にはローソンと共に大阪・池田市と協定を締結しており、今回の滋賀県との取り組みは全国で4例目となる。
これまで締結されてきた包括連携協定では、それぞれの自治体が抱える個別の課題に対し、KDDIが持つ通信やデジタル技術、衛星ブロードバンド「Starlink」、AIドローンなどによって、解決することを目指している。
たとえば、石川県は能登半島地震及び奥能登集中豪雨からの「創造的復興」を実現するため、「地域防災コンビニ」を展開し、Starlinkによる通信設備やドローンポートを設置することで、警察や消防とも連携しながら、街の安全や安心を見守るとしている。
徳島県は近い将来に起きることが危惧されている南海トラフ巨大地震による大規模災害や津波被害に備えるため、ドローンポートの設置やStarlink設備の整備をしながら、有事だけでなく、平時においてもこれらの設備を活用し、「事前防災」と「防災DX」を実現するとしている。
ローソンと共に包括連携協定を締結した大阪・池田市は、1970年代に開発されたニュータウンが少子高齢化によって、「オールド・ニュータウン」となりつつある現状を踏まえ、ニュータウン内に物販だけでなく、地域生活に密着したローソン店舗をオープンすることで、地域が抱える社会課題を解決しながら、地域の活性化を図ろうとしている。
今回の滋賀県との包括連携協定では、日本最大の湖「琵琶湖」を中心とした課題を解決する一方、KDDIが持つ人流データなどの情報をもとに、観光振興や地域交通網の最適化などにも取り組むとしている。
「湖国」との共創に通信やAIを活かす
締結式では髙橋会長からKDDIとしての取り組みについて、プレゼンテーションが行なわれた。
滋賀県との包括連携協定について説明するKDDI株式会社 代表取締役会長 髙橋誠氏
KDDIとしては、通信やAIなどの先端技術と地域の力を組み合わせることで、社会課題を解決するため、各自治体との包括連携協定を締結してきたが、滋賀県とのDXの取り組みでは、「(1)防災・災害対策」「(2)観光・交通施策の推進」「(3)スタートアップ企業・中小企業支援」「(4)公共インフラの監視・管理および環境保全」「(5)DXの推進に関すること」「(6)地域の活性化・県民サービスの向上」という6つの連携事項が挙げられた。
「つなぐチカラ」を進化させ、社会課題を解決するKDDIの取り組みを説明
KDDIの通信・AIの先端技術に、滋賀県の地域の力を組み合わせ、「湖国」の価値共創を目指す
たとえば、「平時・有事を問わない安心安全」として、KDDIはすでに全国1000カ所にドローンポートを配備し、Starlinkと組み合わせることで、全国どこでも10分以内にAIドローンが遠隔操作で駆け付ける構想を明らかにしているが、滋賀県については20カ所前後のドローンポートで約10分以内に駆け付けが可能と試算しており、事故や災害、遭難などが起きたときに迅速な対応が可能だとしている。
AIドローンを全国1000カ所に配備し、Starlinkによる衛星直接通信を組み合わせることで、平時・有事を問わない安心安全を目指す
特に、滋賀県の場合、琵琶湖での水難事故が毎年起きているほか、琵琶湖の環境保全や琵琶湖にかかる橋脚の点検などにも対応できるため、有事と平時の両方で活用できることがアピールされた。
また、auスマートフォンのGPS情報を利用した位置情報ビッグデータを活用し、来県者や在住者の行動プロセスを高精度に分析し、人流データとして役立てることで、地域交通の計画や大規模観光キャンペーンなどに活かせることもアピールされた。
auのスマートフォンの位置情報を利用したビッグデータを活用し、来県者や在住者の行動を高精度に分析し、需要予測や観光調査に活用
滋賀県は訪日外国人旅行客などに人気の高い京都のすぐ隣に位置しているが、京都からの流れで立ち寄るのではなく、人流データを活かすことで、地域生活者への影響を考慮しながら、滋賀県内の他の観光スポットなども順に巡ってもらえるような取り組みも進めたいとしている。
さらに、KDDIは「KDDI ∞ Labo」(KDDIムゲンラボ)などの活動を通じて、10年以上、スタートアップ支援にも積極的に取り組んできたが、滋賀県でも「滋賀発成長産業発掘・育成コンソーシアム」が活動しており、これらを連携させ、共創機会を生み出すことで、滋賀県の持続的な成長に貢献していく考えも紹介された。
KDDI∞Laboで展開してきた10年超のスタートアップ支援のノウハウを活かし、滋賀県のスタートアップと大企業の共創機会を創出
滋賀県は中世から近代にかけて、近江商人によって、発展してきたことでも知られるが、今回の包括連携協定について、髙橋会長は近江商人の「三方よし」の思想や哲学と同じように、売り手、買い手、社会のそれぞれが満足できるものに発展していくことが大切だとして、プレゼンテーションを締めくくった。
