この春、茨城県水戸市泉町に新たな美術館「クヴェレ美術館」が誕生します。
同館は歴史的に貴重な洋風建築として知られる旧川崎銀行を改装した文化施設「テツ・アートプラザ」内に新設され、福田三千男が収集した日本近現代の絵画と工芸作品、さらに市内のコレクターである故・吉田光男氏(吉田石油前顧問)より寄贈されたシルクロードの仏教美術や陶磁器を中心に展示を行います。
そこで今回は、開館日の2月14日から開幕する「クヴェレ美術館 開館記念展Ⅰ Meet 美の交差点 近代日本画と東洋陶磁」を中心にその概要をまとめました。

クヴェレ美術館 開館記念展 Ⅰ
Meet 美の交差点 近代日本画と東洋陶磁
会場:クヴェレ美術館(茨城県水戸市泉町3-2-3)
会期:2026年2月14日(土)〜7月5日(日)
開館時間:10:30〜17:30(毎週金曜日は夜間開館19:00まで)
※最終入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日。毎月第2火曜日、2月24日、4月23日〜4月27日、5月7日
※ただし2月23日(月・祝)、5月4日(月・祝)は開館
観覧料:一般・大学生 700円 / 高校生以下 無料
アクセス:
<公共交通機関>
JR 東京駅から常磐線特急で約75分、水戸駅下車、北口バスターミナル4-7番のりばからバスで「泉町三丁目」下車、横断歩道を渡ってすぐ。
<乗用車>
常磐自動車水戸IC から約20分。※提携駐車場あり
詳細は、クヴェレ美術館(テツ・アートプラザ)公式サイトまで。
クヴェレ美術館と開館記念展について
「クヴェレ(Quelle)」とは、ドイツ語で「泉」を意味します。テツ・アートプラザが建つ「泉町」にちなんで名付けられました。湧き出る泉に人々が集い、交流が生まれる憩いの場となるようにとの願いが込められています。
同館のコレクションの中心は、福田三千男(同財団理事長)が収集した日本近現代の絵画と工芸作品、市内のコレクター故・吉田光男氏より寄贈されたシルクロードにまつわる作品や陶磁器約630点です。
©MOON LIGHT 小沼渉写真事務所
コレクションの内訳
・近現代の日本画・近代洋画 約270点
(横山大観、小川芋銭、藤田嗣治、中村彝など)
・シルクロードの仏教美術、陶磁器 約250点
・伊万里染付大皿 113点
そこで開館を記念して、クヴェレ美術館を代表するコレクションから、3期にわたり幕開けにふさわしい選りすぐりの名品たちがお披露目されます。
まず、2月14日からスタートする第1期「Meet 美の交差点 近代日本画と東洋陶磁」では、近代日本画と東洋陶磁を中心とした作品を展示。茨城県ゆかりの横山大観や小川芋銭のほか、上村松園、竹内栖鳳など巨匠たちの作品と、インド、地中海、中国、朝鮮半島そして日本と幅広い地域から集められた工芸作品が来館者を出迎えます。
※全絵画作品と一部工芸作品は前期(~4月22日)と後期(4月28日~)で展示替えします。(前期、後期で各25点展示。工芸作品は通期展示で約70点展示予定)
※前期・後期に展示する作品は変更となる可能性あり
※以降、本記事内で紹介する作品はすべてクヴェレ美術館蔵
開館記念展の3つの見どころ
見どころ1: 茨城ゆかりの作家たちの作品を公開!
