2026年、ソーシャルメディアのあり方が根本から変わるかもしれない動きが、大西洋の両岸で同時に発生している。これまでプラットフォーム運営者の責任は、不適切な投稿を削除する「コンテンツモデレーション」の文脈で語られるのが常であった。しかし、欧州委員会(EC)によるTikTokへの本格的な調査、およびロサンゼルスで開始される画期的な裁判は、その焦点を「何が投稿されているか」から「アプリがいかに設計されているか」へと決定的に移行させようとしている。

コンテンツから「設計」へ:免責の盾が剥がれる瞬間

これまで、アメリカのプラットフォーム企業は「通信品位法230条(Section 230)」という強力な盾に守られてきた。第三者が投稿した内容について、プラットフォーム側は原則として法的責任を負わないという原則だ。しかし、現在進行中の法廷闘争において、原告側はこの盾を巧妙に回避する戦略を採っている。

ロサンゼルス郡上級裁判所で先週開始された「KGM」と特定された19歳の女性による裁判が、その象徴だ。この訴訟の核心は、投稿内容の是非ではなく、アプリの「設計そのもの」にある。原告側は、ソーシャルメディアがスロットマシンやタバコ産業が用いる神経生物学的な手法を取り入れ、広告収益を最大化するために子供たちを意図的に依存させていると主張している。

MetaやGoogle傘下のYouTubeは、これらの主張を「複雑な問題を過度に単純化している」と否定し、保護者向けの管理機能や利用時間の制限ツールの有効性を強調する。しかし、TikTokやSnapがすでに同種の訴訟で非公開の金額で和解に至っている事実は、プラットフォーム側が「陪審員による審理」という未知のリスクを極めて深刻に捉えていることを物語っている。

欧州委員会が突きつける「無限スクロール」廃止の最後通牒

アメリカが司法の場で個別の事案を争っている間に、欧州連合(EU)はデジタルサービス法(DSA)という強力な規制枠組みを武器に、プラットフォームの構造改革に乗り出した。欧州委員会はTikTokに対し、同社のアプリ設計がユーザー、特に未成年者の中毒を引き起こし、心身の健康に重大なリスクをもたらしているという暫定的な判断を下した。

欧州委員会がTikTokに要求している変更案は、極めて具体的かつ破壊的だ。

無限スクロールの無効化: 終わりなくコンテンツが供給され続ける仕組みの停止。

厳格なスクリーンタイム休憩の強制: ユーザーが自身の意思で簡単にスキップできる「ナッジ」ではなく、実効性のある中断機能。

レコメンデーション・アルゴリズムの抜本的変更: エンゲージメント(滞在時間)最大化を目的としたパーソナライゼーションの抑制。

EUのテックチーフであるHenna Virkkunen氏は、今回の措置がDSAの下での「システム的リスク」に対する法的強制力の行使における新しい段階に入ったことを示唆している。もしTikTokがこれらの要求に応じず、委員会の最終判断で違法とみなされた場合、同社は全世界の年間売上高の最大6%という、天文学的な額の制裁金を課される可能性がある。

中毒性の解剖:なぜ「無限」が問題なのか

なぜ規制当局は、無限スクロールをこれほどまでに危険視するのか。その理由は、ユーザーが「停止の合図」を失うことにある。

かつてのインターネット、あるいは新聞や書籍といった伝統的なメディアには、必ず「終わり」があった。ページを読み終え、章を閉じるという物理的・心理的な区切りが、脳に休息を促していた。しかし、無限スクロールは、脳が情報の終わりを認識する機会を奪い、ドーパミンの放出を維持させ続ける。

特に深夜の利用が問題視されている。欧州委員会の調査によれば、12歳から15歳の子供の7%がTikTokで1日4時間から5時間を費やしており、深夜0時以降に最も利用されるアプリもまたTikTokであった。プラットフォーム側は「自動再生機能はデフォルトでオフにしている」と反論するが、指一本で次の動画が延々と現れる設計そのものが、自制心の未熟な子供たちにとって強力な「行動の檻」として機能している事実は否定しがたい。

政治的思惑と「トランプ・ファクター」

興味深いのは、この規制の動きが激化する一方で、アメリカ国内の政治状況がプラットフォーム企業に奇妙な猶予を与えている点だ。

2024年の選挙期間中、Donald Trump氏はMetaのCEOであるMark Zuckerberg氏を投獄すると脅していた。しかし、2025年に入ると事態は一変している。Donald Trump氏はMetaの利益を世界中で擁護する姿勢を見せ、ByteDanceに対しても、同氏の同盟者への所有権移譲を条件にTikTokの禁止を回避させる大統領令を発令し続けている。

Andreessen Horowitzを中心としたシリコンバレーの有力な投資家層、いわゆる「テクノ・オプティミスト」たちが共和党の規制緩和アジェンダを後押ししており、AIやプラットフォーム規制における「アメリカ第一主義」が、人権や安全性の議論を脇に押しやっている構図がある。

しかし、このような政治的な追い風も、子供のメンタルヘルスという超党派の懸念を完全にかき消すことはできない。共和党と民主党、そしてロサンゼルスの原告弁護士とブリュッセルの欧州規制当局。これほどまでに多様なステークホルダーが「設計による害」という一点で一致を見るのは、テクノロジーの歴史においても極めて稀な事態である。

広告モデルとAI:新たな戦場としてのChatGPT

ソーシャルメディアが「中毒性」という十字砲火を浴びる一方で、テクノロジー業界は新たな収益源を求めてAIへの広告導入を急いでいる。

スーパーボウルでの広告合戦が示すように、業界の関心はすでに「AIエージェントによる自動化」と、そこでのマネタイズに移っている。OpenAIは、ChatGPTの無料版および低価格プランにおいて広告のテストを開始したことを発表した。CEOのSam Altmanは、ChatGPTの月間成長率が再び10%を超えたことを誇示し、Anthropicなどの競合他社が仕掛ける「AIに広告は不要」という攻撃的なキャンペーンに不快感を示している。

しかし、生成AIにおけるインタラクションは、従来のフィード型SNSよりもさらに密接で個人的なものになる。ここに広告や、滞在時間を最大化するための設計が入り込んだ場合、現在ソーシャルメディアが直面している「中毒性」の問題は、より高度で、より検知しにくい形へと進化する恐れがある。

「終わりのあるフィード」という新たなスタンダード

「もし、あなたの製品を中毒にさせたくないのであれば、現在の設計と何が違うのか?」

この問いは、今後の裁判や規制当局の聴聞会において、プラットフォームのエグゼクティブたちが答えを窮する最大の論点となるだろう。これまでの「嫌な投稿を見つけたら報告してください」という受動的なアプローチは、もはや通用しない。

フランスでは15歳未満のSNS利用を禁止する法案が進み、オーストラリアではすでに16歳未満の利用が禁止された。スペインに至っては、IT企業の役員に刑事責任を問う可能性まで示唆している。このような過激な「完全禁止」の動きが広がる中で、無限スクロールの廃止やアルゴリズムの透明化は、むしろプラットフォーム企業にとって「生き残るための穏健な妥協案」へと変貌しつつある。

無限スクロールという、ユーザーの時間を無慈悲に奪う装置が解体される日は、そう遠くないかもしれない。一部のユーザーにとっては、画面をスクロールし続けた先に「今日はここでおしまいです」という表示が現れることは、不便ではなく、むしろデジタルな平穏を取り戻すための福音となるはずだ。

テックジャイアントたちが、その莫大なエンジニアリング能力を「依存」ではなく「節度」のために使う日が来るのか。欧州の決断は、その未来を左右する最初の一手となるだろう。