髙橋会長が「湖国」にかける想い
髙橋会長のプレゼンテーション後、三日月知事からも包括連携協定に期待する旨が語られ、三日月知事と髙橋会長が署名した協定書を交換する形で無事に終了した。
KDDIとの包括連携協定に期待を寄せる滋賀県知事 三日月大造氏
協定書に署名する髙橋会長と三日月知事
署名した協定書を手にする髙橋会長と三日月知事
包括提携協定締結式には、KDDI株式会社の関西総支社長の江口高介氏(右)、事業創造本部 副部長の鶴田悟史氏(中央)、渉外・広報本部 副本部長の大野高宏氏も出席した
滋賀県からは総合企画部 部長の松田千春氏(左)、総合企画部県民活動生活課長の佐藤勝也氏(中央)、総合企画部DX推進課長の馬場康宏氏が出席した
締結式終了後、短い時間ながら、髙橋会長に今回の包括連携協定について、話をうかがうことができた。インタビューには包括連携協定の締結に関わった事業創造本部 鶴田悟史副本部長も同席した。
締結式終了後、インタビューに応じる髙橋誠氏。三日月知事は出身高校が同じだったこともあり、話もスムーズに進んだという
――今回の包括連携協定の締結に至るまでのお話をお聞かせください。
髙橋会長
今日のプレゼンテーションでも触れた全国1000カ所のAIドローンポートの設置もそうなんですが、やっぱり、地方自治体の方々と組んでやっていく必要があると考えています。
たとえば、石川県は能登半島地震があって、「創造的復興」という形で協定に至ったし、徳島もつながりがあって、協定を締結したわけですけど、滋賀県は昨年、僕が取り上げられた記事を三日月知事がご覧になって、コンタクトがあり、「じゃあ、一度、お会いしましょう」という話になりました。
知事にお目にかかる前に、滋賀県がDXにどのように取り組まれているのかを勉強し、我々の技術とマッチングをすると、どういうことが一番早く実現できるのかを考えて、プレゼンテーションしたところ、「じゃあ、すぐにやりましょう」という話になり、今回ご紹介した3つの項目(AIドローン、人流データ、スタートアップ支援)が挙がったというわけです。
AIドローンについては、すでに石川県でドローンポートを常設し、遠隔運航の実証に成功していますし、徳島県も池田市も動き出しているので、同じように滋賀県に持ってくれば、展開しやすいと思います。
それから観光の拡大については、みなさんもご存知の通り、KDDIとして、人流データの分析や活用は昔から取り組んでいます。
滋賀県は2027年10月~12月に「デスティネーションキャンペーン」を開催することが決まっていて、JRグループ6社も参加されるので、ぜひ、そこに活かしていきたいですね。スタートアップ支援もすでにあちらこちらで取り組んでいる話です。
――今回の滋賀県で、自治体との連携は4例目になりますが、どういった戦略で自治体を選ばれているのでしょうか?
髙橋会長
いや、真面目な話、戦略的に「ここから行きます」みたいな話が正直あるわけではないんです。今回の滋賀県については、先ほどもお話しした通りの流れがあって、僕自身が滋賀県出身というのも話がスムーズに進んだ要因のひとつかもしれません。
ただ、AIドローンのドローンポートを今後、全国1000カ所に拡げていくことを考えると、少しプライオリティを設計していかないといけないでしょうね。そのあたりは彼ら(KDDIの事業創造本部)が検討していくことになると思います。
――今回の取り組みでも各自治体が抱える課題解決がテーマに掲げられていますが、他の地方の自治体もいろいろな課題を抱えていると思います。
髙橋会長
もちろん、それぞれの自治体がさまざまな課題を抱えられていると思いますが、こうした取り組みがうまく進められるかどうかは、我々だけでなく、各自治体の首長さんの意識によるところも大きいと思います。
たとえば、石川県の場合は能登半島地震があって、馳知事が復興に対して、すごく前向きに取り組まれていて、そこに経済産業省出身の方も副知事として入られているので、自治体として、とても前のめりというか、ポジティブに取り組まれています。
我々としてはそういうところをひとつひとつ探していかなきゃいけないんだと思います。
どんなビジネスでもそうですけど、やっぱり、口頭のやり取りばかりで、実際の話が進まないなんていうこともありますから、いろいろなご縁をもとに、課題をしっかりと把握しながら、連携できる自治体を探していくという感じですかね。
――そうすると、まだ今は手探りみたいな感じですか?
髙橋会長
今はそうですね。ただ、いろんな自治体が抱えている共通の課題があって、それを解決するのはこの自治体が一番というか、効果的っていうのがあれば、そこは戦略的に取り組んでいくべきですよね。だよね?
