英国の遺産を背負う SANS-SERIFが示す「一点物」の矜持提供:FLOTATION

「役目を終えた素材を、再び生活の道具へ」。京都のアップサイクルブランド・サンセリフが、英国バスの行き先表示幕を再定義した。単なる懐古趣味に留まらない、現代のビジネスシーンにまで通用する実用性と哲学を紐解く。

 

英国の路上から京都の工房へ。バスロールサインが刻む新たな時

京都を拠点に活動するアップサイクルブランド「SANS-SERIF」が、ブランド設立10周年の節目に野心的な新作を世に送り出した。2026年2月9日からクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売が開始されたのは、1980年代から90年代にかけて英国の路線バスで実際に使用されていた「バスロールサイン」を主素材とした2wayスタイルのバッグである。

かつてロンドンや地方都市の街角で、乗客に行き先を告げ続けてきたキャンバス地の方向幕。その一節を切り出し、ショルダーバッグとバックパックという二つの顔を持つ現代的なプロダクトへと昇華させた。一見すると大胆な試みだが、その仕上がりは極めて洗練されている。

記号としての「意味」を「機能」へと転換する独自のアプローチ

他社のアップサイクル製品と一線を画すのは、その素材選びと、素材に対する「敬意」の払い方にある。多くのブランドが廃材を単なるパッチワークや装飾として扱うなか、代表の藤川和也氏は、その素材が持っていた本来の文脈を重んじる。

今回採用されたバスロールサインは、地名や路線番号がタイポグラフィとして刻まれた歴史の断片だ。これを倉敷キャンバスや姫路レザーといった、日本が誇る堅牢な素材と組み合わせる。特筆すべきは、単なるデザイン性の追求に終わらず、15インチのノートPCに対応した内装ポケットや、スーツケースに固定できるホルダー機能など、現代の移動を支える「道具としての強度」を優先している点だ。

「同じ表情をしたバッグは、この世に二つと存在しません」と語られる通り、どの地点のどの文字が切り取られるかによって、製品の性格は一変する。それは、大量生産・大量消費の時代に対する、静かなるアンチテーゼといえるだろう。

捨てられる運命を「唯一無二の価値」に変えるアップサイクル哲学

 

このプロジェクトの背景にあるのは、単なる「再利用」を超えた深い哲学だ。サンセリフはブランド設立以来、役割を終えた素材に、再び「使うもの」としての命を吹き込むことに腐心してきた。

バスロールサインは、デジタル化の波に押され、その役目を終えて久しい。しかし、長年の使用によって刻まれた擦れや風合いは、新しい布地では決して再現できない重みを持っている。藤川氏は、その「古さ」を「欠陥」ではなく「物語」として捉え直した。

古いから価値があるのではなく、古さを経た素材が現代の機能と出会うことで、新しい価値が生まれる。この逆転の発想こそが、サステナビリティが叫ばれる現代において、同ブランドが10年という歳月を生き抜いてきた理由に他ならない。

文脈の再構築から学ぶ、持続可能なビジネスの核心

SANS-SERIFの取り組みから我々が学ぶべきは、既存の価値観をいかに疑い、再定義するかという視点だ。素材を「ゴミ」と見るか「資源」と見るか。その境界線は、デザイナーの技術以上に、その背後にある「哲学」によって決まる。

伝統を重んじつつも、決して保守に陥らない。京都という土地で培われた美意識が、英国のビンテージ素材と呼応し、世界で唯一のバッグへと結実する。この「文脈の掛け合わせ」こそ、多くの企業が模索するオリジナリティの源泉ではないだろうか。

単に環境に優しいだけでなく、所有することの喜びと実用性を両立させる。このバッグを背負うことは、一つの物語を継承することに他ならない。