マタラッツォを新監督に迎え、レアル・ソシエダードは大きな変貌を遂げることに成功した。直近のレアル・マドリード戦で無敗記録が9でストップしたが、下位に沈んでいた前半戦と同じチームとは思えない好調ぶりだ。
■リーグ8位浮上、国王杯も決勝へ王手
監督就任後の年明けからの公式戦成績は6勝3分け1敗(※PK戦で勝ち抜いた国王杯オサスナ戦は引き分けにカウント)。スペインリーグでは2季ぶりの欧州カップ戦出場権獲得が視野に入る8位まで浮上し、国王杯では6大会ぶりの決勝進出に王手をかけている。
マタラッツォ監督就任以前のRソシエダードは、長年続いたイマノル・アルグアシル体制からの脱却を図り、今季開幕からセルヒオ・フランシスコに指揮官を交代した。しかし、序盤は降格圏の19位に沈む時期があり、第16節を終えた時点で15位と低迷していたことで年末を待たずに解任となった。
新たに招聘されたのは、イタリア系アメリカ人のマタラッツォ。彼の就任が発表された時、ここまで急激にチームが蘇ることを誰が予測できただろうか。
監督就任後、いきなりクラブ史上の最多記録まで4試合に迫る公式戦9試合連続無敗という結果をもたらした現象を、サポーターたちは「マタラッツォ効果」と呼び、大いに喜んだ。国王杯準決勝第1戦ビルバオ戦での勝利後に監督は「これは“マタラッツォ効果”ではない。Rソシエダード効果だ」と謙虚に語ったが、誰もが新監督がかけた魔法によるものだと信じている。
2026年2月、レアル・マドリードのブラヒム・ディアス(左)と競り合うレアル・ソシエダードのジョン・ゴロチャテギ(AP)
■コロンビア大で応用数学の学位取得
マタラッツォはトップリーグの監督としては異色の経歴を持ち主で、コロンビア大学で応用数学の学位を取得している。彼の戦術は、大学で学んだ分析能力と、シュツットガルトやホッフェンハイムを指揮したブンデスリーガでの経験がうまく融合したことで、成功につながっていると現地では評価されている。
スペイン語はまだ話せないが、選手の大半が英語を理解しているため言語の壁は問題ないという。前半戦は沈んだ顔でインタビューを受けていた選手たちだったが、就任初日から選手たちに親しく話しかける姿が目撃されており、今や自信と笑顔を取り戻させることに成功している。
では、チームを一変させた「マタラッツォ効果」とは何なのだろうか?
現地で特に評価されている点はプレスの組織化だ。マタラッツォ監督はハイプレスを構築し、チームで連動するという概念の導入に成功した。以前はバラバラにかけていたように感じられたプレスにも、今は強い意思が感じられる。一方、相手のクオリティーが高く、ハイプレスがうまく機能しないと判断した場合、チームは躊躇なく後退している。
戦術面の柔軟性も備えており、選手交代で試合の流れを変えることに成功している。例えばアラベス戦では途中からシステムを5バックに変更することで勝利を掴んだ。久保建英がウイングバックの役割を担ったバルセロナ戦の5バックは、緊急の対応策ではなく緻密に練習を積み重ねた賜物だったとのことだ。
■オヤルサバルとゲデスが結果残す
セルヒオ・フランシスコが率いた前半戦は得点面に大きな問題を抱えていたが、マタラッツォ監督は今のところ、その課題を克服していると言っていいだろう。公式戦10試合で18得点、1試合平均1・8得点を記録している。前任者は1・2得点だった。
現地ではその要因を、セルヒオ・フランシスコは前線に自由を与えすぎたことが逆効果となったが、マタラッツォ監督は攻撃の基礎を築き、選手たちが自分の役割をしっかり理解していることが違いだと分析している。
マタラッツォ監督は対戦相手によって戦い方を変えており、ポゼッションに固執していない。ヘタフェのようにブロックが低い相手には後ろから丁寧にボールをつなぎ、バルセロナのように前から来るチームにはダイレクトにプレーしている。ボール支配率は以前よりも低くなったが、より効果的にチャンスを作れるようになっているのだ。
