1月24日、アブダビで3カ国協議に臨む米国、ロシア、ウクライナの代表団(ロイター時事)
今月で4年となるウクライナ侵攻を続けるロシアでは、景気後退や物価上昇などにより国民生活に負の影響が広がっている。政府のプロパガンダは、愛国心高揚や、国民の団結を訴えるものから、「敵に囲まれているロシア」「ロシアやロシア人の優越性」「排外主義」などを訴えるものにシフトし、それがさまざまな凶悪事件として表れてきた。(繁田善成)
米国が仲介するロシアとウクライナの和平交渉第2ラウンドが2月5日、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで終了した。捕虜交換など現実的な歩み寄りが見られたが、最大の難関である領土問題での隔たりは大きい。
ロシアは、ウクライナとの和平合意は、トランプ米大統領とプーチン露大統領の合意に基づいてのみ締結できるとの主張を繰り返している。ウクライナ問題の解決には「根本原因の排除」が必要であり、ウクライナの事実上の降伏が唯一の選択肢というものだ。
アブダビでの和平交渉を受け、ウクライナのゼレンスキー大統領は、領土問題が依然として最も複雑な問題であると述べた。また、ウクライナが東部のドンバス地方をロシア領として法的に承認することは決してないと強調した。
プーチン氏の対外的発言は、以前よりもさらに攻撃的となった。これは、ロシアの最も重要な資産は軍事力だけでなく、予測不可能性であるとの考えに基づくものだ。
挑発的な行動を取り、リスクを取り、国際ルールや協定を逸脱し、敵よりも大きな損失を被る覚悟を示すことが、駆け引きで最大の利益を得るためのカギという。
一方、国内向けの発言に目を向けると、「愛国心」「国民の団結」「ロシア文明の包容性」「ロシアの独自の道」などから、「敵に囲まれているロシア」「ロシアやロシア人の優越性」「排外主義」などにシフトしていることがうかがえる。
侵攻開始から4年、軍への巨額の財政出動による「戦時経済」がもたらした好景気はしぼみ、負の影響が広がりつつある。物価の高騰が賃金の伸びを大きく上回り、鉄鋼や工業、エネルギー産業も苦境に陥った。
このような状況では、「愛国心」や「国民の団結」だけでは求心力を保てず、「敵」をつくり出す必要があるのだろう。だが、それは社会にさらなるひずみを生み出すことになる。
今月に入りロシアの三つの学校で、生徒による傷害事件が発生した。ウファ市では女子生徒(16)が教師と数人の生徒にエアガンを発砲した。クラスノヤルスク地方コジンスクでは女子生徒(14)が同級生をナイフで刺した。クラスノヤルスク市では女子生徒(14)が火炎瓶で教室に火を放ち、逃げ出そうとする生徒をハンマーで殴り付けた。
自らの主張を通したり、不満を解消したりするために暴力を正当化するというのは、ロシア政府のプロパガンダそのものだ。
昨年12月には、モスクワ郊外の学校で男子生徒(15)が、同じ学校のタジク人男子生徒(10)をナイフで刺殺した。少年は犯行前に、移民や有色人種などに対する憎悪を書き連ねた「声明文」を友人に配っていた。
移民や外国人、特に中央アジア系に対する反感は以前から存在する。しかし、国籍の剥奪(はくだつ)や、国外追放手続きの簡素化などの法改正、そして、移民による犯罪や、不法移民摘発の様子をニュース番組で大きく取り上げるなど、国民の不満を彼らに向けさせる動きが広がっている。
ウクライナ侵攻に反対する人々への抑圧もさらに強化されている。
モスクワ市議会で「戦争により子供たちが死んでいる」と発言したアレクセイ・ゴリノフ市議会議員は、懲役7年半の判決を受けた。野党議員でジャーナリストでもあるウラジーミル・カラムルザ氏は「望ましくない組織」への協力の罪で懲役25年の判決を受けた(ロシアと欧米の囚人交換の一環として釈放)。
今月9日には、年金生活者の男性が「外国のエージェント」のユーチューブ動画に「いいね」を付けたことで、「軍の信頼を傷つけた」として罰金刑を受けた。
ウクライナ侵攻とは直接関係はないが、ロシアの反プーチン政治指導者であり、24年に獄中で死亡したアレクセイ・ナワリヌイ氏を弁護していた3人の弁護士が今年1月、それぞれ5年半、5年、3年半の懲役刑を言い渡された。職務を遂行したというだけでの有罪判決である。