2019年にイギリスのウェスト・ミッドランズ地方ウォリックシャーで見つかった16世紀のペンダント「チューダー・ハート」取得のため、大英博物館が350万ポンド(約7億3000万円)の資金調達に成功したと発表した。
24金製で、75連の鎖が付属するこのペンダントは、畑で探索中の金属探知機愛好家によって発見された。その後、1996年制定の英国宝物法(Treasure Act)に基づき大英博物館に引き渡され、16世紀英国史に関わる重要遺物のひとつと認定された。同館はこの遺物を「大英博物館の所蔵品の中にも、またイギリス国内の他のいかなるコレクションにも類例のない品」と評している。
同館の調査により、ペンダント裏面にはヘンリー8世とキャサリンの頭文字「H」と「K」がエナメル装飾で彩られていることが判明。表面には、キャサリンの個人的紋章であり故郷スペインと豊穣を象徴するザクロの木と、王家の象徴チューダー・ローズが絡み合う意匠が施されており、その下には古フランス語で「常に」を意味する「tousiors(toujours)」の文字が刻まれていた。
ヘンリー8世とキャサリンは1509年から1533年まで24年間婚姻関係にあった。研究者らは、この華麗な宝飾品は、1518年に夫妻の娘で当時2歳だった王女メアリー(のちのメアリー1世)と、生後8カ月のフランス王太子との婚約を祝して作られたものと考えている。ヘンリーとキャサリンの結婚に直接結びつく遺物は現存例がきわめて少なく、本作の評価額は350万ポンド(約7億円)とされた。ペンダントは宝物法の規定により、2026年4月までイギリスの公的機関に優先購入権が与えられるが、それまでに購入されない場合は、発見者が所有権を持つことになる。
同館は、2025年10月にイギリス最大級の慈善基金ジュリア・ラウジング・トラストから50万ポンド(約1億円)の寄付を確保したことを受け、取得に向けたキャンペーンを開始。残る300万ポンド(約6億2600万円)を募る一般公開型の寄付サイトを立ち上げ、俳優ダミアン・ルイスも広報に参加した。
一般向けキャンペーンには4万5000人以上が参加し、総額の10パーセント超にあたる38万ポンド(約8000万円)が集まった。さらに、ロンドンに拠点を置く1903年設立の会員制慈善団体アート・ファンドが40万ポンド(約8400万円)、アメリカに拠点を置く大英博物館の公式支援団体のアメリカン・フレンズ・オブ・ザ・ブリティッシュ・ミュージアムが30万ポンド(約6300万円)を拠出した。
決定打となったのは、イギリスの重要文化遺産を守るための政府系独立基金ナショナル・ヘリテージ・メモリアル・ファンドによる175万ポンド(約3億6500万円)の支援だ。これにより、期限の2カ月前に目標を達成することができた。
設立から45年を迎える同基金は、これまでに約1500点の文化財取得を支援してきた。今回の援助について、同基金の会長サイモン・サーリーは声明で次のように述べた。
「チューダー・ハートを、国民共有の文化遺産として永く残されるコレクションの一部として迎えられることを喜ばしく思います。チューダー・ハートはヘンリー8世の宮廷文化を理解するうえで極めて貴重な手がかりを与えるものです。本基金の支援によって一般公開が可能となり、人々が鑑賞し、この魅力的な時代について学ぶことができることを嬉しく思います」
一方で、大英博物館館長のニコラス・カリナンは、キャンペーンへの協力者に謝意を表する声明の中で、以下のように語っている。
「今回のキャンペーンの成功は、歴史が人々の想像力をかき立てる力を持っていること、そしてチューダー・ハートのような品がなぜ博物館に収蔵されるべきなのかを示しています。この美しく残された遺品は、これまで私たちの多くがよく知らなかった英国史の一側面を伝えてくれるものであり、今やそれを誰もが共有できるようになりました」
さらに、同館ルネサンス・ヨーロッパ部門のキュレーター、レイチェル・キングは声明で、「チューダー・ハートとその発見の物語を世界と共有できたことは、大きな喜びでした。博物館のキャンペーンに寄せられた前向きな反応に、私は深く心を打たれています。多くの方々の並外れた寛大な支援のおかげで、この品はこれからも公共のもとで長く鑑賞され続けられるようになりました」と話し、今後は、ペンダントを誰が所有し、どういった場面で着用していたのか、そしてどのような経緯で地中に埋められることになったのかという謎が解き明かされていくことに期待を寄せている。
「チューダー・ハート」は現在、大英博物館で展示されている。同館は現在、発見地であるウォリックシャー近郊を含む全国巡回を計画中だ。(翻訳:編集部)
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