水戸市を代表する日本画家、横山大観をはじめとした茨城県にゆかりのある作家の作品が公開されます。菱田春草、下村観山、木村武山は、横山大観と共に岡倉天心に従い、北茨城市にある五浦の地で研鑽を積みました。また、牛久出身の小川芋銭は、茨城県内に伝わる河童や妖怪などの伝承を元に、多くの作品を残しました。
【後期展示】横山大観《白牡丹》大正14年(1925)
【前期展示】小川芋銭《河伯安住所》昭和4年(1929)
下館(現筑西市)出身の板谷波山も茨城が誇る近代陶芸家です。光を包み込むような淡い色彩が特徴の「葆光彩磁ほこうさいじ」と呼ばれる技法を用い、陶芸家として初の文化勲章を受章しました。水戸市出身の彫金家で、帝室技芸員として活躍した海野勝珉しょうみんの作品も併せて紹介されます。
【前期展示】板谷波山《葆光彩磁延壽紋様香爐》大正後期
開館記念にふさわしく、縁起の良い鶴に吉祥文様の松が描かれた、豪華な金屏風の横山大観《放鶴》をはじめとする茨城ゆかりの作家たちの華々しい作品の数々を堪能できます。
【前期展示】横山大観《放鶴》大正1~2年頃(c.1912-13)
見どころ2: 近代日本画を代表する作家たちの競演
クヴェレ美術館の近代日本画のコレクションを彩る選りすぐりの名品が紹介されます。速水御舟、那波多目功一など、大観らが所属した日本美術院の作家の作品や、大観と同時代に活躍した竹内栖鳳をはじめとする京都画壇の作家たち。加えて、美人画の巨匠である上村松園・鏑木清方の眉目麗しい美人画作品が公開されます。
【後期展示】速水御舟《芙蓉風花》昭和9年(1934)
速水御舟はその時代ごとに特徴的な様式を持つ画家で、細密画と呼ばれる写実的な表現が特に有名ですが、それらの時期を経たうえで極められた、様々な表現をもとに描かれた最晩年の代表作《芙蓉風花》が展示されます。
【後期展示】竹内栖鳳《慈母》昭和16年(1941)
竹内栖鳳もまた、写生に重きを置いていた画家であり、その観察力とそれを表現する確かな実力で描かれた作品は、見るものを引き付ける魅力があります。
【後期展示】上村松園《長夜》明治40年頃(c.1907)
【前期展示】上村松園《雪》昭和17年頃(c.1942)
上村松園《長夜》は、福田三千男がコレクションを本格的に収集するきっかけとなった一作で、描かれている着物や、和綴じ本の装幀に金や銀があしらわれた豪華な作品です。西の松園、東の清方と称されたように、鏑木清方の美人画との競演も楽しめます。
見どころ3: 珠玉の東洋陶磁コレクション、初公開!
故・吉田光男氏から寄贈された工芸作品の多くは、その1点1点が味わい深く、琴線に触れた作品を収集した珠玉の個人コレクションです。コレクションの特徴はシルクロードにちなむ東洋美術を中心としている点にあります。そのなかでも開館記念展Ⅰでは、インドからはじまり日本の古陶磁に至る幅広いコレクションの流れを一望できます。
また、吉田氏は自身で集めた収集品に関して数編のエッセイを残しています。展示では、それらのエッセイを交えながら、吉田氏の作品に対する思いも紹介されます。
【通期展示】《白瑠璃碗》ササン朝ペルシア
【通期展示】《塑造加彩武人》唐時代
コレクションの特徴1 小さきものへのまなざし
吉田コレクションの特徴のひとつが、小ぶりな愛らしいサイズの作品が多いことにあります。そのため展示室にもそれらの作品を並べるための展示ケースが設けられました。サイズこそ小さいもののいずれも存在感とメリハリのある一流の作品です。今回は磁州窯と青磁や緑釉といった青と緑色の色彩が印象的な作品を中心に披露されます。
【通期展示】《青磁天鶏壺》西晋時代
コレクションの特徴2 朝鮮半島の美術
朝鮮といえば白磁や高麗青磁の印象が強いですが、吉田氏は百済や新羅の仏教遺跡にまつわる品々にも着目して収集しています。それもひとえにシルクロードにおける大陸の最東端が朝鮮半島に位置していたからでしょう。精巧な金属製の風鐸ふうたくや華やかな装飾の宝相華文ほうそうげもんの塼せんなどは大陸での東西交流の軌跡がしのばれます。点数は多くありませんが、シルクロードという視点から見ると奥深いコレクションとなっています。
【通期展示】《宝相華文塼》統一新羅時代
【通期展示】《金銅風鐸》伝高麗時代
コレクションの特徴3 日本の古陶磁
吉田コレクションの古陶磁は瀬戸、渥美、丹波、信楽を中心に優れた作品が多く含まれています。中でも「不忍」の銘をもつ信楽焼の大甕は一説によると戦時中の所蔵者が空襲から避けるために上野・不忍池に隠したという、大切に守り継がれてきた傑作です。
コレクションに含まれる信楽や渥美といった産地で焼かれた古陶磁は1970年代ごろから主に花を、それも野の花を活ける器として集めたようです。当時のオイルショックによる殺伐とした世相から逃れるように郊外の野辺で摘んだ花を活けることを楽しみにしながら一つ一つ収集された壺はいずれも土そのものの力強さと幽玄な美しさに満ちています。
【通期展示】《信楽大甕 銘「不忍」》鎌倉時代
【通期展示】《古瀬戸灰釉草葉文広口壺》鎌倉時代
本展は、クヴェレ美術館の門出にふさわしい、多彩で奥行きのあるラインナップとなっています。横山大観から上村松園、速水御舟、竹内栖鳳まで、近代日本美術の名品の数々に加え、ササン朝の白瑠璃碗や西晋の青磁天鶏壺といった東洋陶磁が一堂に会します。春から初夏へと移ろう季節、水戸芸術館や偕楽園とあわせて巡れば、一日を通して「美の交差点」を体感できそうです。新しい文化拠点の船出を、ぜひ現地で見届けてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)