鶴田副本部長
はい。そうですね。先ほど、髙橋からも指摘がありましたけど、やっぱり、首長さんが積極的じゃないと、なかなかスピード感をもって、話を進められないという点があります。
また、実証や事例がちゃんとあって、技術が確立していて、効果があれば、その内容をひとつの自治体から、ほかの自治体へ加速度的に横展開できると考えています。なので、昨年の徳島県の包括連携協定でも掲げられた南海トラフ巨大地震に対する防災などを軸に、取り組んでいこうかなと思います。
――石川県、徳島県、池田市、滋賀県とくると、ちょっと東日本が少ない気が……。
髙橋会長
実は、JR東日本の方と話していると、必ず、この話題が出るんです。だから、JR東日本の喜勢さん(JR東日本 代表取締役社長 喜勢陽一氏)とも話して、いっしょに積極的に取り組んでいきたいなと考えています。
――髙橋会長は滋賀県出身として、ここでこんなことをやりたい、なんていうことはありませんか? 子どものころや若かりしころに出かけた場所で、AIドローンをこういう形で飛ばせばいいんじゃないかとか……。
髙橋会長
わははは。そうねぇ(笑)。元々、滋賀県は歴史もあるし、実際に観光地もたくさんあるところなんです。本当は京都にこれだけ多くの観光客が来られるんだから、もっと滋賀県を知ってもらって、楽しんでもらうのがいいなって思ってたんですよ。
ところが、滋賀県の人に聞くと、やっぱり、昨今のオーバーツーリズムの影響もあって、「ちょっと待って」という声も聞かれる。滋賀県って、琵琶湖だけでなく、周囲の山々などの豊かな自然、彦根城をはじめとした史跡など、いろんな観光スポットがある。ゴルフ場やスキー場も多い。適度に京都に近いから、食も美味しい。
僕の周りではそういう捉え方をしている人が多いんです。ただ、だからと言って、どんどん人を入れていけばいいっていうのは、ちょっと違うんだなとも思うんです。
いろいろなところで話をうかがっていると、たとえば、先ほども話があったように、琵琶湖は水難事故も多いですし、ドローンを使った有事の対応もすごく興味を持っていただけているので、我々のAIドローンを使った技術とマッチングするのは適しているだろうと考えたわけです。
それからスタートアップについては、滋賀県にどんな潜在能力があるのかがまだよくわかっていませんけど、地元には立命館大学がありますし、滋賀大学にはデータサイエンス学部もあります。そういった学術機関と連携し、スタートアップを発掘していくことで、滋賀県に貢献できるんじゃないかなって思います。
――ドローンについては有事の対応などで、各自治体が活かせそうですけど、平時や民間のユースケースは拡がりそうですか?
髙橋会長
ドローンのユースケースは拡がってきていますが、テレビ朝日さんと取り組んでいる実証は各方面から関心を持たれていますね。
事件や事故が起きたとき、ドローンポートからAIドローンを飛ばして、現場の映像をいち早く伝えることができるので、非常にインパクトがあります。たとえば、現場にクルマが行ったり、ヘリコプターを飛ばそうとすると、結構な時間がかかるわけですが、ドローンを遠隔操作で飛ばせれば、すぐに対応できます。
最近だと、熊の被害が各地で報告されていますが、これもドローンが活用できます。たとえば、住民の方から「熊を見かけた」と電話があって、自治体から猟友会に連絡しても現場に到着するには2時間くらいかかるので、到着時にはもう熊はいない……なんてことになる。
各地の猟友会のお話を聞いてみると、空振りが多いのが課題だと。その点、ドローンであれば、すぐに現場に到着できるし、うまく個体を追跡できれば、対応しやすい。
鶴田副本部長
現在、災害時に被災者を捜索するとき、ドローンに搭載された人感センサーを利用しているんだけど、これを熊をはじめとした動物にも応用できないかと考えています。まだ実証の段階で、熊だけでなく、鹿なども含めた動物をセンサーで見つけるというレベルですけど、一応、感知はしています。
――道路などのインフラの点検などはどうですか?
鶴田副本部長
それは災害時だけでなく、平時も展開中です。道路以外に、橋などの点検に活用されています。あとはJAさんといっしょに、農業に使う方向も検討中ですし、電力会社さんと鉄塔の点検などに使う方法も話し合っています。
橋や鉄塔などの点検にドローンを活用するのはすでにやってきたことなんですけど、ドローンポートから飛ばすということになると、どこにドローンポートを設置して、どのエリアをカバーするのかを考える必要があります。
そういった部分を解決していけば、リレーションが拡がり、どんどん利用シーンが拡がっていく感じだと思います。
髙橋会長
石川県の例もそうですけど、最初に自治体と連携して、活用をスタートさせると、民間にも利用が拡がっていく感じですね。だから、滋賀県でも今回の取り組みをきっかけにして、「こんなことはできないのか?」「あんな方法もあるのでは?」といった話が出てきて、拡がってくれると、うれしいですね。
鶴田が説明したように、石川県で警察に使われたり、農業に使われる事例が増えてきて、それを横展開できれば、いろんな自治体のお役に立てるかなって考えています。
――今日はありがとうございました。
