(CNN) オーストラリアのシドニー郊外にあるブルーマウンテンズ国立公園内の「リンカーンズロック」は最近まで、隠れた夕日スポットだった。崖の上にせり出した巨大な一枚岩から、ユーカリの木に覆われた谷を見渡すことができる。その場所が今、世界的なSNSの嵐に巻き込まれている。
地元当局者らによると、ある画像が拡散したことで、ほぼ一夜にして観光客が急増した。地域の許容力を超えたブームに対し、安全面、環境面の懸念が高まっている。
きっかけはKポップのアイドルグループ「BLACKPINK(ブラックピンク)」のメンバー、ジェニーことキム・ジェニさんが2023年に投稿した1枚の画像だった。キムさんが崖の端に脚を投げ出して座った姿に、数百万件の「いいね」が集まった。投稿は後日削除されたが、画像のコピーはすでに世界中のSNSに拡散していた。
45年前からブルーマウンテンズに住み、地元の観光サイトを運営するグラハム・レイベルトさんは「景色を楽しむためでなく、この場所で写真に収まるために観光客が押し寄せている」と話す。
地元住民らによると、観光客は毎日、同じシーンを再現しようと長い列を組むようになった。ピーク時には1日に数千人が訪れ、狭い道路や駐車場を埋め尽くした。
安全面、環境面の懸念から、ブルーマウンテンズ市議会は先月、長期的な対策を検討する間の措置として、リンカーンズロックへの立ち入りを禁止した。これに対し、住民や自然保護団体、観光に依存する地元業者などから賛否両論が巻き起こった。
世界中からここだけを目当てに

リンカーンズロックは一時的に立ち入り禁止になった/Bruce Palme/Alamy Stock Photo
ブルーマウンテンズは、八つの保護地区からなるユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産。オーストラリア国内で保護対象となっている灌木(かんぼく)林としては最大級の規模だ。それだけでなく、この土地には2万2000年以上にわたる先住民の歴史が刻まれている。
先住民ガンダングラ族の長老、アンクル・デービッド・キングさんは、先祖から受け継いだ歴史や文化を訪れる人々に語り伝えている。「これまでブルーマウンテンズが開発で破壊されたことは一度もなかった」と強調し、「ほとんど手つかずの土地だ。私にとって大変神聖な場所。だから週に3回は出向いている」と語った。
ブルーマウンテンズはオーストラリアの希少な鳥、テリクロオウムの生息地でもある。世界自然保護基金(WWF)によると、現在国内に残っているのは8000羽足らずだ。
ブルーマウンテンズ保護協会のアネット・キャム会長によると、テリクロオウムは灌木林を主なえさ場としているが、人が多すぎると近寄らなくという。
キャムさんは市議会への書簡で、立ち入り禁止措置への支持を伝えた。観光客の人数を適切に管理できる十分な対策を講じるまで、開放するべきではないと話す。
ブルーマウンテンズの地域全体としては急増する観光客に対応できても、多くの人々がリンカーンズロックばかりに集中している。
そこへたどり着くには車で狭い2車線の道路をすり抜け、16台分しかない駐車スペースを確保する必要がある。
「私たちはこれまで、リンカーンズロックを観光名所として宣伝したことがなかった」と、レイベルトさんは言う。「設備もなく駐車場も足りないので、いやな思いをさせるばかりだと考えてきた」
中国・深センに住むケイ・ヤンさん(25)は昨年7月、SNSで見たアイドルの写真を再現したい、という妹につき合ってリンカーンズロックを訪れた。写真だけ撮影し、ブルーマウンテンズのほかの場所は訪れずに立ち去ったという。
