フィギュアスケートの男子個人でまさかの8位に終わったイリア・マリニン。この2年間、負けることがなかった天才スケーターに起きていた異変とは。現地記者が綴る内幕。【全2回の1回目】
「メディアから注目されていること、世界中からオリンピックの金メダル候補と思われていること。それ自体が、僕にはあまりにも大きすぎました」
ミラノ・コルティナ五輪、フィギュアスケートの男子フリー。絶対的な優勝候補と思われていたイリア・マリニン(21歳)は、呆然とした表情で語り始めた。本番、7本準備していた4回転のうち、成功したのは3本のみ。フリーは15位で、総合8位へ転落した。
演技を終え、各国のメディアに答えていく。まだ自分の身に起きた出来事を受け入れることが出来ず、涙を浮かべることもなく、顔を歪めることもなく、まるでロボットのように心を殺して語る。20分間のインタビューを終えると、静かに廊下の奥へ去っていった。
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今振り返れば、その亀裂は団体戦から始まっていた。
「マリニンは5倍」会場の声援
マリニンは、団体戦の男子ショート、フリーの両方に選出されていた。2月7日の団体戦ショートから、13日の個人戦フリーまで、1週間に4回演技をする。アメリカの団体戦金メダルのためには、マリニンの活躍は必須だった。
2月1日に現地入りしてからのマリニンは、絶好調とは言いがたかった。公式練習では、4回転をミスする日もあれば、3回転だけに抑える日もある。意図的に体力配分するあまり、調子を抑えている様子だった。
「オリンピックではない他の大会と同じように捉え、ペース配分をきっちりと決めています。すでに自分のメンタルの持ち方、目標へのマインドセット、そして体力の配分についても固めました」
迎えた団体戦のショート。6分間練習で登場しただけで、会場は異常な盛り上がりを見せる。他の選手に比べて、鍵山優真への声援が2倍だとすれば、マリニンに対しては5倍くらいの声量が響く。金メダルへの期待が、空気を震わせた。
