デジタルの時代に、人の気持ちを写すことが、どれほど豊かなことかを思う。写真一枚が語る“共感”、映像がつなぐ“記憶”、プリントが残す“つながり”。それは、言葉を超えた、感情の共有のかたち。このシリーズ企画では、SDGsの時代において、デジタルイメージングが人の感性や暮らしに寄り添い、持続可能な幸福やつながりをどのように育んでいけるのかを探っていきます。

小さなコンデジから始まった小山氏のカメラ歴は、キヤノン入社後、宇都宮工場で出会った“カメラ仲間”によって一眼レフの世界へと広がっていった。絞りやISOを教わりながら、花の葉脈や星空の輝きに驚いた原点がある。やがて結婚式では撮影を頼まれる存在となり、撮った写真をフォトブックやプリントにして手渡すたび、「やっぱり嬉しい」と喜ばれる経験が積み重なっていった。

小山氏に話を聞くと、カメラは技術を磨くための道具というより、家族の時間をつなぐ「共通言語」だという。写真が共通の趣味だった奥さまとは、旅先で風景を撮るなど小さな楽しみを重ねてきた。いまレンズが向かう先は娘さんの一瞬であり、「奇跡の一枚」を狙って家族の記憶を育んでいる。そしてその写真は、フォトブックやカレンダーとして日本の両親にも届けられ、離れて暮らす家族の時間を共有しているそうだ。

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Toggle教わって、撮って、ハマっていく。カメラ仲間と出会い、
一眼に触れて視界が広がった日々ーー小山さんのカメラ歴について伺います。キヤノンに入社されて一眼レフを手にされたとのことですが、その前、学生時代はカメラとどんな接点がありましたか。ー入社後、一眼レフを手にすることになった背景は?ー当時はどんな被写体を撮っていましたか。ー宇都宮を離れてから、撮影スタイルは変わりましたか。写真を“形にする”フォトブックとプリントで思い出と暮らすーカメラが活躍した場面として印象深いものは?ープリントには、データとは違う価値があると。レンズの先にあるのは、家族とカナダの時間ーキヤノンのカメラの魅力を、使い勝手や描写も含めて言葉にすると?ースマホカメラが高性能な時代に、あえてカメラを手に取る価値は?ー写真がきっかけで、人との距離が縮まった実感はありますか。ーカナダで写真を撮る楽しさはどんなところにありますか。ー残りの任期で、カナダで撮りたい場所はありますか。教わって、撮って、ハマっていく。カメラ仲間と出会い、
一眼に触れて視界が広がった日々

ーー小山さんのカメラ歴について伺います。キヤノンに入社されて一眼レフを手にされたとのことですが、その前、学生時代はカメラとどんな接点がありましたか。

学生時代は、いわゆる手頃なコンパクトデジカメを使っていました。キヤノンでいうと「IXY」のような機種で、学生旅行の写真を撮っていましたね。振り返ると、就職活動や内定以前から、何となく写真は好きだったのかもしれません。旅行のときは自然と「写真係」になることが多く、友人から「撮ってよ」と頼まれる役回りでした。

ー入社後、一眼レフを手にすることになった背景は?

入社後の最初の配属が、レンズを作っている宇都宮工場でした。周囲にはカメラ好きの同期が多く、「これからカメラ開発に携わる」という技術系の仲間に囲まれていたので、そこで自然と一眼レフに触れるようになりました。
最初は絞りやISO感度、シャッタースピードなども分からなかったのですが、詳しい仲間が多かったので教えてもらいながら覚えていきました。宇都宮で過ごした最初の4年間が、一眼レフとの出会いです。

そのとき会社で借りたのが、「5D Mark II」などの当時の最高機種でした。新社会人には贅沢な機材ですが、「こんなに撮れるのか」と感動したのを覚えています。いわゆる「ボケ感」が出て、雑誌などで見るプロの写真はこうやって撮るのだと実感しました。