カウンターが大きな武器となり、ボールを奪ったと同時に素早く縦に仕掛け、ペナルティーエリア内に多くの選手が積極的に侵入していることで得点力につながっている。マタラッツォ監督指揮下では、特にオヤルサバル(6得点)とゲデス(4得点4アシスト)が決定的な役割を果たし、チームを牽引している。
2026年2月、レアル・マドリードのビニシウスと競り合うレアル・ソシエダードのジョン・マルティン(ロイター)
■精神的強さを取り戻し粘り強く戦う
そして選手たちが失点後に慌てることなく、プレーできる精神的強さを取り戻したことも大きい。Rソシエダードは昨年11月まで2年近く、逆転勝利のないチームだった。しかしマタラッツォ監督就任後、その状態は大きく変化している。
アラベス戦では逆転勝利を達成し、バルセロナ戦とセルタ戦は追いつかれた後に決勝点を奪い、アトレチコ・マドリード戦とオサスナ戦はリードされた後、同点にした。ポジティブな要素が非常に多い中、ここまでの10試合中、クリーンシートは2回のみと守備面の不安定さがやや指摘されているが、この粘り強さがその欠点をカバーしている。
選手起用でも目を見張るものがある。セルヒオ・フランシスコは特定の選手たちを重用したが、マタラッツォ監督は序列の下がっていたトゥリエンテス、オドリオソラ、スチッチ、オスカルソンといった選手たちを戦力にうまく組み込んでいる。さらに下部組織の選手も積極的に起用し、チーム内に緊張感をもたらせている。
これはマタラッツォ監督が国外から来たことで、先入観がなかったためだという。選手たちも「全員がゼロからスタートできたことは、競争力を高める上でプラスになった」と好意的に捉えている。
失意の25年を過ごしたサポーターにとって「マタラッツォ効果」はレアレ・アレーナに再び熱狂を呼び戻すものとなり、入場者数が再び増加しているとのことだ。
また、マタラッツォがすぐにサンセバスチャンでの生活に溶け込み、バスクの伝統や文化に敬意を表している発言をしていることも、現地で高く評価され受け入れられている点だ。
レアル・ソシエダード久保(2024年撮影)
■久保の復帰時期は不透明のまま
チームが好調を維持していることは喜ばしい一方で、久保の復帰時期に関しては不透明な状況が続いている。
久保はマタラッツォ監督の信頼を瞬く間に勝ち取ったが、3試合続けてほぼフル出場したことが大きく影響し、4戦目のバルセロナ戦で左足ハムストリングに重傷を負ってしまった。昨年9月の左足首捻挫(3試合欠場)に次ぎ、今季2回目のけがとなった。
Rソシエダードではその他、初年度に左肩脱臼と大腿四頭筋負傷で計5試合、2年目にハムストリングと背中の違和感で1試合欠場し、昨季は一度もけがをしていなかった。
スペインのキャリアで回復に最も時間を要したのは、マジョルカ時代の21-22年シーズンのことで、右膝半月板損傷で約2カ月、公式戦8試合の戦線離脱を余儀なくされた。これは久保にとって、スペイン3年目にして初めてのけがである。
今回、現地では負傷直後に全治1~2カ月の可能性が報じられたが、すでに1カ月が経過し、ここまで公式戦6試合を欠場している。マタラッツォ監督は先週、3月4日の国王杯準決勝第2戦ビルバオ戦に間に合うかという質問に対し「分からない。もし間に合えば早い回復と言えるだろう」との見解を述べたように、マジョルカ時代の8試合を上回る可能性が出ている。
今季はシーズン終了後にワールドカップを控えているため焦る気持ちもあるだろうが、自身のためにもチームのためにも無理することなく、万全の状態でピッチに戻ってきてほしい。マタラッツォ監督指揮下での4試合で2アシストを記録したように、再び輝く姿を見せてくれる日を待ち望んでいる。
【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)