マニュアル設定を覚えるのは大変だと思う人も多いと思いますが、私の場合は、教えてくれる人が側にいたことが大きかったです。普段はオートで撮ってしまうことも多いのですが、設定を変えることで写真がどう変わるのかを自分の目で確かめられるのは、とても面白いと感じています。

ー当時はどんな被写体を撮っていましたか。入社直後(2014年前後)の栃木県にて。クレマチスという花のようです

最初に自分で撮影した写真で感動したのは花の写真でした。葉脈や花びらの筋まで写ることに驚きました。構図や撮影ポイントについて宇都宮のカメラ仲間に教えてもらい、基本を学びながら撮りました。この一枚も、すんなり撮れたわけではなく、何枚も撮っては「違う、違う」と試行錯誤した末の写真です。

また、宇都宮にいた頃は星空撮影もしました。廃校を宿泊施設にした場所に泊まり、夜に校庭へ出て撮影する。周囲は木ばかりで光が少なく、星空を撮るには良い環境でした。今までやったことのない世界に、カメラ好きの仲間たちと一緒に入っていく経験は新鮮でした。

ー宇都宮を離れてから、撮影スタイルは変わりましたか。マルタに短期留学した時(2018年)

宇都宮のように「写真を撮るために出かける」仲間がいる環境ではなくなると、日常では高品質のコンデジを使うことが増えました。私の場合は「G7」のような機種です。自然と旅行先などで風景を撮ることが中心になりました。

結婚式前撮り時(2021年)の写真結婚式前撮り時(2021年)の写真

その後、妻と出会ったのですが、結果的に妻も写真が好きでした。知り合って仲良くなる中で、共通の趣味として写真があると分かっていった感じです。私と妻の共通の楽しみは、旅行先で写真を撮ることと、美味しいものを食べることですね。妻は当時からキヤノンの一眼を持っていて、趣味の延長で望遠で撮影するタイプです。設定も理解していて、ピントや絞りについて具体的に話すほど詳しい面もあります。

写真を“形にする”フォトブックとプリントで思い出と暮らす近所の公園にて、紅葉(2025年10月)ーカメラが活躍した場面として印象深いものは?

30歳前後から、友人の結婚式で撮影を頼まれることが増えました。式場カメラマンの邪魔にならないよう周りを動き回りながら撮り、後日フォトブックにまとめて新郎に渡す。式場側でも写真は用意してくれるのですが、友人としての視点で撮った写真を選んでプリントし、形にして贈ると、やはりとても喜ばれます。

家族の写真も同じです。娘が生まれてから1歳になるまでの写真を選び、小さなフォトブックにして両親に渡したことがあります。最近は、1月から12月まで娘の写真でカレンダーを作って日本に送り、「カナダでこんなふうに過ごしているよ」と伝えたところ、とても喜ばれました。

日本とカナダのように物理的な距離があると、写真はどうしてもデータのまま埋もれてしまいがちです。けれど、フォトブックにして手に取れる形にすると、一枚一枚を自然に何度も眺め、ページをめくるたびに記憶が立ち上がってくる。見返す時間そのものが、家族で思い出を「共有し直す」時間になります。便利な時代だからこそ、あえて形に残すことで気持ちまできちんと届く、フォトブックにはそんな確かな価値があると実感しています。

ープリントには、データとは違う価値があると。

データだと、スマホやパソコンに写真が山ほど溜まっても、結局は見返さないまま眠ってしまいがちです。だからこそ、飾ったり、いつも目に入る場所に置いたりすることで、思い出す機会が自然と増えます。私にとって「プリントする」というのは、単に残すためではなく、「思い出と暮らす」ために大事なことだと思っています。海外の家では、家族写真を額装したりパネルにしたりして、階段や廊下にずらっと並べて飾ることが多いとよく聞きますが、あれはまさに日常の中で思い出が息をし続ける仕組みなんだと思います。

私自身も、娘が生まれてから半年くらいまでの写真を選んで切り取り、仕事部屋に飾っています。写真を「並べる」だけで、成長のスピードが目に見える形になって、ふとした瞬間に「こんなに大きくなったんだな」と実感できるんですよね。忙しい日々の中でも、視界に入るたびに心が少しほどけるような、そんな存在になっています。

プリンスエドワード島へ家族旅行に行った際の写真(2025年9月)

ただ、娘の写真は簡単には撮らせてくれません。むしろ「奇跡の一枚」になることが多いです。笑ってくれる瞬間も限られますし、目線や表情、光の具合が揃うこともなかなかない。だからこそ、撮る側も工夫が必要で、我が家では自然と役割分担ができました。一人はあやす係、もう一人は撮る係。二人で息を合わせて、ようやく「その瞬間」が形になります。そうやって撮れた一枚は、データ以上に手応えがあって、プリントして飾った時の嬉しさもまた格別です。

近所の公園にて、夏(2025年7月)ナイアガラオンザレイクのチューリップ畑にて(2024年)レンズの先にあるのは、家族とカナダの時間

ーキヤノンのカメラの魅力を、使い勝手や描写も含めて言葉にすると?

私はレンズを何本も付け替えて使い込むタイプではありませんが、マクロ、フィッシュアイ、超望遠など、レンズのラインナップが豊富で、フルラインナップで楽しめるのは強みだと思います。
また、ポートレートに強みがある印象です。あるがまま撮れる一方で、光を程よく整えてくれるような感覚があり、結果として「いい感じ」に仕上がる。操作もしやすく、オートでもボケ感が出て「写真家っぽい一枚」になるのも魅力だと思います。

ースマホカメラが高性能な時代に、あえてカメラを手に取る価値は?

一つは「不自由を楽しむ」という趣味性だと思います。スマホなら簡単に良い写真が撮れますが、カメラは制約の中で設定をいじり、たどり着いた渾身の一枚ほど思い入れが強くなる。キャンプが「不自由を楽しむ」のに似ています。

また最近はAIで画像を作れる時代ですが、フィクションはいくらでも作れる一方で、「自分が実際に見て体験したもの」を形として残せるのが写真の強さだと思います。

ー写真がきっかけで、人との距離が縮まった実感はありますか。

宇都宮の仲間はまさにカメラの仲間ですし、結婚式の写真を撮ってフォトブックを渡すことで、新郎だけでなく新婦ともつながりが深まった感覚はあります。
カナダでは多国籍な環境なので、週明けの挨拶で「週末どうだった?」と聞かれたときに写真を見せると話が弾みます。職場に飾っている娘の写真も「いいね」と声をかけてもらえますし、挨拶以上の踏み込んだコミュニケーションが写真から生まれることはあります。言語の壁を越える場面も多いと思います。

ーカナダで写真を撮る楽しさはどんなところにありますか。

自然が多いということ、公園も多いので小さな子どもとの相性が良いし、撮影スポットは多いですね。建物も魅力的ですが、夏の日差しがきれいで、東京のようなどんより感が少ないのも撮影に向いています。刺激という意味では物足りない場所もあるかもしれませんが、のどかさや穏やかさの魅力は大きいです。

写真に囲まれることは、思い出に囲まれることにつながると思います。カナダ駐在の貴重さは、後になってからしみじみ感じるものだと思うので、日々で精一杯でも、きちんと形に残しておきたいですね。娘の1歳から6歳くらいの成長は、私のカナダ生活と重なります。私にとってカナダは、娘の成長とともに思い出す場所になると思います。

場所や時間の距離を越えて当時の雰囲気を思い出せるのが写真の良さです。撮って、プリントして、身近に置くことで、思い出はさらに身近になる。これからも、写真を撮り、プリントし、思い出に囲まれながら暮らしていくのだと思います。

ー残りの任期で、カナダで撮りたい場所はありますか。

一番はバンフです。有名な景色の場所で娘と一緒に写真を撮り、額に入れて飾れたら最高だと思います。アルゴンキンもまだ行けていないので、紅葉がきれいな時期に写真を撮りたいですね。